第21話

「あ~! いい湯じゃったのぅ」

こちらは美月と一緒に帰途に着いた山神。


「山神様、ホントにお風呂まで襲って来ることあるの!?」

バスタオルで髪を拭きながらパジャマ姿の美月は山神に尋ねた。


「そりゃ わしにもわからん!」

「しかし襲って来てから駆け付けても間に合わんじゃろう!? 大事の前の小事じゃ」

「わしはお主を守っておるだけじゃから気にせんでもいいぞ」

高笑いした山神は何だか嬉しそうな声で真面目そうに答えた。


「なんかココアちゃんは私の裸をず~っと見てたような気がしてたんだけど、もしかして山神様が見てたんじゃないでしょうね!?・・・」

「ちゃんと約束通り目を閉じてた? 彼が言ってたようにただのエロ爺さんだったらたとえ神様でも許さないからね!」

美月は疑わしそうな目でココアを睨みつけて言った。


「ク~ン・・・」

彼女に睨まれた子犬は申し訳なさそうな声で小さく啼いた。


「違うのよ!ココアちゃんに言ったんじゃないのよ!」

「大好きだからそんなに悲しそうな顔で啼かないでよぉー」

美月はそう言いながら子犬を抱き上げ胸に抱き締めると頭を優しく撫でながら言った。


「そうか?わしも美月ちゃんが大好きじゃぞ!もっと撫でてくれ」

すかさず山神が答えると

「あーっ! 山神様に言ったんじゃなくてココアちゃんに言ったんだからエロ爺さんは何も言わないでっ!」

やや興奮してしまったのか美月の山神に対する呼び方が山神様からエロ爺さんに変わっていた。


「いや、わしもココアの代わりに気持ちを伝えたんじゃがのぅ」

再び聴こえて来る山神の声に彼女は

「だからエロ爺さんは代弁しなくていいの!ココアちゃんの気持ちは私にわかるんだから黙っててくれる!?」

そう言うと疲れたように子犬を下ろし大の字に寝転がった。


彼女はしばらく天井をみつめたまま動かなかった・・・

ココアはお気に入りの座布団の上で目を閉じ眠ってるのか気持ち良さそうに丸くなってる。


突然、彼女は起き上がると髪をドライヤーで乾かし始めた!

急に起き上がる彼女に驚いたココアだったが彼女のそんな様子を見て安心したのかまた気持ち良さげに目を閉じる。


横目でココアのそんな様子を見ながら髪を乾かし終えた彼女はスイッチを切ると子犬を抱き上げ部屋の明かりを暗くしベッドに子犬を下ろし自分も静かに横たわる。


「ねぇ?山神様は私を必ず守ってくれるよね・・・この家では誰も死んだりしないよね?」

「私は怖いの・・・本当は怖くて仕方ない!」

「だってあんなことが起きたんだもん、きっと誰も信じてくれないから誰も助けてくれないと思う・・・」

「ここに居るココアちゃんと山神様だけが頼りなの!」

「こんな私でも山神様は助けてくれる?」

ココアの背中を撫でながら呟いた彼女の目から涙がこぼれる。


「美月ちゃんよ、わしは少々エロ爺さんじゃが本物の神様じゃ!」

「お主の信仰が上がればもっと強くなる!お主もお主の家族も全てわしが守ってやろう・・・泣かんでも良い!安心せい」

山神は優しく彼女に言った後、話しを続けた。


「勿論、敵も倒さねばならんがわしは友達から琢磨というあの男を助けてくれるように頼まれてのう・・・」

「奴は抑えきれぬ感情が爆発した時に化け物と変わるんじゃ!今の状態でもあの強さじゃから覚醒でもしたら人間では手に負えまい・・・」

「わしは奴を殺したくないのじゃ!」

「奴の正しき心が奴の持つ邪悪な心を封じ込める力を持つまで何事も起こらねば良いが・・・お主も力を貸してはくれぬかのう?」

山神の言葉を真剣な眼差しで聴いていた美月は起き上がると「それは愛だね!?」と力強く言った。


「そうじゃ!愛じゃ・・・わしにも少しくれんかのう?」

そう言った山神に彼女は

「山神様には信仰が必要なんでしょ?毎日、拝んであげるよ!」

笑顔で言った後

「愛を込めて・・・ね!」とココアにウインクして見せた。


「わしの名前はココアかぁ」山神は冗談混じりに呟いた。

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