第25話
「なんと!? 人を喰らったじゃと!」
驚いた声を出したのは山神である! よっほど意外だったのだろう。
強者が弱者を喰らう・・・我々が生きているこの世界では珍しいことではなく当然と言えば当然のことなのかも知れない。
しかし山神が驚いたのには別な理由があったのだ。
「奴は実体化しようとしておるのではないかのう・・・?」
山神は何か考え込んでいるように、呟くような感じで言葉を続けた。
「神の如き力を持つ奴が何故、実体化する必要があるんだ?」
俺はすかさず疑問を口にした。
「奴は今でもあらゆる神技を遣い十分な強さを持っておるが実体化することで借り物の姿ではなく本来の姿を取り戻すのじゃ!」
「しかもお主と違って奴は実体化しても傷つかん! 今の能力を数倍も上回る能力を手に入れたら手強くなるどころか手がつけられなくなるじゃろうて・・・」
「どっちにしても早く倒さねばなるまい」
それぞれが情報や意見を交換し合い攻撃するにはやはり目立たぬ深夜が良いと決まり今夜、決行することになった!
俺とココアに乗り移っている山神、花音と美月さんの4人である。
花音と美月さんは残したかったのだが留守を強襲されてもマズイし花音は善意として奴が脱ぎ捨てた白蛇の皮を持っている!
俺と彼女は攻撃のタイミングを何度も繰り返し行なって来た・・・
倒すチャンスはたった1度しか無いのだ。
花音の自宅からゆっくり歩いても施設までは15分ぐらいの距離であるから4人は緊張も解けぬうちに正門の前に立っていた。
正門前に人影もないのは深夜だからなのだろうか?
何かはわからないがあちこちに気配を感じるのは何故なんだ・・・
そんな考えがふと頭に浮かんだが門扉に手を掛け敷地内の様子を見てみる・・・建物の内部から何者かがこちらを伺っている気配が感じられた!
しかも吐き気を覚えるほどの邪悪な気配だ。
間違いなく奴のものだ!
周囲で先程から感じる弱い気配は奴の仲間なのだろうがこの程度の気配ならば囲まれたとしても影響はないだろう。
「この中で俺達を待っているみたいだな・・・入ってみるか!?」
後ろを振り返って誰にともなく俺が話し掛けると花音と美月さんは緊張した表情で静かに頷いた。
俺は門扉を乗り越えると中から止め金を外し門を開けて全員を敷地内へと迎い入れるとゆっくり建物へと歩きだした。
「そこで止まりなさい!」
やや大きな声で背後から突然、呼び掛けられた・・・まさか呼び掛けてくるとは想像してなかった俺達は声のした方向を見る。
車のエンジン音がすると方々からライトで照らされ制服を着用した警官がこちらに歩み寄って来るのが見えた。
「この警官は奴の仲間ではない・・・この気配を消す為にワザと中から猛烈な気配を放っておったんじゃろう!」
「何ともズル賢い策を使いおって・・・わしがもっと早く気付くべきであった」
山神も俺と同じ疑問を抱きながらずっと考えていたのだろう!?
申し訳なさそうな感じでそう言った後に
「ここは絶対に彼等を傷つけてはならんぞ! 逆らわずに彼等の指示に従うんじゃ・・・わかっておるの!? 琢磨」
山神は最近、俺のことを名前で呼ぶことが多くなった。
「君達は何故、ここに無断で侵入して来たのか何か理由があるのなら聞かせてくれないかね?」
言葉は丁寧だが懐中電灯で品定めするような照らし方が無性に腹立たしい・・・
奴が建物の中から嘲笑っている様な気もして俺はそれが余計に腹立たしかった。
「小さい頃、ここでよく遊んでいたので私達が彼に頼んで開けて貰っのです・・・申し訳ありませんでした」
俺の苛立ちを察したのか花音が警官に向かい説明する。
「では偶然、ここを通り掛かってこの中に入ったと・・・?」
警官は花音の方を見ると問い掛けた。
「そうです、彼がこの中に入ったのは私達が入ってみたいと頼んだからで悪意があって入った訳ではありません!」
今度は俺の右側から美月さんが話しを合わせて必死に弁解する。
「最近、不審者がこの建物に侵入し多大な被害を受けていると相談があったので我々は張り込んでいたんだ・・・見れば学生みたいだし時間も深夜だから署まで来て貰い保護者の方と一緒に帰って貰うことになるが同行してくれるかな?」
そう言った警官に連れられパトカーに乗り込んだ俺達は警察署まで行くと殺風景な部屋で婦人警官と共に保護者を待つことになった。
しばらく待っていると「ガシャーン!!」
激しい物音がドアの向こうから聴こえた。
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