第8話
「そろそろ進路を決めないと・・・」
クラス担任からそう言われた俺は職員室を出た。
「珍しく暗い顔・・・どうしたの?」
俺は学校で笑ったことは無い・・・だが彼女、花音には俺がそんなに暗い顔をしているようには見えないらしい。
俺はそんな彼女を優しい人なんだなぁと思った・・・
職員室を出て扉を閉めた俺に通り掛かった彼女はそう尋ねた。
「いや、別に大したことじゃないさ」
俺は答えて立ち去ろうとしたが彼女に制服の袖を掴まれ呼び止められてしまった!
心の色を読み取ろうと習慣的に彼女の瞳をみつめた俺はすぐに彼女の瞳から目を逸らしてしまった。
いつもの色と違う!・・・ブルーだ
きっと彼女は俺のことを本当に心配してくれているんだ!
誰1人、頼る人も守る人も無く孤独を当り前だと思うことでこれまでを生きてきた俺にとってそれは衝撃だった。
思わず涙が出そうになり上を見た俺は制服の袖でさり気なく涙を拭き取ると「ん!? どうしたんだい?」と彼女に言った。
「貴方はいつも強がって優しくない振りをしてるけど私にはわかるの・・・何故、話してくれないの?」
挨拶だけしてすぐに駆け出してしまう癖に今日の彼女は真剣な顔で話し掛けてるし掴んだ袖も放さなかった。
「わかったよ・・・話すからそんなに泣きそうな顔すんなよ」
そう言ったが実際に泣きそうなのは俺の方だった!
「ありがとう! 今日は他に何も用事がないから一緒に帰ろう!?」
掴んだ袖を名残惜しそうに放した彼女は恥ずかしそうにうつ向きながら言った。
彼女は俺と違って成績も抜群に良く生徒会役員やクラス委員長等を任されていて女子陸上部のキャプテンでもある・・・可愛いし学校では人気も高かった!
そう!俺とは全くの正反対と言っていいだろう。
「一緒に帰るのは構わないが君は大丈夫なのか?」
俺が彼女に尋ねると「えっ?」・・・と意外そうな表情を見せた後、
「どうして? 私の家は貴方の家から近いのよ」
そう言ったがすぐに「ごめんなさい・・・」と謝った。
施設に住む俺を気遣っての謝罪なのだろう・・・そんなことなど気にする必要もないのにと思いながら理由を言った。
「俺はこの学校で誰も友達はいない、人と話すのも面倒だし人に好かれたいとも思わない! そんな変わり者の俺が君と一緒に歩いたら後で君が友達に何か言われたりするんじゃないのか?」
彼女は俺の言葉を最後まで聴くと目にうっすらと涙を滲ませ
「私は貴方のことを友達だと思ってた! 私の友達がそんなことを言うのなら友達じゃなくてもいい、でも貴方とは友達でいたい!」
「挨拶だけして先に行ってたのはそんな意味じゃない!・・・そんな意味じゃないの・・・」そう言った彼女の目から涙がこぼれ落ちた。
何だ?・・・もしかして俺が泣かせちまったのか!?
何か泣かせるようなことを言ったかなぁ・・・冷静に考えろ!って落ち着いて考えてる場合じゃないぞ!
「じゃ、じゃあ俺は鞄を取って来るよ・・・正門の所で先に待ってるから君はゆっくりでいいからな」
そう言って彼女を残し、逃げるように教室へと駆け出した俺の鼓動は速くなっていた・・・何だこの押し寄せて来る意味のわからないドキドキする感情は?
もしかして彼女はこんな思いで俺から走って逃げてたのか?
自分の特殊な能力を隠す為に他人との係わりを避け人の心の色を見ることだけで判断して来た俺は人の気持ちなどを今まで考えたことが無かった!
あれほど真剣な気持ちをぶつけられたことの無かった俺は著しく動揺していた。
慌てた様子で教室に飛び込んで来た俺を見た数人が異様な緊張感で出迎えたが急いで鞄を取り、教室を出ると左右を見ていつもと違う方向に駆け出した!
靴箱にたどり着いた俺は「はぁ~」・・・ため息をついた。
俺は彼女から逃げたのか?
彼女を泣かせてしまったから逃げちまったのか・・・!?
多分そうでは無かった! 恥ずかしかったのだ!
若干うなだれた格好で靴を手に持ち歩き、ふと立ち止まった。
もしかして俺は彼女を好きなのか!?
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