第23話

琢磨、花音、美月、ココア(山神)は如月家の一室に居た。


「爺さん、子犬も一緒に来たのか!?・・・ココアを気に入ってるようだけど何か理由でもあるのか?」

琢磨が山神に尋ねると

「神と言ってもわしは人間が作り出した想像の中に生きておる空想の存在じゃから人間の信仰により存在し力を発揮するんじゃ!」

ココアは俺のベッドで気持ち良さそうに寝ているが山神は続ける。


「人間によって生み出されたわしらは死した人間を自分の傍らに置くことは出来ぬ!」

「わしらは案外、孤独でのう・・・虫や動物を相手に暮らす者が多いんじゃ」

意外な山神の一面を見たような気がして一同は静まり返る。


「この子犬はわしが昔、一緒に暮らした奴に似ておる!・・・体は小さいが賢いし根性もあり度胸もあるんで死んだらわしの元に置こうかと思っておるんじゃ」

山神がそう言うと予想通り美月が反論する。


「ココアちゃんは死なないわよ! 私の大切な友達なんだから」

そう言って寝ていた子犬を抱き上げる・・・子犬にすればいい迷惑なのだが抱き締められても嫌がる素振りさえ見せない。


「犬も人間も生きてる者はいずれ死ぬ・・・美月さんがそのココアを大切に思う気持ちもわかるけど死んだ後も爺さんと一緒に暮らして行けるのなら楽しそうで良かったじゃないか」

俺が慰めるように言葉を掛けると彼女は俺に言った。


「琢磨くんは吸血鬼で死なないからそんなことが言えるのよ!」

彼女の言葉に部屋の空気が凍りつく・・・花音は膝の上で両手の拳を握り締め口を出すまいと必死に堪えていた。


「美月ちゃん、それは違うんじゃよ!」

「琢磨は永遠の命がある訳でも無いし怪我をすれば痛みもある、真っ赤な血も流れ出す・・・琢磨には吸血鬼の定めがあるが美月ちゃんと同じ人間じゃよ」

山神が彼女に諭すような口調で言うと彼女は小さな声で聞いた。


「じゃあ何であんな危険を冒して戦ったりするの?怖くないの!?」

彼女の問い掛けに俺は答えられなかった!

答えは決まっている、花音を守る為だ・・・大切な人を守る為ならばこの命などはどうでもいいことだった。


それをこの場で言ってどうなる!?

好きでもないこんな俺に守られても彼女に負担を掛けるばかりではないか!

俺は何も言えなかった。


花音はこぼれ落ちそうな涙を懸命に堪えていた!

友達の為に命を賭けて戦ってる琢磨にそれでも好きと言えたら友達と思われてても大好きって言える勇気が私にあればいいのに・・・

自分が傷つくのが怖くて言えない!


私は何て意気地なし!・・・意気地なし・・・イクジナシ!

遂に涙は堪えきれずポタポタとスカートの上に落ちて止まらない。


美月も悪気があって言った訳では無かった、彼女は琢磨を不老不死だと勘違いしていたのだ!

死なないから敵と戦える・・・傷つかないから怖くないと思っていた自分を悔いていた。


「琢磨さん・・・知らなくてごめんなさい」

美月は後悔の涙を流しながら深く頭を下げたまま動かなかった。


「美月ちゃん、愛じゃよ!・・・人は愛する者の為に己の命を賭け戦うもんじゃ!」

「大切な人を守る為にのっ」

山神はそう言うといつもの高笑いを豪快に飛ばした!

全員がその笑い声につられて笑みを浮かべる。


花音も涙を拭き、照れ笑いしながら山神の言葉を胸の奥で繰り返していた・・・愛する者の為に戦う?・・・大切な人を守る為!?

琢磨がそんな気持ちで戦ってるのなら私は伝えなくちゃ!

自分の気持ちは伝えなきゃ怖がってばかりじゃダメだよね・・・

彼女の心は強い決意とともに前に進みだした。


心の迷いが消えて答えが一つとなった時、人は最も強くなる!

山神は琢磨と花音の明るい表情を見ながらこれでわしらが奴等に勝てるかも知れんのう・・・明るい希望を抱いた。


あとはジル達の調査結果を待つのみである。

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