第18話 「恋の行方は?」

「じゃあ俺達も帰ろうか?」

花音の顔を何となく見れなくて視線を外したまま俺は言った。


「ここに長居するのはマズイ! 誰かが戦ってる現場を見てたかも知れないから・・・さあ、送って行くから帰ろう」

彼女にそう言いながら伸ばした手をすんなりと握った彼女は俺と並んで歩きだした。


「ずっと話せなくて寂しかった・・・」

ポツリと呟くように言った彼女の言葉に俺はつないだ手を少し強く握ったが黙ったまま何も答えなかった。


誰かがもう1人、子犬の中に居る様な気がしていたがまさか彼女が一緒に居たなんて考えもしなかったのだ!

言葉を話すことも出来なくて俺と山神との会話を聴いているだけの数日間はどんな気持ちだったろう?

寂しかったと言った彼女に掛ける言葉が見つからなかったのだ。


彼女を守ることが山神が俺に与えた使命!

だが俺はそうでなくても彼女を守るだろうと考えて何だか1人で盛り上がってるような可笑しさに照れていた。


無言のまま手をつないだ2人は人混みを避け遠回りするような道を選んで歩いた・・・突然の襲撃を回避する意味もあったが彼女と少しでもこの時間を過ごしたかったのかも知れない。


ほんの少し遅れて歩く彼女の手を引く様な感じで歩いてる時間が永遠に続いて欲しいと願った。


「ねぇ? 琢磨くんの緑の瞳は吸血鬼の証しなの・・・」

彼女は俺に聴こえるか聴こえないかぐらいの小さな声で問い掛けて来たのだが常識を遥かに超えた聴力を持つ俺には彼女の言葉がハッキリと聴こえる。


「そのことだけど俺も良くは知らないんだ! 小さい頃、母さんに聞かされてた記憶が残ってる・・・怒りや悲しみの感情を強く抱いてはいけないと言い聞かされてた」


「俺がこれまで他人との関わりを持たないように過ごして来たのはそんな理由もあるんだ・・・」

「吸血鬼として覚醒し化け物になると二度ともとには戻れない! 殺戮を繰り返すだけの化け物として死んで行くしかないんだろうな」

自嘲気味に言った俺はふと彼女が立ち止まっていることに気付き歩みを止めて振り返った。


背後のビルに反射した光が眩しくてやや見えにくいが彼女の視線は確かに俺の方をじっと見ていた。


何か怒らせる様なことでも言ったかな・・・?

そんな思いで彼女が何か言うのをしばらく待ってみたがこちらを見て立ち止まったまま何も言わなかった。


しばしの沈黙に耐え切れなくなった俺は彼女に歩み寄ろうと動き出した瞬間、彼女は半ば叫ぶように言った!


「こっちに来ないで!」


その強い口調に俺は動きを止め彼女の方を見た・・・

反射で見えなかった彼女の表情が位置を変えたことで見える。


俺の目に映ったのは彼女の泣き顔だった!


何で彼女が泣いてるのかわからない俺は焦ってしまい何か言おうとしたが何を言えばいいのかもわからないままその場に佇む。


「なぜ琢磨はいつもそうなの!?」

彼女の言葉に俺は何も答えない・・・やっぱり怒ってるんだ?と思ったのだが、なぜ怒ってるのかがわからないしいつの間にか俺のことは呼び捨てである。


「何でも自分だけで抱え込んで何も話してくれない! 私はいつも琢磨のそばに居たのに何も話してくれなかったじゃない!?・・・ずっと心配してたのに私は琢磨に必要ないの?」

ポロポロと流れ落ちる涙を拭くこともなく彼女は言った。


「いや、あの・・・君にはとても感謝してるしたった1人の友達だから必要っていうか・・・本当は・・・」

好きなんだと言おうとしたが泣いてる彼女を前にして言っていいのかどうかがわからない俺は言葉を飲み込んでしまった。


「琢磨のバカっ! 大嫌い!」

彼女はそう言うと取り出したハンカチで涙を拭きながら俺の横を通り過ぎ、さっさと歩きだした。


告白も無しに俺は失恋してしまったのか・・・?

落ち込みながらも慌てて彼女の後を追った。

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