第10話
如月孝さんは俺の話を真剣に聴いてくれた。
「いつも花音が琢磨くんのことを話してるから初めて会った気がしないわ、コーヒーで良かったかな?」
彼女のお母さんで樹里さんがそう言いながらコーヒーをテーブルに置くと孝さんも「そう言えばそうだな」と笑う。
「そんなこと言ったら琢磨くんに誤解されちゃうでしょ!?」
彼女は顔を真っ赤にして否定し照れながらも俺の前にコーヒーを差し出すと「遠慮しなくていいのよ」と気を遣ってくれる。
「琢磨くん、本当に進学しなくていいのかい? ウチの工場は見てわかるように規模も小さい・・・君のような子が働いてくれるなら助かるんだが学歴は現代社会に於いて重要なんだ、将来を考える時に後悔することにもなるかも知れないよ」
孝さんはとても真面目な顔で俺を真っ直ぐ見ながら聞いた。
「俺は多くを望みません! それにこんな姿で注目され続けて来た学校というものは嫌いです・・・見た目で判断せず信頼してくれた孝さんの役に立てるのなら懸命に働きます! これまで自分の居場所はどこにも有りませんでした・・・俺は自分の居場所が欲しいんです! どうか御願いします」
そう言って深く頭を下げた俺をじっと見ていた孝さんは言った。
「よし! 琢磨くんの決意はわかったよ、中学を卒業したらここに来てくれないか!? 一緒に頑張ろう!」
樹里さんも花音も嬉しそうに手を叩きながら「合格おめでとう!」と俺を祝福してくれた。
「まだ未成年だから手続きは卒業する頃を見計らってやるとして施設を出て住む場所を決めないといけないな?・・・」
孝さんが俺に今後の話を説明していると「ピンポーン!」と玄関でチャイムの音がした。
何やら賑やかな声がすると玄関に向かった樹里さんは1人の女の子を抱いた夫婦らしき人を伴ってリビングへと戻って来た。
「じゃあ俺はこれで失礼します」立ち上がる俺を見た女性は「貴方が須藤琢磨くん・・・よね?」と俺に名前で呼び掛けた!
「えぇそうですけど・・・?」
俺はその女性と全く面識が無かった!
女性の方も何か半信半疑で俺の名前を呼んだ様な気がしたのだが・・・!?
「私達はある人から頼まれてここに来たの!
多分、言っても貴方はその人のことを知らないしその人は亡くなった貴方のお母さんから貴方のことを頼まれたらしいわ」
女性の名は佐藤未来、彼女は宇宙人のジル達が持つ知識を消されなかった為に彼等からのテレパシーを受けることが出来た。
隣りで女の子を抱いている男性は佐藤涼介、その腕に抱かれてるのは彼等、夫婦の娘で未希(ミキ)だと紹介された。
「孝さん、この琢磨くんは僕達が保証人となり中学を卒業したら成人するまで未来の実家で預かることにします!」
「琢磨くんには急な話しで戸惑ってるかも知れないが僕達は君の味方だから信じて任せては貰えないだろうか?」
涼介と名乗った男性は誠意ある態度でそう言ってくれた。
俺に反対する理由など何一つない!
「何と御礼を言っていいかわかりませんが宜しく御願いします」
そう言って深く頭を下げた俺は心の底から佐藤さん夫婦に感謝の気持ちで一杯であった。
そして隣りで自分のことのように喜んでいる花音と目が合った俺は
「君の御陰で俺は何だか明るい未来を見ることが出来た、本当にありがとう・・・感謝してるよ」と小声で言った。
彼女は両手で口もとを押さえながら「良かったね! 琢磨くん」と言った声は涙で少しかすれていた。
その日を境に2人は良く話すようになったが相変わらず俺は彼女の気持ちがわからないままで明るく話す横顔を意識しないように努めていた・・・
彼女の心の色は優しいピンク色で以前とは少し違って見えた。
俺は自分の心さえ曖昧でわからないまま中学を卒業すると如月さんの工場で働き始めた。
佐藤さんの両親はとても親切で隣りに住む、佐藤さん夫婦も色々と気に掛けてくれて俺は孤独という魔物から初めて解き放たれ幸せとはこういうものかと感じていた。
「じゃあ行って来ます!」
いつも通りの挨拶で家を出て工場まで歩いて行く!
今日は午後からの勤務・・・追加注文の為にフル稼働中の工場は最近、深夜まで働くことが多くなったが仕事は楽だった。
如月さんの自宅前を通ると「琢磨くん!」と樹里さんが呼び止め「花音を見なかった!?」と聞かれた。
事件は起ころうとしていたのだ!
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