肉の翼

@kaduki2004

第1話 めざめ

 天井だ。少し汚い、染みの数えがいのありそうな天井だ。

「おはようございます。意識の混濁等の異常はありますか?」

 女性だろうか。少し低い、心地の良いアルトだ。

「いえ、問題ありません。」

 問題はない。自分の名前も役割も年齢や性別も、ついさっきまで寝ていたのが嘘のようにクリアだ。

「わかりました。訓練は3日後から行います。それまでにできる限り身体をほぐしておいてください。」

 言われてから気がついたが、少し関節が固く動きづらい。これでは訓練に支障が出るだろう。

「それでは失礼します。何かあったら事務にいらしてください。」

 ちいさな、ベット2つ分ほどの部屋が急に静かになる。右を向くと点滴の横に西暦2132年2月18日と書かれたカレンダーがある。少し肌寒いのもうなずける。

「…とりあえずなにか飲むか。」

 およそ3ヶ月ぶりに出した声は少しかすれていた。

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