第4話 不器用な告白

引退の時期が近づいている。


文化祭の発表を最後に三年生は引退する。副部長としての役割はもうすぐお終い。


舞ちゃんの練習を見るのも残り少なくなってきている。

「舞ちゃん、すごい!とっても上達してるよ」


毎日練習することが最短の上達方法なのだと言うことを証明するかのように上達していった舞ちゃんを褒める。


「ありがとうございます。結構、先輩に近づいてきたきがします」


私には無い声量を持っている舞ちゃんは弱点の声質を改善したことで私以上かも知れないところまで行ってしまっている。


「これで、やっと次に進める…」


私の方を見て、小さく呟いた。


どういう意味だろう?もしかして副部長の座を狙っているのかな。先輩みたいに推薦してあげた方が良いのかもしれない。


いちいち深く考えすぎるのも良くない。本を読みすぎだと他人に言われたことがある。

「じゃあ、今日はここまでにしておこうか」


プレーヤーのコンセントを抜いて片付け始める。


「あ、はい…」


どこか歯切れが悪い。片付けが終わると袖を引っ張られる。

「先輩…ちょっと話があるんですけどいいですか?」


もしかして副部長の件かも。私は舞ちゃんと席に着く。いつもは真っ直ぐ目を見てくる舞ちゃんだが今日はモジモジして顔の周辺に視線を送って、そして胸元に視線を送るを繰り返す。


そんなに副部長になりたいことを言うのが恥ずかしいのだろうか。


「先輩、こんどの文化祭で引退ですよね…それでもう我慢できなくって先輩にこの気持ちを伝えようって思ったんです」


舞ちゃんの瞳が熱を持っているように見える。


どこかで見たことがある瞳。舞ちゃんに読んでいた本を貸したとき、髪の毛を結って上げた時、舞ちゃんと深く接した時に感じる瞳。


その瞳をした時は急に大人しくなるのだ。


「うん…」


副部長に推薦してくれなんていう私の許容範囲内での話では無いことを分かってしまう。

舞ちゃんは私を教室の前に連れていく。黒板のすぐ下の床は一段高くなっていて舞ちゃんはそこに登る。舞ちゃんは小柄で身長も低い。しかし今は私と同じ目線。


息を吸い込むと特徴の大きな声で舞ちゃんは話し出す。


「先輩、好きです。先輩の唇を見てるとキスしたいなって思ってくるような好きです。最初は普通に先輩としての好意だと思ってたんですが先輩の名前を指でなぞったりしてるうちに先輩と恋人の関係になりたいんだって…気が付いて…」


熱を持った瞳の意味が分かってしまう。

舞ちゃんは一年生で私は三年生。今までも舞ちゃんの質問には直ぐに返していた。しかし今回は頭が真っ白になってしまって何も返せない。


「あの…先輩?」


舞ちゃんの言葉でフリーズしていた頭が動き出す。つまり私は舞ちゃんに告白された?キス?舞ちゃん?


「…えっと、そうだな急に返事は出せないか…な」

先輩として余裕を見せる事がひとつ責任だと思っていたが余裕なんて一ミリも無い。


「分かりました、でも文化祭前には返事をください。集中して臨みたいので」

そういうと舞ちゃんは先に帰ってしまう。


 

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