1章10話 朝原茜は幼馴染を奪われたくない。(2)
無言で頷く。……が、どうしよう!? こんななことを言って、理央に嫌われたら俺は生きていく希望を失ってしまう!
すまない理央! どうしてもダメな事情があるんだ! どうにか察してくれ!
と、そんな俺の不安を知ってか知らずか。
理央はにこっ――と頬を緩ませて言ってきた。
「しょうがないな~、弥代は。幼馴染にそんなこと言われたら、引き下がる他ないじゃないか」
慈愛に満ちた表情で、理央が俺のことを優しげに見つめてくる。ふと垣間見せる微笑みに、俺は心を奪われた。
クソッ、理央が本当に女子だったら……!
「でも、意外ね」
「なにが?」
「あたしは弥代のことだから、女子との約束なんて破るのかと……」
茜が会話に復帰する。確かにこれが星宮ではなく、信頼に値しない女子、つまり、向こうこそ約束を破りそうな女子だったら、それも考えただろう。
でも、俺にだって約束は守らないといけないという一般常識ぐらいはある。
「いくら女子が嫌いでも、約束は守るさ」
「あたしはつくづく思うけれど、言動に反して弥代って真面目だよね……」
「真面目じゃないだろ。最低限の常識だけ、守っているだけだ」
「そうだけど、普通、酷い言動している人ってそれさえも守らなくない?」
逆に、茜はサバサバしすぎだろ。良く言えばアッサリ、悪く言えばテキトーだ。
いや、それは茜の個性だし、俺としては気兼ねなく接することができて喜ばしいことなんだが……。
と、ここでまたもや俺のスマホが振動した。
取り出して画面を確かめる。
「誰から?」
「……星宮から」
「「え――っ!」」
言うと、2人は一斉に驚愕した。唖然とした。
まるで信じられない、非現実的な出来事に遭遇したかのごとくに。
「弥代! あんた、委員長と連絡先交換したの!? あたしと家族以外の女子の名前がスマホに載っているの!?」
「ど、どうした、声を荒らげて……? まぁ、その通りだが……」
「二重の意味で驚いてんの! 委員長が弥代となんかと連絡先交換したことと、弥代が女子と連絡先交換したことに!」
茜はどうやらご乱心の様子だ。
確かに、星宮はみんなの憧れの美少女で、一方、俺はそんな美少女にも今まで一切興味を示さなかったほどの女子嫌いだ。だから少しぐらいなら驚くのも理解できるが、ここまで大げさに驚かなくても……。
「そ、それでなんて届いたのっ?」
ここにきて理央までもが興味を示してきた。なぜか涙目で、寂しそうに俺のことを上目使いで、不安そうに見上げてくる。
それはもっとイジメてみたいというか、被虐心を煽ってくる。あれだな、好きな女子をイジメたくなっちゃうたそお小学生男子の心理。まぁ、実際にはするわけがないけど……。
とりあえず、俺はメールを確かめるためにスマホをタッチした。
『こんばんはっ! 星宮です。
今日は話を聞いてくれてありがとね!
わかってると思うけど、わたしの秘密、誰にもバラしちゃダメだよ?
わたしも弥代君の秘密ばらさないから!
このことは2人だけのヒミツ、約束だよ』
ずいぶんとまぁご丁寧に。
このメールがクラスの男子に広まったら、俺は毎日のように質問攻めに遭うんだろうな。
と、そんな雑感を抱きつつ、俺はスマホをポケットにしまった。
その様子を眺めていた理央と茜のうち、先に動いたのは茜だった。
「なんて送られてきた?」
「簡単にまとめると、今日のことは2人だけの秘密だよ、って」
「ッッ――ガアアアアアアアア――ッッ! 話してよ! 一番重要な『2人だけの秘密』を説明してよ!」
「諦めたんじゃなかったのか……?」
茜は悶えて、そして獣のようにうなって俺を威嚇してくる。正直ちょっと怖い。
で、次に動いたのは理央だった。
「あれ? 返信しないの?」
「……社交辞令のはずだし、俺の普段の言動を考慮すれば、返信するよりしない方が相手は気が楽、ってこともある。それに、相手が気にならない男子だったら、女子は翌日に、ゴメン! 寝てた! ぐらいしか返さないだろ」
「でもさ、委員長は今まで弥代が想像してきた女子と違うかも知れないんだよね? だったら一度ぐらい、弥代の方から歩み寄ってみたら?」
「……星宮も歩み寄ってくれたから、1回だけは……」
理央に促されて、返信することにした。
再びポケットからスマホを取り出して、当たり障りない文面を考えて、文字を入力する。
『こんばんは。
今日のことは気にするな。秘密を教え合ったんだしお互い様だ。
秘密は絶対に守る。根拠は単純明快で、約束したからだ。
だから安心しろ。また明日、学校で』
こんなもんか?
3回も確認して無難な内容だな、と思ったので送信。
その際、情けないことに指は震えていた。若干の躊躇いもあった。
家族と茜以外の女子にメールするのって、これが人生で初めてだっけ? それは緊張もするわ。
「ところで、いつ委員長と連絡先交換したの?」
「公園で話してたんだが、そのあと、お前らを解散させるために学校に戻っただろ? その少し前だ。公園から学校までの道のりで」
「待ち伏せてもこないと思ったら公園にいたのか……なんたる失策!」
口調でわかるぐらい茜は悔しがっていた。そしてどこか拗ねていた。
別にそこまで悔しがらなくてもいいだろ……。
「つーか、お前らあんな寒い中、体育館の裏でずっと待ってたのか?」
「だって気になるし……」
子どもっぽく唇を尖らせて拗ねる茜。
そして茜は道路に転がっていた小石を小さく、八つ当たりするように蹴った。
「大変だったんだよ? 弥代が現れるまでクラスのみんなどころか、他の学年の男子まで動き出して」
「はぁ? なんで? 星宮の人気ってマジでそこまでなの?」
「うん、マジで。それでたくさんの男子が校内捜索をし始めて、結構先生に怒られた生徒も多かったし」
「本当にラブコメのヒロインみたいなヤツだな……」
理央が補足説明してくる。
もし俺たちが例の話を体育館裏でしていたら、間違いなく俺は大なり小なり巻き添えを喰らって、星宮は社会的に死んでいたな。星宮の公園で話そうという判断には賞賛を送らせていただきたい。
と、ここでまたもやスマホが振動した。
どうやらメッセージのようで、送り主は――、
「星宮……?」
意外だった。
まさか本当に返事をしてくれたのか?
理央と茜の興味津々な態度を無視して、俺は慌ててロックを解除する。
で、返信にはなにが書かれていたかというと――、
『改めて、ありがと、弥代くん。
さっきハグして証明したとおり、わたしは弥代くんのこと、信頼してるからね!
ホントは普通にお話したいんだけど、晩御飯作らなくちゃいけないから、また今度電話してもいいかな?
じゃあ、また明日、学校で会おうね!』
明らかに、俺は戸惑っていた。それを自覚できていた。
もちろん星宮がメチャクチャ優しいっていうのもあるんだろうが……女子が俺に充てたメッセージがこれって、マジで?
今日、星宮と話してみて知ることができた。少なくとも星宮は人の話をちゃんと聞いてくれた。一般的に男子よりもダメージがデカいと思われるノーパン姿を見られても、理不尽に暴力を振るうこともなかった。
そしてあの態度からして俺の過去、トラウマを誰かに喋ることもありえないだろう。そして、この本当に普通の高校生みたいなメール。
間違いなく、星宮は今まで嫌っていた女子とはどこか違っていた。その事実に俺は――、
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