第5話

次の日の朝、如月花音は道路脇で俺を待っていた。


「おはよう・・・」彼女の挨拶に「ああ、おはよう・・・」と挨拶を返すがどうして俺を待っていたのかがわからなかった。


並んで歩き出すが2人の距離は歩道の右端と左端であった

こんな朝早くからこんな気まずい状況を作り出す為に待っていたんじゃないだろうに何か話せよ・・・心の中で思っていたが言える訳もなく黙々と歩き続ける。


しばらく歩いていたがこの先は電話ボックスが有り歩道が狭くなる、俺は耐え切れず話し掛けた「あのさぁ」「あのね!」・・・

間が悪いと言うか、2人同時に立ち止まり2人同時に声を掛けたので正面から向き合う形となってしまった。


2人ともお互いに笑いがこぼれる

「昨日は勝手に怒ってしまってごめんなさい!それが言いたくて須藤君を待っていたの・・・じゃあ先に行くね!」

それだけ言うと彼女は鞄を振りながら駆け出して行った!


「また今朝もピンク色だ・・・いつも自分の言いたいことだけ言いやがって俺の応えは無視かよ」そう呟いた俺もゆっくりと歩き出した。


学校に着くと予想通り奴等は待っていた!

「昼休みに裏庭に来いよ・・・待ってるからな!」

2人で俺に言うと階段を駆け上がって行く・・・伝言も1人で出来ないのかよ

「バカか!?」

呆れ顔でそれだけ言うと教室に向かいながら「ホント面倒臭い奴等だよな!」

誰に言うでもなく苛立った顔で吐き捨てた後、自分の気持ちを抑えた。


そして昼休み・・・招待された裏庭に行ってみると昨日の6人が出迎えてくれた。


「やっと来たか・・・誰にも言ってないだろうな!?」

昨日のことがあるからそう思うのだろうが俺としたら知る者はなるだけ少ない方がいいのだ!

「それで・・・用件は一体、何でしょうか?」

一応、親切に聞いてやったが答えはもう決まっているのだ。


「軽くイジメてやろうかと思ってね・・・」

腕組みした真ん中の上級生が嘲笑うかの様に言うと「やれっ!」と全員に声を掛けた瞬間、俺はそいつの目前に来ていた。


「殴られんのはお前だよ!」

逆に嘲笑って言うと軽く殴ったつもりだったが派手に倒れる。


彼等の動くスピードなど俺にとっては止まってるのと同じだ!


次々に殴り倒し数秒後には全員が地面に倒れ込み呻き声を上げている者、泣いている者・・・その信じられないといった表情には恐怖が貼り付いていた。


「俺は争いは嫌いです!このことは誰にも言わないからもう俺のことは放って置いてくれませんか!?」

殴った後に平然と丁寧な口調で頼む俺に倒れたまま彼等は怯えながら全員が無言で何度も頷く。


これでしばらくは揉め事に巻き込まれずに済むだろう・・・

俺は「宜しく御願いします!」と頭を下げ何事も無かったかのようにその場を立ち去った。


暴力で解決したのはこの日だけで終わった!


触らぬ神に祟りなし・・・そんな噂がどこからともなく生まれ、俺は不良達から避けられ一般の生徒からも何となく避けられているようだった・・・

ただ1人を除いて。


「おはよう!」と明るい笑顔で如月花音だけは毎朝、こんな俺に挨拶だけして駆け足で走り去る!

彼女の心は今日もピンク色だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る