第17話

琢磨は彼女とココアを探していた。


「一体、どこまで逃げやがったんだ、あの爺さん・・・」

彼は罵るように呟くと舌打ちをする。


ここまで来る途中、何度か人に聞いてみてはいたのだが誰も見たという証言もなくここに至っていた!


「すみません、人を探してるんですけど・・・子犬を連れた女性で急いでいるような感じだったと思うんですが心当たりないですか?」

通り掛かる女性に尋ねると

「あぁ、そう言えば向こうの川辺に向けて走って行ったみたい」


「ありがとう!」

そう言った俺はまた走り出した。


山神は美月の前に出たが歩み寄る彼等の目から見れば少女の前に黒い子犬が立っているに過ぎない・・・

武器を手に薄笑いさえ浮かべながら全くの無警戒で近付いて来るのが彼女に余計な恐怖を与えていた。


彼等があと数メートルに来た時、驚愕の表情に変わった!

何と単なる子犬に過ぎなかったココアが3mはあろうかといった大きな怪物に化身すると彼等に向かい「ウウーッ」と威嚇したのだ。


熊でもない、狼でもない・・・背中に翼を持ったそれは真っ黒なドラゴンと言った方が適切かも知れない!

そのドラゴンらしき怪物は軽く飛び上がると後方から振り出した尻尾で1人の男を10mも先にはね飛ばした。


もはや立ち上がるどころか生きてもいないであろう男には関心も示さず、またもや次の男を尻尾で振り払う!

やられた男は川面に飛ばされ水飛沫を上げながら向こう岸まで辿り着くとピクリとも動かなかった。


残った男達は恐怖の表情を浮かべながら後方に下がって行く!

残るは2人・・・右側の男に突進したドラゴンは首を右から左に振り、薙ぎ払うと男は空高く舞い上がり異様な音を立て地面に叩きつけられ痙攣し動かなくなった。


土手を駆け上がり逃げようと試みた最後の男は登りきった所で何者かに殴り飛ばされ川面に落ち、沈んでいった!

土手の上には琢磨が現われこちらを不思議そうに見ていた。


土手から下りて来る琢磨を見た漆黒のドラゴンはココアの姿に戻ると呆気にとられて見ていた美月の元に駆け寄った。


「ありがとう、ココア!」

美月はそう言って子犬を抱き締める。


きっとあの爺さんはココアの中で大喜びしてるだろうなぁと思いながら俺は彼女のそばまで来ると話し掛けてみる。


「あんな怪物に変わるその子犬が君は怖くないのか?」

思った疑問を素直に聞いてみた・・・

「えっ!? だって私を2度も助けてくれたのよ!・・・怖いなんて思わないです、最後の悪い人は貴方がやっつけたみたいですけど何か知っているなら教えて下さい!」


「そうじゃの、話してやらねば用心も出来んじゃろう」

返答に困っていた俺に山神が応えてくれて正直、助かった!

「その前にこの娘も出してやらねばいかんじゃろう・・・」

山神がそう言った直後に陽炎のようにボンヤリと浮かび上がった影は次第に色を帯びてきて花音の姿になった。


「花音!・・・さん、君だったのか!?」

俺は驚きの表情でぎこちない言葉を発した自分を悔やんだ!


「そうじゃ、この娘は白蛇の善意が入った袋を持っておるんじゃ!」

「お前は彼女とその袋を守り抜くのじゃ・・・決して奴等に渡してはならん! 責任は重いぞ、大丈夫じゃな?」

山神は俺にそれだけ伝えると続けて言った。


「美月ちゃんはわしがココアと協力して守る! さっきも見たじゃろうがわしは意外と強いのじゃ・・・神様じゃからのう」

いつの間にか美月さんをちゃんと呼んだ山神は上機嫌の高笑いをしばし続けた後、真面目な声で言った。


「二手に別れればどちらが狙われておるかがわかるじゃろう!?」

「お前はその娘から一時も離れてはならん!」

「常に行動をともにし、危険から守るのだぞ!」

「わしの友人が手配してくれとるじゃろうから気を付けてその娘の家に帰るんじゃぞ」


山神はそこまで威厳を持った声で俺達に言うと今度は

「美月ちゃん、では一緒に帰ろうかのう」


何とも締まりのない声で言った後、俺に「それじゃあ またの!」ココアは彼女に抱かれながら帰って行った。


「エロ爺さんめ!」

俺が思わず呟いた言葉に「ふふっ」と花音は笑った。

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