1章2話 俺はノーパン美少女にもなびかない。(2)



「むっ……、なに理央にデレデレしてるのよ……。弥代も理央も男でしょ?」

「別にいいだろ!? っていうか逆に、ダメならなぜダメなのか説明してくれ!」


「ダメじゃないけど、嫉妬はするというか……。可愛い子が好きなら、理央以外にもいないのかなぁ、って……」

「茜は知っているだろうが、今の俺は筋金入りのリアル女子嫌いだ。恋なんて絶対にしない。仮に女子と恋愛するぐらいならば、理央とゲームしたりカラオケしたりする気兼ねない日常を謳歌するぞ」


「……やっぱり考え直そう? そもそも、どうして弥代はそこまで女子が嫌いなわけ? 女の子の全員が全員、弥代を昔イジメたような人とは限らないでしょう?」

「それは理解しているが、受けた被害が甚大だからな。たとえば、勝てば500円もらえて、負ければ100円を失う。そんなコイントスなら乗る人も多いだろう」


「えっ? まぁ、そうね。期待値を考えたら」

「だけど、負けたら拷問を受けて死ぬコイントスなら普通、誰もやらないよな? もちろん比喩表現だけど、言いたいことはそれと一緒。被害を考えたら地雷の確率なんてどうでもいいんだ」


 俺たち3人は茜の友達が多い2年5組を目指しながら会話をする。

 ちなみに俺たち3人は一緒のクラスで2年1組だ。


「それに、だ。俺が女子を嫌う根拠の一例として、中学生の時にもあったんだよ。大半の男子が真面目に掃除していても、たった1人の男子がサボっているだけで『ちょっと男子! 真面目に掃除してよ!』と騒いで、逆に自分たちがお喋りしていると『私たちは忙しいの』って自分を正当化して、なにがどう忙しいかを訊くと『ウザイ!』『キモイ!』『男子には関係ない!』って急にキレられたことが。ハッ、馬鹿じゃねぇの? 一緒に掃除してんだから関係ないわけないだろ」


 こいつ相変わらず口悪いなぁ、って言いたそうな顔を茜はしている。

 一方理央は女の子みたいな外見でも中身は男子だからだろうか。俺の悪口に少し共感したふうに頷いていた。


「それと一応言っておくが、フェミニズムには俺も賛成だ。っていうか、世界が本当に男女平等になったなら、俺の女子嫌いも直るかもしれないし」

「いや、なんで男女平等に賛成なのに女子嫌いなのよ……」


「少なくとも俺は嫌いだと思っているだけで、実害を出す気はないからな。俺はなにもしないから俺になにもしないでくれ、って感じだ。もちろん、非論理的なことをされたらやり返すけど」

「なんか含みを持たせた言い方だね?」


 呆れ気味の茜に代わり、理央がキョトンとしながら訊いてくる。


「SNSにたくさんいるだろ。自分が不愉快ならなにをしてもいいと思っている人たちが。男女平等という誰の目から見ても綺麗な大義名分を理由に、個人的なワガママを押し通そうとする自称フェミニストが。クリエイターのイラストやアイドルの身体、それらは他人の権利の対象だ。なのにそこにまで自分の権利を主張するなんて、バカだとしか思えない」


「まぁ、弥代は女子が嫌いだけど、それを理由に実際になにかしようとは思わないからね」


 正直、理屈っぽくって堅苦しい人間だという自覚はある。もっと言うなら性格が捻くれている自覚もある。

 だが、感情で物事を判断する人間よりはマシなはずだ。


「結局弥代は非論理的な人間が嫌いなんだよね。そういうことなら、ボクにも少しは気持ちがわかるなぁ」

「いやいやいやいや! 非論理的なヤツなんて男子にもいるでしょ!?」


「全員が全員そうというわけではないのは当然、理解している。だが、傾向的に女子の方が感情的になりやすい。ソースは脳神経科学」

「うわ、こいつウザイ……」


 茜よ、早速感情的になっているぞ……。


「……ところで、さ?」


「どうした?」

「……あたしは弥代から見て、どんな女の子?」


「ふむ」

「……その、まぁ、幼馴染だからって、なんで友達でいてくれているのかなぁ、って」


 俺にとって茜がどういう存在か、か。


「そうだな……、感情的になることもあるけど、裏表はない。俺を悪く言う時にも、その悪口には一理あると思うことが多い――」

「後半の評価、少しおかしくない!? でも、それでそれで?」


「――そんな、少なくとも俺の感覚的には男友達に近い女の子」

「なんでよ!」


 背後からチョークスリーパーを仕掛けられる。苦しい! 割と本気で息ができない!

 それと背中に茜の胸が当たっている! 流石に気付いているだろ!? 密着しているせいで、どれだけ胸が背中に押し付けられていると思っているんだ!?


「ところであたしは今、わざと胸を押し付けているんだけど、なんとも思わないわけ?」

「思うよ! 俺だって男子だから!」


 正直に白状するとようやく茜は技を解いてくれた。なにやらご機嫌なようで、ニコニコしている。

 対して俺は首を手でさすって、痛みを和らげていた。理央が不安そうな表情かおで小首を傾げて「大丈夫……?」と心配してくる。


「つーか、さ」

「ん、なに?」


「自分で言うのも変だが、俺は相当理屈っぽくって捻くれているぞ? 茜の方はなんで俺なんかと友達でいてくれるんだ?」

「ふん、どーせ感情的な女子だから、感情で判断しているだけよ。あたしだって、弥代の口が悪いなんて最初からわかっています~」


 逆に、俺はなにもわからない。

 外見も可愛いし、性格だって社交的だ。


 だからこそ、茜みたいな人気者が俺と一緒にいてくれるメリットがわからないんだ。

 いや、俺としては数少ない友達が減ることもなくて、喜ばしい限りなんだけどな……。


「でもさ、それって矛盾してない? 女の子は嫌いなのに、茜ちゃんの胸にはドキドキしちゃう、って?」


「俺だって男子だから女子にドキドキする時もある。ただ女子と恋愛はしたくない。科学的な反応と社会的な結論は流石に別だろ」


「「ふ~ん」」


 理央と茜の声が重なる。


「っていうか、俺は同性愛者じゃないからな?」


「え? でも弥代って以前、結婚するなら理央とがいい、って言っていなかった?」


「あくまでも恋愛対象にするならどっちがいい? という仮定の話だ。よくバカにされるが、俺は一生独身で構わない」


 ここで目的地である2年5組に到着して、茜が友達らしき女子からガムテープとダンボールをいくつかもらってきた。

 それを分担して持ち歩き、2年1組まで戻る最中、俺はとある質問を2人にぶつけた。


「ところで……話はずいぶんと変わるんだが、星宮ってどんなヤツなんだ?」

「逆に訊くけど、なんで半年も一緒のクラスにいてなにも知らないのよ……」


「茜はけっこう社交的だが……普通、友達じゃないクラスメイトについて知っていることなんて限られていると思うぞ?」

「でもでも、弥代も委員長が優等生ってことは知っているよね?」


「生まれて初めて委員長なんて呼ばれている学級委員長を知ったよ」

「端的に言えば、それだけ信じられないほどの優等生なのよ」


「あぁ~、確かにテストで毎回学年1位取っていたのは、有名すぎて知っている」

「そうそう。テストの成績は1年生の春からずっと学年1位で、部活には入っていないけれど運動神経抜群で、ピアノやバイオリンも弾けて料理もかなり得意らしい。あと、まぁ、空気を読むのが上手くて、委員長が失言なんてしたのを、少なくともあたしは見たことも聞いたこともない。同性でも嫉妬する気さえ起きないほど可愛いし、それを鼻にかけることもない。委員長の悪口を言えば、悪く言った側が周りからの印象を悪くするレベルの完璧超人。正直、同じ人間とは思えないわね」


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