第24話 「絶対に許せない敵」

「体が小さいとやっぱり動きやすいですね!?」

シドは壁沿いをちょこちょこと小走りに進みながら言った。


「私はあの子猫が良かったのに・・・何でネズミなんだ?」

シドの後ろを同じように進みながらも警戒を怠らないミラは残念そうな口調でシドに答える。


ここは琢磨が邪悪な気配に怪しいと未来に連絡した施設の敷地内である・・・

ミラとシド、2人の異星人は未来からの報告を受けネズミに憑依するとここに忍び込んで来たのだった。


もともとこの任務は相手が相手だけに危険が伴う為、ジルが直接調査に向かうと言い出した!

ジルを敬愛していたミラはこの危険な任務に自分が行くと強硬に申し出た・・・

ジルを危険な目に合わせたくなかったのだ。


壁伝いに進んだ2人はトイレの僅かに開いてる窓の下まで来ると梯子を作り出し窓へと上り忍び込んだ!

こういった粒子から物体を形成する能力はミラの得意とする所である、床に下りた2人に聴こえたのは子供の泣き声であった。


実際に声が聴こえるのでは無く意識の声、つまりテレパシーなのだが2人は暗がりに身を移すと集中して場所を探る。


「地下なのか?この建物に地下の図面は無かったですよね!?」

あらかじめ下調べをして来たのだろう、シドは隣りでじっと集中していたミラに確認するように言った。


「そうね、図面には記載されてなかったけど確かに地下の方から微かではあるけど聴こえるわ」

シドの方を見ながらミラはそう答えると

「とにかく地下に行ける場所があるか?調べてみましょう」

そう言うと陰から陰に素早く移動しながら進み始める、ミラの後にシドも無言で続いて移動した。


建物の方々を詮索するうちに掃除用具入れのロッカーの裏に隙間をみつけた2人は黒い小さな瞳で見合うと頷き合った!

ここから先はテレパシーでさえも危険だと判断したのだろう。


このロッカーに続く通路の先には2人の男が手に大型のナイフを持ち、辺りを警戒していたのだがネズミに興味は無いらしく無事に通過することが出来たがここから先はそうも行かないことは容易に想像できた。


2人は隙間から中へと入り階段は使わず壁の枠を利用して部屋の様子が見える位置まで慎重に進んで行った。


部屋の中には50代の女性だろうか?

背後からで容易に年齢や顔までは確認することが出来ない・・・

だが背後から見ても邪悪で無慈悲な雰囲気を漂わせている。


「ここから逃げようとしても無駄だよ!」

「大人しくここで過ごしていればいいものを・・・お前をこの施設でこれ以上生かして置く必要は無くなった、恐怖を思う存分に楽しんで死ぬがいい」

体型から見ると女性で声は男性!? 奴は憑依しているのか?


向かい側には2人の男に腕を掴まれ身動きできずに泣き叫んでる女の子が見える。


例えようのない恐怖に歪んだ表情はミラとシドに痛烈な苦悩を与えるが助けることも叶わない、2人にそんな力は無いのだ!

ゆっくりと女の子に近づいたそいつは躊躇いなど微塵も無く、彼女の首辺りに噛みついた。


鮮血が辺りに飛び散りクチャクチャと吐き気を覚える不気味な音が部屋に流れ、少女は小刻みな痙攣を繰り返しながら息絶えた!

それでもそいつの動きが止まることはなく血を啜り肉を喰らい続けているのだ。


ミラは呆然とその光景を見ながら奴は人肉を喰らうのか!?

何という奴だ・・・許せない!奴は絶対に許しては置けない!

見たままを報告し万全な対策を立てて貴様を恐怖のどん底に叩き落とし、地獄へと送り返してやる・・・心の中で決意した。


壁の枠を静かに引き返し2人がもう一度、部屋を振り返った時に奴と視線が交錯した!

金色の瞳・・・口もとは赤く血で染まり服も鮮血で汚れたままで不気味に笑っていた。


確かに黒蛇だ!

確認した2人は忌わしきその部屋を限りなく暗い気持ちであとにすると施設を脱出した!

走りながらもシドは叫ぶように「絶対に許さない!」と言った。


2人はジルのもとに急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る