第34話 「決着の時」
花音は袋の中から真っ白な蛇の鱗を取り出した!
俺達には知識が無かったのでこれをどう使うか?が良く理解するまでに至っていなかったのだが魔法使いの館で老婆からその使い方の説明を受けて初めて知った。
「爺さん、そのまま奴と戦ってたらこれは無駄になるとこだったんじゃねぇのか!?・・・爺さんは神様なんだろ?」
そう言った俺と皆んなに睨まれた子犬に宿る山神は暖炉の陰に隠れたまま照れ臭かったのか、なかなか姿を現さなかったのだ。
「善と悪に別れし魂よ! この祈りにて我に力を与え汝の・・・」
花音は魔女と呼ばれる老婆に教えて貰った呪文らしき台詞を呟きながら俺の右拳に白蛇の鱗を巻きつける、巻きつけられた白蛇の鱗は俺の拳へと吸い込まれるように消えてしまった。
これで儀式は終わった!
あとはこの右拳を奴に叩き込むだけで倒すことが出来る、ただ花音がその前に命を奪われたらこの効果も意味が無くなってしまう!
花音の命を守ることが俺達の条件となるのだが奴は結さんが善の心を持っていると勘違いしているので気づかれないうちに倒してしまうのだ。
俺がそう考えている間に奴の唸り声が部屋の中に響き渡る!
その唸り声と同時に奴の身体は段々と大きくグロテスクな形態に変化してゆくのが見えた。
「花音、君は俺のそばから絶対に離れるな!」
奴の姿が変化してゆく様子を目前で見ていた花音はあまりの恐怖で小刻みに震えていた!
そんな彼女を背後に庇いながら後方へと後退して行った、安全な距離など無いのかも知れないが奴から少しでも遠ざけて置きたかったのだ。
奴が変化し終えた姿はただの巨大化した黒蛇ではない!
やや鼻先の尖った頭は3つに分かれ赤く二つに割れた舌がダラリとよだれみたいな汁を垂らしながら異臭を放っているのだが、そのよだれが垂れた部分の床は焦げて白い煙が上がっていた。
首の付け根から太くなった胴体らしき部分には左右に足なのか?手なのか?判断出来ないような物が付いており前に3本、後ろに1本ある指の先端に鋭く尖った爪は床に食い込んでいる。
胴体から先は尻尾のような物が2本に分かれ先端は自在に宙を動き回って今にもこちらに向かい襲って来そうな感じがする!
身体は黒い鱗で覆われており、濡れているように見えるが逆立ったり滑らかになったり金属が擦れるみたいな音がして硬い鱗で覆われているのだろう!?
体長は頭から尻尾まで5mぐらいあるのではないかと思われる巨大な化け物であった。
「貴様らは今更、神に祈ったとて遅いぞ!」
「俺様がその神であるのだからな!」
「さあ、泣き叫ぶがよい!逃げ惑うがよい! 神である俺様を怒らせてしまった貴様らにもう逃げ場などないがな・・・」
「楽には死ねんぞ! この世に生まれたことを後悔しながら死ねっ」
3つの頭から発せられた奴の言葉はそれぞれの声質が違って怒りを表しているのか?、嘲りを表しているのか?微妙なニュアンスで部屋中に反響し聴こえて来る。
俺はこの時、どうすべきか判断に迷っていた!
山神と合流して戦うならば花音を置いては行けない、こちらから仕掛けようにも
花音を守るべき俺が彼女から離れて攻撃を仕掛ける時は奴を確実に倒す時でなければならない。
だが山神はあの巨大な敵を前にして結さんを守りながら奴と戦い続けることが出来るのか!?
一瞬の隙でもいいから奴にこの拳を叩き込めるチャンスを作ってくれればいいのだが・・・!
そんな俺の気持ちを察したのか?
山神は奴を目の前にしながら俺の方を向き不敵に笑った!
何だ!? その余裕は・・・?
山神はこの状況にあってもまだ余力を残しているのだろうか?
奴に視線を戻した山神は無言のまま腰を落とし剣の柄に右手を掛けると静かにその剣を抜き払った!
何という眩い光りに包まれたその剣は先程まで使っていた刀とはまるで違う!
これが山神の神通力なのか!?
光りを納めたその剣は美しく鋭い刃先で何でも切り裂いてしまうかのようなまさに宝剣と言うべき物であった。
「貴様は何者だ!?」
「俺様と互角に戦うとは? もしかして貴様も俺様と同じ神なのか・・・!?」
奴の問い掛けには答えず無言のまま構えを崩さぬ山神と3つの首と2本の尻尾を動かしながら山神の隙を狙う奴、神対神の戦いがこれから始まろうとしていた。
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