第6話

「ワンワンワン!」

子犬が懸命に吠えながら走り、振り向いた男の股間をすり抜けて彼女の方へ近付いた・・・彼女は突然の出来事に恐怖を忘れ子犬を見ている。


「よしっ、今だぁ!行けぇい!」

山神が大きな声で叫ぶと琢磨の体は子犬から離れると実体化してゆく・・・「ワンッ!」子犬は短く吠えると彼女の胸にジャンプし飛び込んだ!


不意を突かれた彼女は子犬を抱き締めながら仰向けに倒れる。


琢磨はめくれたスカートから見えたパンツの色を確認すると、驚いた表情でナイフを持つ男の顔面を狙い右の拳を打ち込んだ!

かなり手加減したつもりだったが異様な音を立てながら彼の拳は男の顔面にめり込んでいく。


その衝撃は凄まじく、男の体は宙に浮くと2メートルあまり後方へ吹き飛んで失神していた!

倒れた男を受け止めた路面は激しく水飛沫を上げながら更に後方へと男の体を滑らせる。


琢磨の姿は陽炎のように消え、子犬の体内へと吸い込まれて行く!

まさに瞬殺であったが男は殴られた衝撃で気を失っただけで死んではいない・・・

だが左顔面の骨は砕け、容易には立ち上がれないだろう。


起き上がつた彼女は向こうで倒れている男を見ると信じられないといった表情で子犬を抱き締め「ありがとう!」と言った!

子犬を抱いたまま立ち上がると傘とカバンを拾い、男の脇を走り抜けて近くを通り掛かった人に助けを求めた。


傘はさしているもののズブ濡れでタオルを掛けられた彼女は寒いのか?それとも怖いのか?子犬を抱き締めたまま小刻みに震えていた・・・

彼女の説明を聴いた警察官は襲われた彼女のそばで車にでも跳ねられたかのような男の状態を見て首を傾げた。


「一体、何が起こったんだ?・・・子犬が助けてくれたと彼女は言ってるが死んでないのが不思議なくらいの力だぞ!?」

その疑問にもう1人の警察官が頷いて答える

「顔に拳の跡がハッキリ残ってるらしい・・・凄まじいな!?」

そう言いながら振り向いた警察官が彼女に言った。


「大変な目に遭いましたね!ご両親には連絡しましたのでパトカーで自宅まで送ります・・・勿論、その命の恩人も一緒に乗って構いませんよ」

オレンジ色の優しい笑顔である。


パトカーに乗せられた俺は言った

「薄いピンク色だったな!」

その言葉に山神が聞き返す・・・「誰の心の色じゃ?」

「いや・・・彼女のパンツの色だよ」

俺の答えに山神は思わず吹き出しながら俺に言った。


「あの状況でパンツの色まで確認する必要は無かったろうて!?」

「ウ~、ワンワン!」子犬が興奮して吠える!

「お家に着いたら綺麗にして御飯あげるからね!」

彼女が優しく子犬の頭を撫でながら抱き締めた。


「爺さん・・・今、コイツは怒ってなかったか?」

俺が何気に問い掛けると

「そうかも知れんのう・・・なかなか頭のいい子犬じゃ」

意味あり気にそう言うと笑った。


「それにしても若い女の懐は温かくて気持ちいいのう?」

山神の問い掛けに俺は剥きになり言った!

「エロジジィ・・・勝手に言ってろ!」

「ウ~ワン!」


「アッハハハッ・・・」

山神の笑い声が高らかに響く。

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