第33話

奴は部屋の奥に置かれた椅子に腰掛け前に置いてある机に組んだ足を乗せたまま不敵な笑い顔を浮かべていた。


前回、対面した時とは違い黒いスーツで身を包んだその姿は男と言うより人の形をした黒い蛇という様な形容でしか表現出来ない姿の化け物であった!


我々が部屋の中に入ると奴は組んだ足をゆっくりと下ろし机の脇に立ち上がり今度は机に腰掛けこちらを見て言った。


「ほう・・・誰か来たかと思えばいつかの小僧ではないか?」

何度聴いても薄気味悪い奴の声に悪寒さえ感じる。


「付き添いを連れて来たようだが何人連れて来ようと俺様は別に構わんが御願いしてあった物は持って来てくれたんだろうな?」

人を嘲るような話し方に今すぐにでも殴ってやりたい衝動に駆られるが俺は花音を守る為に戦っているのだ・・・怒りを抑えた。


何も答えない俺が奴への恐怖で動けないとでも思ったのか薄笑いを浮かべながら見廻す奴の視線は結さんが左手で隠し持っているように見せかけている錦の袋で止まった!


両手を後ろにやや隠すような姿勢は怯えているように見えるが彼女がその右手に持っているのは拳銃なのだ!

奴を射殺することは出来ないだろうが意表を突くことは出来るかも知れない・・・

そして彼女の前に剣も抜かないまま腰に差し戦闘態勢も整ってはいないようにゆらりと立っているのは山神である!

子犬のココアはさすがに怖いのか山神の足の陰に隠れているようだ。


奴の目には何故、ここに子犬がいるのか?ということよりも奴に恐怖を感じている存在があることに優越感を持ったのだろう?

「そこの女は確かこの前、小僧と一緒に居たなぁ?」

「そうか、お前が持って来たのか?」

「こっちに持って来い! 素直に渡してくれたら楽に殺してやるよ!」

奴は右手を前に出すと人差し指をクイクイっと動かしてこちらに来るように催促した。


その仕草を見た結さんが実際に怖がっているのかどうかはわからないが少し山神の後ろに隠れるように移動すると腰を落とし

「この袋に何が入ってるのかわからないけどこれは絶対に渡さないわ! そんなに欲しければ私から奪ってみれば!?」


何という挑発的な発言!

これはさすがに奴といえど少しは反応するだろうと思い奴を見ると・・・案の定、烈火の如く怒っていた!

「ワンワンワン!」

更に山神の足もとの陰からココアも挑戦するように吠えてるのだ。


戦いに置いては感情をコントロールすることが大切だと山神が俺に教えてくれたことがある!

結さんに挑発され、戦闘能力ゼロと言ってもいいぐらいの子犬にまで挑発されたのだ、プライドが高い奴の心中を察すれば激怒してしまうのは当然だろう。


奴は腰掛けていた机から飛び降りると結さんの方に物も言わずに突進し猛然と殴りかかった!

だが奴の拳は山神の右手によって簡単に止められた・・・その直後、バンバンバン!3発の銃声。


戦闘は始まった!

奴を逆上させ山神と結さんとの戦いに巻き込み俺と花音から注意を逸らしてる間に花音が持つ善の心で俺に呪文を掛けた後に奴の神体を粉砕する・・・

山神が俺達に授けた作戦である。


怒りに任せて全力で放った俺様の拳を簡単に受け止めたこの男は一体、何者なのだ!? 小生意気な女の撃った銃などこの俺様には何の傷みも与えることは出来ない!

だがこの男は俺様に攻撃を仕掛けて来るでもなく受けているだけではないか!?


山神に対し、猛烈な攻撃を繰り出しても傷一つ与えられないことに焦りを感じ始めた奴は山神に相対したまま距離を取ると

「お前のような者が居るとは少し驚いたよ、だが俺様の前に無傷で存在することなど許されるはずもなかろう!」

「ここまで俺様に逆らった以上、楽に死ねると思うなよ」

そう言った奴の身体は急激に膨らみ始め変わって行く!


信じられない物を見たように思わず後退して行く結さんと懸命に吠えながら1歩も引かない子犬のココア、そして無表情のままで奴の変わりゆくさまをじっと見ていた山神は剣の柄に手を掛けた!


これからが本当の戦いになるのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る