第22話
「気を付けて行ってらっしゃい・・・」
花音に母親の樹里は心配そうな顔で声を掛けた。
「琢磨くん、決して無理はしない様にな! そいつを倒さねば危険は続くのだろうが花音を守りながらの行動だ・・・大丈夫だとは思うが宜しく頼む! 気を付けて」
花音の父親、孝は琢磨の手を握り力強く言った。
「未来さんからの連絡ではこの近辺だろうということなので回ってみようかと思います、出歩くのは危険ではありますが花音さんは俺が守りますので申し訳ありませんが出掛けて来ます」
琢磨は孝にそう答えると樹里に軽く頭を下げ歩き出した。
「じゃあ行って来るね」
両親に小さく手を振った彼女は琢磨の横に寄り添って歩く。
「こうして見ると微笑ましいカップルなんだが・・・今は琢磨くんを信じて任せるしかない! さあ中に入ろう」
そう言って樹里の背中に手を当て促すと家の中に入って行った。
道沿いを並んで歩く2人はしばらく無言であったが琢磨の緊張感は隣りを歩く花音にも伝わるほど神経を尖らせていた。
「こうやって人を疑いながら歩くと皆んなが敵に見えてしまうなんて今まで考えたことも無かったよな?」
周囲を気にしているばかりかと思っていた彼から突然、話し掛けられた彼女はやや驚いたというか緊張した。
「子供の頃から何度も通る道なのに何だか違って見えるわ」
彼にそう答えながら彼女はこの先にある小学校から母親に手を引かれ帰る途中で見掛けた養護施設の片隅で寂しそうに空を見上げてた彼の姿を思い出していた。
彼女は母親に頼み中に入ると彼に話し掛けた!
単なる好奇心だったのか、今となっては覚えていないが彼は何も喋らず彼女を眩しそうに見上げて微かに笑った。
彼にはすっかり忘れられていたけれど彼女の心にはあの日見た彼の笑顔がずっと残っていたのだ。
立ち止まった彼の視線の先に彼と出会った施設の中庭があった!
数人の子供達が元気に遊んでいるのが門の外から見えている。
彼はその様子をじっと見ているのだが何か懐かしさを持ってみつめている様には見えない!
「琢磨、何をそんなに真剣な目で見ているの? 何か嫌な思い出でもここにあるの?・・・ねぇ!琢磨」
問い掛けにも応じない彼の様子に彼女は彼の腕を掴んで揺すった。
「あぁ、ごめん・・・何かを感じるんだ」
はっと我に返った反応を見せた彼は彼女の方を向くと囁やくような小声でそう言った。
彼の言う何かとは邪悪な気配のことである・・・彼女は彼の言葉にそっと頷くと彼の背後に隠れるように寄り添った!
これまで体験した恐怖の記憶が甦り体が震えて来るのがわかる。
そこに見えているのは10人ばかりの子供達と2人のシスター・・・
窓際にも数人の人影が見えているのだが彼はこの中の誰かが黒蛇が宿る本体であると思い探していたのか?
「ここに居るのは危険かも知れない! 気付かれないうちに向こう側に移動してもう少し様子を見てみよう」
彼の言葉に従い門前を離れ道路を横切ると立看板の陰から施設内の様子を見るのだが彼女には細部まで窺い知ることは出来ない!
だが彼には見えているのか真剣な表情で見ている。
「子供達が走り回って皆んなで遊んでる何でもないように見えるけど何か気になることでもあるの?」
彼女は彼がどういう所に不審を抱いたのか知りたくて聞いてみた。
「子供達の目から見える色が暗いんだ・・・何かに怯えてるような色が出ている!」
「あの子達は一体、何に怯えてるんだろう?」
目から色が出てる!?
もっと詳しく聞きたかったが今はそんな場合ではない!・・・彼女は何も言わず彼を見ていた。
「俺が施設に居た頃は怯える物なんて何も無かった!?」
「規則が厳しくて自由は制限されてた様な気がするけど集団生活を考えればそれは
普通だったと今は思う」
「シスターも優しく穏和な人ばかりだったし院長は・・・院長・・・?」
「院長はいつも俺を見ることが無かった!・・・そう言えば俺は院長の目を見た記憶が無い!」
彼の言葉と表情を見ていた彼女には彼の答えがわかっていた。
「急いで家に帰り未来さんに連絡して相談してみよう!」
「あの爺さんにも会わなきゃ!・・・花音さん、行こう」
琢磨は花音の手を取り歩き始める、やっぱり彼は私を懸命に守ろうとしてるんだ!
引かれる手に彼女は嬉しくて涙が出そうになった。
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