第26話

「何の音じゃ!?」

第一声は美月に抱かれたココアに宿る山神であった!

しかしその声は婦人警官の彼女には聴こえるはずもない。


ここは警察署である!・・・その安心感からか彼女は驚いた様子もなく落ち着いて席を立つと扉の前でしばらく聞き耳をたてていたがこちらを振り向くと

「ちょっと見て来るわね、大丈夫よ! 心配ないわ」

そう言うと扉を開け左右を見ていた様子だったが何も見えなかったのか部屋を出ると音が聴こえた出入口の方へと歩いて行った。


「それで・・・俺達はどうする?」

婦人警官の遠ざかって行く足音を聴きながら俺は聞いた。


「何事も無ければ良いが意外と激しい音じゃったからのう?」

「奴等がわしらを目当てに襲って来たのならこんな狭い部屋の中では戦うにも不利じゃ!」

「別に部屋を出てはならんという訳でもないのじゃから何が起こっているのかを知る方が先じゃ」

山神は言った後に美月の膝から飛び降りると扉の前に立った。


俺達もそれぞれ椅子から立ち上がると扉の前に移動し俺は扉に耳を当て周囲の様子を伺った・・・何やら争うような物音が聴こえるが近くでは無い!

すぐに扉を開け部屋の外に出ると後を追うように全員が俺に続いて出てきた。


見れば美月さんも花音も不安そうな顔で俺に答えを求めるかのようにこちらを見ていた。


「向こうには2階に上れる階段があるとここに来る途中で見た案内板に書いてあった! 危険が迫ったら直ぐに階段を上るんだ・・・俺と山神様で追って来る敵はすべて倒す」

俺はそこまで言うと

「俺が向こうの様子を行って探って来る! 爺さん後は頼むぞ」

そう言いながら婦人警官が歩いて行った方に歩き始めた。


その瞬間、何やら前にも増して激しい物音が聴こえた!

これはもう只事ではない・・・この十数メートル先で明らかに異変が起きているのだ!

俺は気配に気を配りながら急ぎ足で向かう。


振り返ると彼女達は山神に先導されて階段の方へと向かっていた!

今の物音を聴いて山神が危険だと判断したのだろう。


俺は更に急いで物音がした方に向かった!


廊下を抜けた場所で俺が目にした光景は血の海の中で争う奴等らしき邪悪な殺気を放つ者と警官達の姿であった。


奴等の中には警官の姿もあり普通の人間が見たら誰が敵か味方かを容易に判断出来ないであろう!?

俺が最初に殴り倒したのは先程の婦人警官に刃物で襲いかかっていた男だった。


車にでも跳ねられたかのように壁へと吹き飛ぶ男を横目で見ながら

「大丈夫ですか!? どこも怪我は有りませんでしたか?」

そう言った俺は彼女の手をつかみ引っ張り上げて立たせる。


「この状況であなたが自分の身を守る為には強力な武器が必要です!」

「俺が今、言ってることはちゃんと理解出来ますよね!?」

両肩をつかんで語り掛けた俺に彼女は怯えきった表情をしながらもしっかりと頷いた。


俺はそばに倒れ、息絶えていた警官の腰からホルスターを引きちぎり中から拳銃を取り出すと彼女の手に持たせ

「使ったことは有りますよね?・・・弾丸は入ってるんですか?」

俺は続けて問い掛けるともう1度、周囲を見廻したが残っているのは奴等ばかりのようだった。


「ここは危険です! 向こうの階段に友達を待たせてますからそこに急ぎ行きましょう」

彼女の背中を押して促しながら駆け出した瞬間、銃声が鳴り響くと天井の蛍光灯が割れる・・・俺は彼女を伴い階段へと走った。


俺達の足音を聴いてココアが階段を下りて迎える・・・山神だ!

そのすぐ後ろには階段の途中からこちらを見てホッとしたような表情の美月さんと花音、2人とも無事のようだ。


「2階も一応、確かめて置いたが誰も居ないようじゃ!」

「きっと物音に気付いて確かめに行った結果じゃろう・・・人を捕まえる者と殺

すだけが目的の者では結果は見えておろう」

山神の言葉に頷いた俺は山神に対し

「それで・・・これからどうしたらいいんだ爺さん!? 指示をくれれば俺は爺さんに従って行動するよ」

俺の答えに不思議そうな顔の彼女に階段を上りながら花音は手短かにわかり易く説明してくれた。


「わしかお前か、どちらかがここを死守し避難用シューターを使い下に降りてどこかに隠れ身の安全を計るしか今は方法が無いじゃろうがさて・・・どちらが残るかのう?」

2階に上がってすぐ山神は言ったが俺の答えはもう決まっていた!


「残った奴等は7人だった!」

「俺がここで迎え撃つから爺さんは彼女達を連れ下に降りて隠れていてくれ・・・俺は奴等を倒したらすぐ下に降りる・・・爺さん、頼むぞ!」

そう言った俺に隣から拳銃を点検していた彼女が言った。


「敵は拳銃を所持してるから私も彼と一緒に残るわ」

彼女の瞳に恐怖の色は微塵も無かった。

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