第19話
結局、花音は家に帰り着くまで琢磨と話さなかった。
友達!?・・・私と琢磨は友達なの?
彼女には琢磨のひと言がショックで彼に怒ってしまったのだ!
彼は私を守る為だけに何も言わず後を着いて来てるんだろうか?
色んなことをここまで考えながら歩いて来たが冷静になって思い返してみれば彼は何も悪くないのだ。
好きだって言えば良かったなぁ・・・怒ってるよね!?
彼の無言を彼女はそんな気持ちで受け止めていたのだった。
「ただいまぁ!」
玄関を開けると家の中に声を掛けてみた!
リビングのドアが激しく開く音、慌ただしく駆けるような騒々しい足音が玄関へと迫って来る。
それはそうだろう・・・彼女が学校帰り事件に巻き込まれ、子犬に取り込まれてから数日が経過しているのだ!
きっと心配した両親は大騒ぎをしたに違いない。
そこに琢磨と2人で帰って来れば・・・?
彼女は頭の中でもう一度、繰り返した!
琢磨と2人で帰って来れば!?・・・もしかして誤解される?
いきなり子犬に取り込まれたなんて話したら誰か信じてくれる?
えっ、無理だよね?
そんな理由なんていくら自分の両親だからって信じてくれる訳ないよね?
色々と考えてみたが答えがみつからない彼女は琢磨を振り返って救いを求めようとしたが彼はまださっきのことを怒っているのか、うつ向いたままで答えなど求めるのは無理であった。
「お帰りなさい」
何も思いつかないまま動転していた彼女に意外と冷静な母の声が背後から聴こえた!
信じて貰えなくても真実を言うしかない・・・彼とは何も無かったのだと!
2人で駆け落ちしたのではないと言うしか・・・
諦めて振り返った彼女が見たのは4人の優しい笑顔だった。
祝福の笑顔!? だって私は彼に好きとも言えてないのよ?
彼は私のこと友達だって・・・思い出した彼女は泣き出した。
「泣かなくてもいいよ花音、無事で良かった!」
父親の孝からそう言われ彼女は泣きながら母親に抱きついた!
「未来さんが霊能者の友達から聞いたそうで教えてくれたんだよ!」
「お前達が悪い奴等に追われて子犬の中に隠れていたんだって」
父親の言葉に花音は恥ずかしさを覚えて顔が赤くなるのがわかり母親の胸から離れられなくなってしまった。
子犬に隠れてたって素直に受け入れてしまうお父さんもどうかと思うけど未来さんは確かに不思議な力を持ってるし駆け落ちなどバカな想像をしていた私よりいいよね。
「何日も仕事を休んでしまい申し訳ありませんでした」
琢磨の謝る声が聴こえてホッとする自分に気づき花音は止められない想いに何だか切なさを感じてしまった。
「いいんだよ! 琢磨くんは花音を懸命に守ってくれたそうじゃないか!?」
「何か特別な力を持っていると聴いたが俺はそんなことなど気にしないからこれからも花音を宜しく頼む!」
父がそう言って琢磨の手を握り頭を下げているのが見えた。
普段から父は琢磨を信頼していたし琢磨は父を心から尊敬していた・・・
そんな2人を羨ましく見ていた花音は何だか嬉しくなり、さっきまでの怒りや焦りも消えてしまった。
「琢磨くんもどうぞ、あっ! 玄関の鍵、お願いね」
花音の母、樹里に言われた琢磨は返事をしながら玄関の鍵を閉めようとした瞬間、何か気配を感じドアを開けた!
一同は突然、玄関が開く音に驚いて振り返り琢磨に注目する。
「何かを感じたの?」 未来が気を遣い琢磨に尋ねた・・・
「いえ大丈夫です! 神経質になり過ぎてるのかも知れません!?」
笑顔で返答した琢磨は鍵を掛けると一同に続いてリビングに向かいながら考え込んでいる様子だった。
「私、琢磨を信じてる!」 琢磨に近づいた花音は小声で言った。
「誰かが扉の向うにいたように感じたんだけど・・・?」
そこまで言うと花音の不安気な表情に気づき
「君のことは俺が必ず守る! なるだけそばを離れないでくれよ」
そう言った琢磨に花音は嬉しそうな笑顔で
「わかった! 絶対に離れないからね」と答えた。
琢磨はその言葉に曖昧な表情で頷くと彼女から視線を外し俺は何か、彼女が喜ぶようなこと言ったかなぁ?と首を傾げながら考えていたのである。
そんな2人の恋はまだ実りそうにない・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます