第14話

「なっ!?・・・」

声を出す時間もなくその首は潰された形状で遠くに転がった!

別に凶器を持っている訳でもない・・・ただその恐るべき力と繰り出すスピードが人の体を粉々に切り刻んでしまう。


善という心を無くし悪というモノに支配された男は我々が想像する吸血鬼とは全く違い口は耳まで裂けるように広がり目は赤く、爛々と光り点と化した光沢のない黒き瞳。


髪は抜け落ちてしまったのか頭部には無く、腕は太く隆起し膝の辺りまで垂れ下がっている!

まさに怪物のような姿をして人影を見つけるたびに何の躊躇いも無く襲いかかると簡単に命を奪ってしまう。


パトカーのサイレンが村に鳴り響き到着した警官はすぐに無線で大量の応援を要請した後、男に警告しようと試みたがすぐに肉片となり命を奪われた!

残ったもう1人は半狂乱で腰のピストルを乱射したが弾は逸れ、弾丸の尽きた銃の空撃ちを繰り返すだけの動作で同じように瞬殺されてしまった。


応答の無い無線機と届かない情報、意味不明な言葉を絶叫しながら途絶える声・・・県警は小さな村で起きている事件に大量の警官隊を送り込み、上層部への報告を終え司令を待った!

威嚇射撃で怯むような相手では無い。


2mを超える化け物が目に止まらぬ速さで瞬時に移動しながら誰にでも襲い掛かり命を奪って行くのだ!

遂には付近に駐屯する自衛隊までフル装備で出動することになった。


村から流れて来る用水路はうっすらと血に染まっている!

夜も更け外灯を残し真っ暗になった村を目指して訓練を積んだ重装備に身を固めた自衛隊が小銃を構えながら慎重に前進して包囲網を縮めて行く。


彼等が受けた命令は「発見次第、速やかに射殺せよ!」だった。


村人を含め殺されたと思われる人数は20人を超えているのである・・・これほど危険な化け物を夜が明けるまで放置し待つ訳には行かなかった!

身の危険を意識しながら手で細かく合図を繰り返し確認しつつ家並が確認出来る位置まで辿り着くと身を屈め戦闘配置に付きいつでも撃てる状態で安全装置を外し構えた。


彼等の背後にも同じ装備の部隊が身構え更に後ろにはライトを照らす一隊と護衛に立つ部隊・・・総勢100名を超える人数が2重3重に取り囲んでいた。


化け物となった男に良心など欠片も残っていない!

愛する妻を陵辱された怒りと恨みが男を覚醒させてしまったのだが相手を殺し血飛沫を体に浴びて行くごとに復讐という目的は殺戮という愉しみに変わっていたのだ。


軒下の陰から見える自衛官は殺戮という愉しみを満足させる為の玩具に過ぎなかった!

化け物となった男は軒下から飛び出すと彼等に襲い掛かる瞬間に方々から銃声が響き、放たれた銃弾が男を襲った。


化け物とて不死身では無い!

数発が男に当たり苦悶の痛みを感じた化け物は体制を立て直す為に隠れ場所を探し引き返したが容赦なく小銃が連射され続ける。


「ブウォ~!」哀しくも聴こえる絶叫・・・雄叫び!?

多くの銃弾を背中に浴びた化け物は遂に苦悶の声をあげた!

勢い余って物置きの扉を突き破り倒れ込む。


死の痙攣を続けながら息絶えて行く化け物から流れ出した血は人間と同じ真っ赤であった!

床一面を赤く染めながら白蛇様の御霊である白蛇の皮が入った袋を濡らした。


良心など何一つ残らない男の邪悪な血が神と祀られた白蛇様を2つに分けてしまう・・・善と悪!

2mほどの黒蛇が袋から這い出し壁をすり抜け闇に消えた。


薄く小さくなった白蛇の皮が入った袋を拾い大事そうに胸元に仕舞い込んだのはここに隠れていた白蛇神社の巫女・・・

彼女は「山神様に聞いてみなくちゃ!」

そう呟くと裏口を開き何処かを目指して消えた。


森の中で迷子になった彼女は不思議な光に小石を積み上げ祈りを捧げ、山神の声に助けられたことが有り時々、供物を持っては御参りを重ねていた・・・

あの日以来、声を聴くことは無かったが山神の存在を信じていた。

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