第29話 「決 戦」

全員が2台の車に別れて乗り込み物騒になってしまった街中を抜けると道幅の狭い舗装路を走っていた。


「この先にジルが教えてくれた家があるんだけど彼等もそこで私達が来るのを待ってるらしいわ」

未来が走る車の助手席で細かいことを色々と説明してくれた。


狭い道を抜けると視界は大きく開けオレンジ色の屋根にレンガ作りの壁、暖炉が中に有るのか煙突が屋根からはみ出している。


「なるほど・・・ジルも考えたわい! 魔女の館じゃな!?」

車から降り、大きな家を見上げて山神は感心したように言った!

「久し振りじゃが人間と同じく歳を重ねる彼女は随分と年老いたかも知れんのう?」

山神もこの家の主である魔女?と知り合いらしく懐かしそうに言うと玄関口へと走って行った。


「吸血鬼に神様、宇宙人と今度は魔法使い!? なんか今まで見てきた世界は何だったの?って感じ・・・だよね」

美月さんはそう言った後、花音と目が合い「ごめんなさい」と何故か謝った・・・それを見た俺は首を傾げてしまった!

花音は照れながらさっさと玄関口に移動する。


一連の光景を隣りで見ていた孝さんは俺の肩を叩きながら

「琢磨くんは相変わらずなんだなぁ! 花音を今後も宜しく頼むよ」

そう言って笑ったがその意味深な言葉の意味が俺には理解出来ないで「必ず守ります」と答えるのがやっとだった。


孝さんと樹里さんに涼介さんと未来さんの4人に囲まれて微笑まれてる自分は何なのか意味がわからない?

きっと涼介さんに抱かれて笑ってる2歳の未希ちゃんと同じなんだろうなぁ・・・と照れ笑いする俺に

「何よ! 私はおじさんと違ってわかってるわよ、ホントにおじさんは鈍いわねぇ・・・バカじゃないの!?」


突然、女の子の声が飛び込んで来た!

これはテレパシーだが一体誰が俺に送ったんだ? もしかして2歳のこの子が俺に!?

いや・・・そんなことは有り得ない!

甘えん坊でいつも父親に抱っこを要求するこの子があんな言葉を使えるはずが無いじゃないか!?

俺の頭は更に混乱してしまった。


玄関の扉がまるでパズルのように変化し両側に開くと広間の中に老婆が杖を持ち立っておりその背後には男女が控えていた!

俺達の背後で扉はまたパズルのように複雑な動きをしながら閉じる。


何がどんな仕掛けで扉の開閉がなされているのかはわからないが扉の開閉だけでもこの老婆が魔女と言われる意味が理解出来た。


「皆んな無事に我が館に到着しなさって何よりですじゃ」

喋り方は特徴が有り普通とはちょっと違うかも知れないが声は意外と若く感じるような綺麗な声であった。


「そこの琢磨といったかのう? こんな老婆を褒めて下さって嬉しいですじゃ! ではそこのテーブルに腰掛けてゆっくりして下され」

この人は心が読めるのか!?

魔法使いだと爺さんは言ってたが一体、どんな魔法を使うんだろう?・・・また心の中で喋ってしまった。


そう思いながらテーブルに備え付けてある椅子に腰掛けると目の前に熱いコーヒーが置かれてあった!

えっ!? いつの間に現われたのか最初から置いてあったのか?

半信半疑で呆然となる。


「お爺ちゃん、あの人は誰? とっても素敵な人なんだけど・・・」

美月さんは胸に抱いたココアに向かって小声で話し掛けると

「あやつはピノといっての、実体が無い宇宙人じゃ!」

「奴に惚れるのは構わんがかなりバカじゃぞ! そんな奴はやめて普通の人間に惚れて恋をした方が無難じゃ」

山神はそう答えたがさすがにここで得意の高笑いはしなかった。


老婆は先程から涼介が抱いている未希を見ていたが近くに歩み寄ると

「その娘の左腕をこの老婆に見せてはくれませぬか?」

涼介に対してそう頼んだ。


袖を上げてしばらく眺めた後に

「やはり5つ星の持ち主であったですじゃ! こんな所におったとは嬉しいですじゃ」

何やら涙を浮かべて喜んでいる姿は皆んなの注目を集めた。


「お婆さん、一体どうしたというのです!?」

「この子の左手に何かあるのですか? 教えて頂けませんか・・・御願い致します」

涼介の隣から未来が老婆の手を取り尋ねた。


「薄っすらとしか見えませぬが宿命の星で左腕に星形の5つの黒子が並んでおりますじゃ!」

「これまで5つ並ぶ者は1人も居なかった・・・この老婆など2つの星だけですじゃ! その娘は偉大なる魔法使いになる宿命を持って生まれて来たのですじゃ」

興奮冷めやらぬ口調で語った老婆の言葉に全員が口を揃えて老婆の言葉を繰り返して言った。


「偉大なる魔法使いぃ~!?」

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