第9話

なんか待ち伏せしてるみたいで嫌な気分だ!

さっきから正門で待っている俺は通り過ぎて行く他の生徒達に注目されているような気分だった。


本当は誰一人、気に掛けてはいないのだ・・・友達と楽しそうに語り合って通り過ぎて行くだけである。


花音は毎朝、こうやって俺を待っていたのか?

確か、雨の降る日もオレンジ色の傘をクルクル回しながら待っていたのを覚えている・・・ただ「おはよう」のひと言だけを告げる為に彼女がいつも俺を待っていたのだとしたら?


そんなことを考えながら待っていた俺に彼女の足音と息遣いが聴こえて来た!

まだ玄関を出たばかりで走って来るのが見えている・・・俺は彼女が走り寄るまで知らない振りをして待つ。


「さっきは泣いちゃったりしてごめんね!」

走って来るなり彼女は笑顔で俺にそう言って謝った・・・そんな彼女を見た俺は「じゃあ帰ろうか?」と先に歩き出した。


「もしかして怒ってる?」

彼女の意外な問い掛けに驚いた俺は「どうして? 俺は怒ってなんかいないけど、そう見えたのかなぁ」

半分は自分に問い掛ける様な口調で思わず照れ笑いをした!

そんな俺を見て安心したのか続けて問い掛けてきた。


「職員室での話は進路のことでしょ!? 高校とかは行かないの?」

彼女は俺を追い越すとこちらを向いて立ち止まる・・・


「いや、俺は経済的に余裕も無いし勉強も嫌いだし学校という場所が窮屈で嫌いなんだ! どこか働ける場所を探し施設を出て自分の力で生きて行ける様になりたい」

彼女に合わせて立ち止まった俺は今まで誰にも話したことがない自分の気持ちを初めて素直に明かした。


俺の話を聴いた彼女はまた歩き出すと黙ったまま何かを考えてる様子だったが

「ちょっと私の家に今から遊びに来ない?」

また立ち止まって振り向くと突然、とんでもないことを言った!


急に立ち止まりぶつかりそうになった驚きと彼女の申し出による驚きが重なり俺は思わず答えてしまった! 「いいよ」・・・と。


それからの彼女は何がそんなに嬉しいのかスキップみたいな足取りで歩きながら軽やかな口調で話し掛ける!

俺は彼女の家が近付いて来るごとに気が重くなる・・・

2人は対照的な気分で彼女の家にたどり着いた。


門扉を開けると彼女が導くまま恐る恐る着いてくと

「わんわん!」犬が吠えたてる!

「大丈夫よお父さん! この人は私の友達で今日はお父さんにお話があって来たのよ」

そう言った彼女は俺を見て微笑むと

「これが私のお父さんよ!」

鎖で繋がれた中型犬の頭を撫でながら俺に紹介した。


この状況で、このつまらないギャグで、この俺に笑えと言うのか!?

絶句したままの俺を見て悪戯っぽく笑った彼女は更に奥へと続く通路を歩きながら「この奥にお父さんの工場があるんだけど本当は道沿いから入るんだ・・・でも今日はこっそり紹介したいからここを通ったの!」


建物の前に来ると「ここで待ってて」と小声で言った彼女はドアを開けて中へと入って行った!

やがてお父さんらしき人物を連れて来た彼女は「この人が前に話した琢磨くんよ」そう言って俺のことを紹介した。


「須藤琢磨です!」緊張しながらもハッキリした声で彼に挨拶すると彼は右手を差し出し「この娘の父で如月孝です! よろしく」

握手した右手に俺は会ったこともない父親を微かに連想していた。


「もうすぐ仕事も終わるからこの娘と家で待っててくれるかな?」

彼女は俺のことを心配して頼んでいてくれたに違い無かった・・・

この人のもとで働いてみたいとこの時、俺は決心した!

「じゃあ、また後でな」軽く手を挙げながらドアを開け中に消えたが男らしいその笑顔はとても優しく見えた。

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