第24話 守るべきものの為の
いつの間にか星を隠す雲は散らばり、中庭には星明りが差していた。
しかし、まばらに散る雲は、不気味な泡のように空に怪しく漂っていた。
「ぐぁああああああ!!ぼ、ぼくの、あっ腕、うでが、ああぁあああ!!」
「はぁ!はっ、くっ……暴れないで!」
イングリットの真剣の切っ先は、大きく的を外れヴィルヘルムの左手に突き刺さった。
イングリットは涙で視界がぼやけた中で、真剣を抜こうと力を入れるが、万力と体重をかけてヴィルヘルムに突き刺さったそれは、彼の腕を貫通し地面にまで深く入り込んでいた。
「ぁぁぁあああああ!!や、やめ!ひぃっ、あっ!?」
「ぅうっ、う。はぐっ」
イングリットが真剣を力づくで引き抜こうと前後に傾けるたびに、それはヴィルヘルムの傷口を広げ、彼の口からは耳をつんざく絶叫がこぼれた。
しかし、人がいる城館ははるか遠く、そして城塞は奥の奥にナジャがいるだけ。
「はぁ、はぁ、はぁっ。……」
「あぁっひっあっ、あっぐっ!」
全力を出し切り、体中の倦怠感を抑えきれず、イングリットはヴィルヘルムの上に馬乗りに座り込んだ。
「……ひっぐ、うぇ。ひっぐ。イサミ……、どうして」
そして嗚咽をあげながら、肩を震わせて泣き始めた。
「あぁ、あああああ!死ぬ!死んでしまう!イングリット!正気に戻ったなら助けを呼んできてくれ!!頼む!!何でもするから!!」
「ひっぐ……。さっさと、死んで……くだ、さい。うぅひっぐ……。あなたが、死ぬのを見届けて、私も、死ぬから」
「なっ!?あああああ……そんな、だれか!!だれかああああぁぁ!?」
「イングリット!何やってんだ!!」
「あっ……」
「ああぁ!異世界の!!」
孝太郎が二人の元へ走ってくる。
その声を聞いてイングリットはさらに絶望し、しかし少し救われたような、胸をなでおろしたくなるような、そんな感情を覚えた。
ヴィルヘルムは孝太郎の声に湧きあがる歓喜を抑えられなかった。
「こ、これで助かる!!……イングリットはご乱心だ!今すぐ隔離した方がいいねぇ!」
「あっ、孝太郎さん、私……」
二人の元へたどり着いた孝太郎は、わき目も振らず、ヴィルヘルムに突き刺さった真剣の柄を握る。
「まったく……ふん!」
「ぐぅうぅぅ!!もっと優しく抜いてくれないか!?」
「うるせーよ」
そして力を込めて引き抜くと、
「――ちゃんと最後までやらないとダメだろ」
その真剣をヴィルヘルムに向けて突き出した。
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