第2話 私を頼ってくれる後輩

あれから数日経過したが東頭さんは私の元に来てくれる。

部長が教えていた一年生は経験者ということもあって今はそれ程手がかからないはず。


なのに私の元に来てくれるってことは先輩として頼られているってことかも。


素直に嬉しいと思う。今は大学に行っている先輩も私が頼った時はこのようなことを感じてくれていたのだろうか。


「じゃあ舞ちゃん、今日も練習しようか」


練習用の参考のCDを持って空き教室に移動する。舞ちゃんと呼んでいるのはそうして欲しいと要求されたからだ。少し距離感が近すぎると躊躇していると「私だって副部長って読んでないですから!」と無理やり押し通されてしまった。


流石に元陸上部。馬力というものがある。


「どうぞ、先輩!」


先に走って行き扉を開けてくれる。

動きの節々に力がみなぎっている舞ちゃんは部外者が見たら合唱部だとはまず思わないだろう。


再生停止を押す。自分の合唱部での活動を振り返って舞ちゃんに足りていないものを探す。中学の時も合唱部だったので少しは自信がある。


舞ちゃんは毎日練習に来るやる気のある部員。他の部活と兼任している部員も多い合唱部。強豪校でもないためどちらかと言えば楽しんでやるのが目的になっている。


私もその方針には賛成で練習を来ないで遊びに行く部員に特段思うことは無い。ただ真剣に上手になりたいと舞ちゃんが思っているのであれば力になってあげたい。


「どうですか、先輩?」


舞ちゃんは歌い疲れたのか椅子に座る。


「うーん、舞ちゃんの長所は元気な声だと思うんだよ。大きな声が出せて乱れない」


まず素直に褒めたいことを出す。人前でも恥ずかしがらず大きな声を出せることもいきなりは出来ないものだ。


「ありがとうございます。中学の時も陸上部で大きな声だしてましたから」


肺活量も関係しているのかと頭の中で分析する。


「でも、先輩みたいに透き通る感じの声で歌いたいんです」


舞ちゃんの言葉は私の体をくすぐって抜けていく。自分の長所で無いものを追いかけることはどうなのだろう。私だって部長の朋美ちゃんのようにハキハキした性格に憧れたりするけどね。


「うーん、長所を伸ばす方が良いと思うけど…まあでも頑張ってみようか」


途中で舞ちゃんの絶望するような表情を見てしまい意見を変える。舞ちゃんと交代で私が歌う。


ふと先輩と一緒に何回も練習したことを思い出す。


私の声と全身に集中している舞ちゃんはこの時だけはじっと見ているのだ。私は人に注目されるのは歌っている時だけは慣れているつもりだったが、ここまで凝視されると流石に恥ずかしい。


後輩の前で情けない姿は見せたくないので歌いきる。


「コツとかちょっとは分かった?」


舞ちゃんは考えるような仕草をしてからハキハキと話し始める。


「先輩って動作がいちいち繊細でかわいいです。それに長いストレートの髪の毛も大人っぽくて素敵。私も伸ばしたいです」


一つに結われた髪の毛を引っ張りながら残念そうにする後輩を見ながら根気よく教えていこうと思う。 

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