第11話

「お~い! 山神様~っ!・・・聴こえますかぁ?」

サラはテレパシーで呼び掛ける。


「ここじゃ、ここにおるぞ!」

声のする方にサラが近付いて良く見ると小さな虫みたいな人間らしきものが小石にしがみついてこっちを見ていた。


そっと顔を近付けて匂いを嗅いでみると

「コラコラッ! 鼻息で吹き飛ばされちまうじゃろうが!?」

山神は尚も小石にしがみつくとサラに文句を言った!


「こんなに小さいとは思わなかったので搜索に手間取り申し訳ありませんでした、ところで御怪我はありませんか?」

サラが興味深そうに眺めながら山神に尋ねると


「これでも棲家が大きかった頃はどんなものにでも変われたんじゃが信仰が薄くなってからはこのザマじゃ!」

嘆く様な声をテレパシーでサラに送って来た。


「その昔、1人の女の子がこの小石を積み上げて拝んでくれたんじゃ・・・それでここまで消えずに済んだという訳じゃ」

今度は涙ぐんだ声で言った山神は突然、大きな声で言った。


「何じゃそれは!? ジルに迎えを頼んだがそんな子犬を連れて来てどうするんじゃ? 犬を連れて来るなら何でもっと大きい犬を連れて来んのじゃ!」

「その子犬でわしに加勢をしろと言うつもりじゃあるまいの!?」

今、子犬に気付いたのだろうが興奮気味である。


「いえ、途中まで人間に憑依して来たのですが我々は人を自分の意思で動かすことが出来ない為に・・・そのぉ・・・」

何とも歯切れの悪い返事に山神は言った!

「人は動かせんでも動物だったらある程度は出来るじゃろう?」


「実はですね・・・余りにも可愛かったので・・・つい!」

サラは山神の追求に堪えきれなくなり本音を洩らした。


「お主にも可愛いという感情が理解出来る様になったか!?」

「それは大した進歩じゃ! ジルと最初に会った時は人間と動物の区別も出来ぬほどじゃったからのう・・・」

山神はそう言うとふわりと子犬の頭に飛び乗った。


彼の体はスーッと何の抵抗も無く吸い込まれるように消え

「さあ、こいつの脚ではスピードも速くはなかろう?」

「だがこの子犬はなかなか勇気と根性があるようじゃ!急ぐぞ!」

山神が言い終わらないうちに子犬は元気に走り出す!


「サラとやら、お主は案外いい奴を連れて来たかも知れぬぞ!?」

「なかなか賢そうで元気な子犬で将来が楽しみじゃて」

どこがどう違うかわからないが山神は気に入ったようであった。


今日は琢磨に会えるかな?・・・話しが出来るかな!?

早く帰らなくちゃ!

最近は仕事も忙しくてあまり話せていない彼を想い描きながら花音は学校からの帰り道を歩いていた。


「きやっ!?」

突然、路地から飛び出して来た女性とぶつかり花音は彼女と重なり合うように路肩に倒れ込んでしまった。


「ごめんなさい! どこか怪我してない?」

押し倒す様になってしまった花音を気遣いながら彼女は素早く立ち上がり言った。


「ビックリしただけで・・・私は大丈夫です!」

その慌てた様子を見ながら花音も続けて立ち上がり答えた。


周囲を絶えず気にしながらも彼女は立ち上がった花音に対し

「お願いがあるの! この袋に入っている物は白蛇様の善の心なのだけどあなたが大切に持っていてくれない!?」

「これを消してしまおうとする悪い人達に追われているの!」

彼女はそこまで話すと尚も周囲を気にしながら続ける。


「もう詳しく話している時間がないの! お願い!・・・これを持って今すぐここから逃げて! 私がもし、生きてたら貰いに来るから・・・とても大切な物だからきっと守って下さい!」

そこまで言うと彼女は走り出し反対側を左手で指差した。


「早く隠れて・・・!」

花音は彼女が指差した路地に素早く身を隠し彼女の様子を窺うようにビルの陰から見ると数人の男達が彼女を追い掛け引き倒すと手にしたナイフらしき物を体に突き立てた!

引き抜くと更にもう一度・・・もう一度・・・もう一度。


血飛沫が舞い上がり歩道上は赤一色になり、あちこちで女性の悲鳴が響き渡る!

男の1人が花音の方を振り向いたかと思うと日差しに妖しい光を放つナイフを片手にこちらに歩いて来る!

「どうしよう!?」

体が震えて逃げ出すにも動けなかった。


花音はあまりの恐怖に言葉を失い彼女から預かった袋をみつめ胸のポケットに入れるとビルの陰に隠れ、洩れそうになる悲鳴を両手でしっかりと塞いで堪えた。


「やっぱりここに居ったのか!」

突然、すぐそばで聴こえた声に彼女は気が遠くなる・・・

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