第30話
奴と対面した興奮がよみがえる度に俺は寝返りを繰り返した!
生まれて初めて味わった恐怖が眠りを妨げる・・・
ベッドから起き上がると服を着た俺は外に出たくなり階下へと続く階段を降りて行った。
そう言えばあの扉はどうやって開けばいいのだ?
ふと思い出して苦笑いをする・・・開け方など知らないのだ!
ロビーに降りるとテーブルに誰かが腰掛けているのが見えた・・・
多分、昼間に自己紹介し合ったジルという異星人に違いないがその隣りの椅子にはココアもちゃっかり座っていた。
「眠れないんじゃな? 奴の強さを雰囲気だけで見極められた琢磨も成長したではないか!?」
「これなら奴との戦いも勝算が出来たという訳じゃ・・・わしも頑張るから安心せい」
山神は力強くそう言ったがココアは椅子の上であくびしながら伏せて微睡んでいる、何とも緊張感のない激励に笑ってしまった。
「山神の爺さんはなぜ神になったんだ? 何か特別な理由でもあって神となるのか!?・・・なぜそんなに俺を助けてくれるんだ?」
俺はこれまでずっと疑問に感じていたことを一気に聞いてみた。
「それは私から話してあげよう・・・」
ジルは琢磨の方に向き直ると隣りの椅子を引き彼に座るよう手振りで勧めた
頭を下げ琢磨はジルに促されるまま腰掛ける。
「あれは地球でいう今から何百年も前のことだった、彼はこの辺りを治める領主で名前は柚木義政(ユズキ ヨシマサ)であった」
何か遠くをみつめる様な目で語り始めたジルは続ける・・・
「私達もその頃はまだ動物に憑依し生活していたのだがある日、近くの浜辺に異人が乗った小舟が漂着し彼は領民から連れて来られたその異人を自分の館で保護することにしたのだ」
「異人は3名で男2人に女が1人、その女は琢磨くんと同じ緑色の瞳をしていたのだが5日ほど経った日のこと、2人の男が館にある庭で無残な骸となって発見されたのだ!」
「体の数ヶ所に噛み切ったような傷跡があり、その骸からは血が抜き取られていたのだ」
ジルは淡々と話しながらも琢磨の様子を気遣いながら更に進める。
「犯人は残った緑色の瞳を持つシルヴィアという女性だった・・・」
「そうだ! 琢磨くんの祖先ということだが彼はシルヴィアという女を処刑すべきだと進言する家臣の意見を聞かず牢に閉じ込めるだけの処断をした・・・彼はその女に恋慕していたのだ」
どこまで話していいのか迷ったのか子犬の方を見たジルは続ける。
「牢番も置かず彼は女と親しく話しやがて自ら血を与える様になり、女は彼を殺さず同族の血を少しずつ彼に注入して行く」
「そんな日々が続き2人は愛し合うようになり、女は彼との子供を授かった・・・」
「2人は幸せの絶頂にあったが女に夢中になる余りに彼は家臣達や領民達の不満に気づかず、やがてそれは謀叛という結果となって領内に溢れ出した」
「彼を慕う者は少なく、ただ1人で戦うも同然の状態に陥る・・・だが吸血鬼となった彼の力は凄まじく戦場に死体の山を築いた」
「その果てに彼が見たものは地獄絵図であっただろう!?・・・ 彼は自分の愚かさを悔いて自らの命を絶った」
「死んでも尚、恐怖に包まれたままであった領民は彼の祟りを怖れ、祠を建立し彼の魂を畏敬の念を持って祈り続けた結果、彼は神として復活しここに居るという訳だ!」
「琢磨くんを助けるのは君が山神の子孫であるからで彼は実体を持つ能力も兼ね備えているが実体を持たないのはそんな過去を今だに悔いているからなのだ」
聴こえない振りをしているのか眠っているのか何も喋らない子犬の方を見たジルは苦笑した後に言った。
「倒すべき敵を見た琢磨くんにはわかると思うが奴はとてつもなく強い!・・・だが君達2人なら必ず勝てると信じている」
ジルは右手を琢磨に差し出し握手を交わした。
「ん~!? ジル、お前さんはどこまで話したんじゃ? まさかわしの女癖の悪さなど打ち明けてはおるまいの・・・?」
本当に眠っていたのか照れ臭くて茶化したのかはわからないが突然の発言に俺とジルさんは笑い合いながら
「爺さん! これからも俺にその力を貸して助けてくれよな」
乱暴な言葉とは裏腹に俺は山神の方に深く頭を下げた。
「大丈夫じゃ! わしは決してお前も彼女達も奴に殺させはせぬ!」
「何度も言ったがわしはこの地を守る神じゃ、本気で琢磨に加勢してやるから必ず勝てる!」
「しかしわしが琢磨と握手した所でお手をしたことにしかならん」
明るくそう言うといつもの高笑いをした。
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