｢俺の名前はココア｣

第32話

爺さんと結さんは建物の入口で敵を迎え撃ち俺と花音は野ねずみの後を追い掛け階段を上って行く！

ジル達、宇宙人は敷地内を探索しながら奴の居場所をテレパシーで交信しながら俺達を誘導してくれていた。

首に巻いてある黄色いリボンは美月さんが出掛ける前、目印になるように付けた物だ！

注意して良く見なければわからないのだが走る後ろ姿を見ているとなかなか似合っていて可愛らしい。

殺さなければ殺されるという殺伐とした状況の中でその光景は救われる様な思いがした。

階段を上ると３人の敵が向かって来る！

俺は花音を柱の陰に移動させると３人と格闘する・・・と言っても一瞬である。

３人は殴られ蹴られ壁に叩きつけられすぐに動かなくなった！

｢琢磨、大丈夫か!?｣

何か聞き慣れない声に振り向くと甲冑を着け日本刀を持った男が結さんと一緒に立っていた！

黒ひげが印象に残る精悍な顔つきをした鎧武者である。

｢もしかして・・・山神様？｣

俺の隣りにいた花音が鎧武者にではなく隣りの結さんに問い掛けるように言うと

｢そうなのよ！ 私もびっくりしたんだけど突然、陽炎のように現れたと思ったら敵を切り殺しちゃった・・・｣

興奮して話す結さんの言葉通りｍその精悍な顔には威厳があり緑色の瞳には何か懐かしさを感じさせる優しさがあった。

｢姿は変わっても山神の爺さんは爺さんだ！ その姿が爺さんの本当の姿ってことか・・・で、これからどうするんだ？｣

俺がこれまでと変わりない口調で山神に話し掛けると

｢わしは爺さんではないと最初からそう言っておったじゃろうが!?｣

｢まぁ良い、敵の頭数も無限ではあるまい!? ジル達の情報に寄ると奴はこの先でのんびりしておるそうじゃ！｣

｢わしが琢磨の側にいることも知らんのじゃろう・・・強くても所詮、孤独な奴じゃ｣

ジル達とテレパシーで交信していたのだろう？

山神は前に立って歩き出すと正面にあった鉄製の扉を蹴破り、現れた敵を一刀のもとに切り捨てる！

戦国武将であった過去を持つ山神の圧倒的な強さと豪快な戦い方は凄まじい。

今更ながら気づいたのだが山神の足下には子犬のココアがぴったりと寄り添っているのが何だか微笑ましく感じた。

通路の扉をいくつか破りながら進んだ先にあった扉の前で野ねずみ達が立ち止まると山神は何度か頷き会話している様子だったが

｢この扉の向うに奴がいるらしい！｣

｢人間の憎悪と恐怖の血肉を喰らった奴は実体化して異様な姿をしているらしいが畏れる必要は無いのじゃ！｣

｢奴は花音ちゃんが持っている袋の中にある善の心を警戒しておるじゃろう｣

そこまで言うと今度は結さんの方を向き

｢そなたが善の心を持っている振りをするんじゃ！｣

そう言うと鎧の中から錦の袋を取り出し

｢これはわしが合戦の時に必ず身に付けておったお守りじゃが、これを善の心と奴に思わせて隙を作り琢磨と花音ちゃんが奴を倒す｣

結さんの肩に手を置いた山神は

｢そなたはわしが必ず守るでな・・・大丈夫じゃ！｣

力強くそう言った山神は結さんの肩を何度か叩き頭を撫でた。

結さんは山神の言葉を頷きながら聴いていたが

｢私は意外と信心深いのよ｣

｢山神様がそうおっしゃるのなら信じることにします！ まさか神様と直に会話するなんて想像もしたことが無かったわ・・・宜しく御願いします｣

屈託のない笑顔でそう言うと山神に深く拝礼した。

善の心は託された者が使わなければ効果が無い！

それを託した者が命を失った時、託された者にその効力が移るそうだ。

もし花音がそれを使うことなく託すこともなく命を失えば善の心は永遠に消滅してしまい神である奴を倒す術は無くなってしまうことになるのだ！

それを使い祈る間は本当の持ち主として奴の目に晒されることになるが彼女が祈る間を守れば良い。

その祈りを受けた俺が奴を永遠の暗闇へと渾身の力で送ってやるだけで全ては終わるという訳だ！

｢わしも奴から姿を隠す必要もなかろう！ さあ琢磨、お前がその扉を開いて奴の目前に立つのじゃ、お前に潜む邪悪な化け物の心と奴そのものである邪悪さをその力で粉砕するんじゃ｣

山神の言葉に深く頷いた俺は錆びて重くなったその扉に手を掛けると引き開ける。

ギリギリッと軋む音をたてながら開く扉の向うに見えたのは黒い鱗で皮膚を覆われ不気味に笑う奴の姿だった！