第28話
「こっちじゃ!・・・こっち!!」
シューターから出た俺と彼女は山神がテレパシーを送って来た方向に小走りで急いだ。
「琢磨にしては遅かったんで心配しておったんじゃが2人とも無事に戻って来れて何よりじゃ! こちらから出られるようじゃから早くこの場を退散するとしよう」
俺達の姿を見た山神は安心したように語り掛けると壁沿いに歩きながら俺達を誘導して行く。
「もしかして今、その子犬が喋つたように聴こえたけどそうなの!?」
彼女が驚きながら俺に尋ねると彼女の隣りを歩いていた美月さんが
「その子犬はココアちゃんよ! 山神様はココアちゃんの中に住んでいる神様で琢磨くんと一緒に私達を守りながら敵と戦ってるんだ!」
「私の名前は美月でそっちが花音ちゃんで琢磨くんとココアちゃん、それに付録で付いてるちょっとエロい山神様」
そんな説明で彼女が理解できるのかと心配した俺だったが吹き出すようにちょっと口もとを押さえて笑った彼女は
「私の名前は結・・・佐倉 結(サクラ ユイ)よ、宜しくね!」
そう言いながらも背後の警戒を怠らないのはやはり警察官である。
「その先のコンビニの駐車場に車2台で迎えに来るって言ったからすぐに来てくれると思うわ、取り敢えず避難する場所を未来さんが頼んでくれたらしいから全員でそこに向かうらしいです」
携帯で何やら話していた花音は電話を切るとそう言って指差した。
道路の向かい側にコンビニの明かりが見えていたが何か様子が少し変だと感じた俺は前を歩く山神に
「街の様子がいつもと違うように見えるんだけど爺さんは何かを感じないか!?」
「あのコンビニだって天井の照明がいくつか切れてる」
俺がコンビニの方を指差しながらそう言うと
「そんな遠い場所を指摘されてもわからないわ! 琢磨くんにはあんなに離れた場所の様子が見えてるってことなの?」
手をかざして眺めながら結さんが不思議そうに言うと
「琢磨には見えるんじゃよ! 全ての能力が人間の常識を遥かに超越しておるからのう」
山神は結さんの問い掛けに答えた後に続けた。
「奴の能力が増大して来たんで操られる人間が多少、増えたんじゃろうなぁ? 街のあちこちで悲鳴と憎悪が交錯しておる!」
「わしが先に行って安全を確保して置こう・・・琢磨よ、皆を頼むぞ!」
そう言い残して山神は駆け出した。
「ココアちゃんはいいの? 急に駆けて行ったけど・・・大丈夫!?」
まだ子犬と山神の関係が把握できていない結さんは心配そうに呟いたが、美月さんなどは誇らしげに子犬の走る姿を見ていた。
「さあ、俺達もあそこに急いで向かおう! あの爺さんのことだ、遊んでても一瞬で決着は着くだろうから心配ない」
只でさえ強力な神の力を持つ山神が可愛い子犬の姿をして近づいて行くのだ!
舐めて掛かると何もわからないまま死ぬことになる。
コンビニへと来た山神は琢磨が言った通りの惨状を見てため息を漏らしながら店内へと無造作に入って行く。
「何だぁ、子犬じゃねぇか? 腹でも減ってんのか!? 死体ならその辺に転がってるから喰っていいぞ」
カウンターに腰掛けレジの中から現金を取り出しながら男が言うと奥の方から金属バットを肩にもう1人の男が笑いながら姿を見せて
「ついでにこいつもバットで飛ばしてやるか!?」
そう言いながらバットを振り陳列棚の商品を弾き飛ばす!
カウンターから金を奪っている所をみると奴に操られているのでは無く単なる凶悪な強盗であろう?
しかし店内で真面目に働く店員を金目当てで2人も殺しているのだから地獄に送ってやるのに遠慮は要るまい。
「クゥ~ン・・・」
ココアはちょっと怯えた様子で啼くと金属バットを持つ男に向かい近づいて行く、見掛けは子犬でも山神が中に住み着いた子犬なのだから恐怖など微塵も感じるはずはあるまい。
「おぉ、よしよし! 怖かったかぁ?」
男はそう言いながらバットを肩に担ぐとしゃがみ込んで子犬の頭を撫でようと前屈みになった瞬間!
ココアは巨大化し伸びた首で男を天井に跳ね上げ、落ちて来た所を今度は尻尾で店外に弾き飛ばす・・・体は2つに千切れていた。
驚愕の表情で呆然としているもう1人の男に近付くと
「どうせ足りない脳ミソなら必要はないじゃろう?」
山神が腕を振ると男の頭は塵と化し消滅した体はバランスを失って床に転げ落ちる。
すぐに子犬の姿に戻った山神は外で呆れて見ていた琢磨達を丁重に出迎え
「もう安全じゃよ・・・じゃが中に入らん方がいい」
そう言うと美月の腕にひょいと飛び乗り抱かれた。
「何? 今のは・・・あの凄いのが山神様なの!?」
信じられない光景を目にした結が興奮状態で言うと全員が頷きながら笑っていた。
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