1章9話 朝原茜は幼馴染を奪われたくない。(1)
あれから30分後――、
現在、俺は理央と茜の3人で帰宅の道を歩いていた。
「本当に告白されてないの?」
「しつこいぞ。告白なんかされてもいないし、してもいない」
「だったら何を話してたのよ!?」
合流してから、茜はずっとこんなことを問い詰めてきた。
当然、俺はウソなんか吐かない。ただ、真実を話すわけにもいかないだけで……。
「それは星宮との約束でバラすわけにはいかない」
「うぅ~~」
攻撃的な獣のように唸る茜。俺はその唸り声をそ知らぬ顔でやり過ごす。
だが、ここで思わぬところから攻撃を仕掛けられる。
「でも委員長、弥代と体育館裏にきてみんなに解散を促した時、弥代のことを名前で呼んでいたよね? それはどう説明するの?」
「理央までそんなことを……。星宮が俺のことを名前で呼んでいいか、って訊いてきたから、デメリットも特にないし了承しただけだ」
2人は疑いの視線を俺に送り続ける。
理央は明らかにいじけていて、道に転がっている小石を蹴り続けている。茜に至っては口調を荒々しく強めて、俺に攻撃しているようだった。
「でも、おかしいじゃん! 弥代ってあたし以外の女子に、名前で呼ばれることを許可したこと一度もないはずなのに! 女子が嫌いだから!」
「あぁ、そうだ、俺は女子が嫌いだ。他人のスマホを勝手に覗いた挙句、少し友達の女子と話しているだけで浮気者と男子を罵って! 逆に男子が女子のスマホを覗いて本当に浮気が発覚すると、他人のスマホを覗くような常識のない人だとは思わなかった、とかなんとか言って自分を正当化する逆切れを披露する! そんな傾向のヤツらに名前で呼ばれてみろ!? もちろん絶対なんてことはありえないが、裏がないとも言い切れないはずだ!」
「でも、委員長はいいんだ?」
理央の微笑みが怖い。声も平坦、表情は微笑。それなのになぜここまで恐怖を感じるのだろう?
でも理央に責められるのなら別にいいかな。なんか、性別を超越した可愛さがあるし。オスでもメスでも小犬が可愛いのと一緒かもしれない。
「珍しく理央が食い下がるな……。そうだな……、強いて言えば成り行きでとしか……」
「じゃあ、どういう成り行き?」
「やむを得ない事情で避けられない会話をすることになって、そこで名前で呼んでもいいって訊かれたんだ。で、そこで断ったら星宮が恐らく傷付き、話し合って出した結論にも影響が出るかなぁ、って」
「絶対におかしい! 普段の弥代だったら女の子が泣こうが、叫ぼうが、助けを求めようが、高笑いしてバカにするのに!」
「待て茜! 俺はそこまでゲスじゃない!」
俺が否定すると、2人ともそんなことない、と、そう言いたげなオーラをかもし出した。
いや、流石にそれは俺でも傷付くぞ。いくら嫌いでも目の前で泣かれたら心配ぐらいするさ。
「でも、委員長ってあたしみたいにテキトーな性格じゃないし、むしろ花も恥らう可憐な女の子でしょ。同姓からは憧れられていて、異性からも好かれている。女の子の中の女の子。一番弥代が嫌っていそうな人じゃない」
「率直に言うと、その性格の問題だよ。さっきも言ったがやむを得ない事情で避けられない会話が発生して、で、実際に話してみると、こんな俺にも友好的だってことは認めざるを得なかった」
「…………むぅ」
「昼間は地雷の威力を考えたらその確率なんてどうでもいい、って言ったが、星宮が地雷じゃないってわかったなら、そこは正当に認識する。星宮はたぶん…………天然のお人好しだと思うよ」
「で、なに? 弥代は委員長の温かさに触れて、少しは女子に対する考えを改めたの?」
「いや、全然。星宮に関しては俺の偏見だったとしても、女子に対する嫌悪感は変わってない。語弊が生じそうだから言っておくが、俺は女子という個人を嫌ってんじゃない。女子のイメージを嫌ってんだ」
「どういうこと?」
「いいか理央? たとえば、とある女子が自分を可愛いと褒める相手に対して『そんなこと全然ないよ! Xちゃんの方が可愛いし!』って言ったとする。でもXちゃんは褒めた相手に対して『当たり前だ。私の方が可愛いに決まってるし。お前を褒めたのはお世辞だよ』と思っているわけ。さらにXちゃんの方が褒めた女子は『もっと私を褒めろよ。私が可愛いのは当たり前だろ。否定したのは社交辞令だ』と思っている」
「あ、相変わらず具体的だね……」
ドン引きする理央。確かに生々しいけれど、そっちのほうが想像しやすいだろ?
ちなみに茜も声には出さないがドン引きしたご様子。
「でも、これは女子という属性全体のステレオタイプであって、当然そこから外れた女子もいる」
「つまり委員長こそ、弥代が持っている女子のイメージから外れた子、って解釈でいいのかな?」
「そういうこと」
とりあえず今の説明で理央と茜は理解してくれたようだ。
心理的に納得しているかどうかは不明だけど。
「で、話を最初に戻すと、弥代は委員長となにを話したの?」
「自分の望む答え以外を認めない質問に意味があるのか?」
「うぐ……っ」
「たとえ真実を言っても茜は信じないだろ? 茜……というかクラスのヤツらは自分たちにとって都合のいい答えしか求めていないんだよ。俺も少しは場の雰囲気とかを大切にした方が社会に出た時、早く順応できるんだろうが……空気とやらを壊さないために自分が犠牲になる意味がわからない」
「理央~、弥代がいじめる~」
泣きまねをして茜が理央に抱き着く。で、茜に抱き着かれて理央は助けを求めるように、俺に視線を寄こした。
茜、貴様! 俺でも最近は恥ずかしかったから接触を控えていたのに!
「でもさ、弥代も本当のことを言ってないよね? ボクは弥代のこと信じるから、正直に言ってみて?」
あ~、言っちゃおうかな~。この笑顔には不思議な引力がある。
理央に信じるなんて言われたら、俺としてはもう最高に嬉しいわけで……。そもそも、俺が理央に隠し事なんてできるわけがないし……。
だが――、
――俺は一瞬だけ葛藤して首を横に振った。
「なぁ、理央? こんな話を知ってるか?」
「こんな話って、どんな話?」
「女子は自分の友達によく好きな男子を訊くだろ? で、訊かれた女子は『絶対に秘密にしてよ?』って前置きして、訊いた方の女子は『誰にも言わないよ、友達だからねっ』って答える」
「うん、よくある出来事かどうかは知らないけど、イメージはできるよ」
「だが、数日後にはクラスメイト全員が自分の好きな男子を知ってるんだ。真相はありふれたもので、誰にもバラさないと約束した女子が、他の女子に『Yちゃんの好きな男子はW君なんだって。これは秘密だから誰にも言わないでね』とバラしたんだ」
「その話って長い?」
「あと少しだ。で、1人ぐらいなら大丈夫。約束したから大丈夫。そんな根拠もない安心にみんなが浸るわけ。で、場合によっては最終的に、女子たちは『約束したのになんでバラしたの!?』『最初に約束を破ったのはあんたでしょ!?』的なみっともない口喧嘩を始めることもある」
「あ~、なんとなく弥代が言いたいことわかってきたよ」
「つまり――1人ぐらいなら大丈夫、とか。約束したから大丈夫、とか。そんなこと言って誰かに話したら、それは連鎖していく。俺が大嫌いな女子と同じような行為をしたら、俺は女子と同等になってしまう! そんなのは死んでもゴメンだ!」
「だから言いたくないと?」
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