第3話

「爺さん!あれじゃないか?」

前方で路地に向かいゆっくりと歩く人影を見た俺が言うと

山神は「お前の視力は人間離れしとるのう・・・」なにやら驚いた口調で言った。


周囲に誰も人影は見当たらない・・・路地に消えた凶悪犯をみつけたが一体、どうすればいいのだ!

追い掛けると言い出したのは山神だ・・・


「爺さん、あんたはどうするつもりでここまで追い掛けさせたんだ?」

「何かいい方法でもあるのか!?」

「助けを呼ぶって言ったってここには誰もいないみたいだぞ!」

俺は少し興奮気味で山神に聞いてみた。


「よし、ここからは走らんでいい!ゆっくり近付いて様子を見てみるんじゃ・・・それから考えてみよう」

意外と悠長な考え方を言った山神に俺は即座に反論する。


「爺さん、あんた何を呑気に構えてんだ!」

「あの男が路地に入ったってことは彼女が追い詰められてるとは考えないのか!?」


「お前はなかなか正義感溢れるいい奴じゃのう・・・じゃが無理に飛び込んで行ったとて何が出来る?」

「急がねばならんのは事実じゃがちょっと気になることがあるから気付かれない様に近付いて見てみたいのじゃ!」

「相手をよく見極めてから戦った方が良かろうと思ってな」

山神はそう言うとまた高笑いした。


「戦う?・・・爺さんはこの子犬に戦わせるってのか!?」

「俺ならあんな変態野郎は一撃で倒してみせるが子犬じゃ無理なんじゃないのか!?・・・どうやって倒すんだ?」

俺は成績こそ最低レベルだが喧嘩は最高レベルで自信がある!

そんな思いが子犬の姿に変わったことで苛立ちを覚えていた。


子犬はそっと近付いて行く、怖いのだろう・・・小さな体が小刻みに震えているのが俺にもわかる!


「あれは蛇だな・・・性悪な蛇が憑依しておるようじゃ」

山神は小声で呟くと

「さて、何としたもんかのう?」

困ったようで楽しんでるような口ぶりでそう言った。


路地の更に奥では逃げ場を失った少女は両手を口に当て、悲鳴を挙げたら殺されてしまうかのような表情で怯えていた。


「こっちで吠えて注意を引き付けて彼女を逃がすってのはどうだろう?・・・あの様子じゃ動けるかどうかわからないが爺さんは何かいい作戦でも思い付いたのか!?」

俺が山神に尋ねるように話し掛けると山神は唐突に言った。


「お前さんには吸血鬼の血が混じっておるな?」

「何代も続いてる・・・それも正統な血筋の吸血鬼なんじゃろう」

俺は言葉を失った・・・子供の頃、母からそんな話を聞いた記憶が残っていたのだ!


「お前の強さはその血が混じっているからじゃ!」

「覚醒すれば桁違いの強さを発揮するじゃろう・・・わしはお前が危険じゃと思い子犬の中に閉じ込めたが今はその力に頼るしかないようじゃのう」


この爺さんは山神と言ったがもっと違う何かなのでは!?


だが元の体に戻れるのであればほんの一瞬で倒す自信は十分にある!

「爺さんよぉ、それで俺に何秒くれるんだい?」


「わしが子犬と一緒に彼女の注意を別の方向へ逸らすからその間に奴を気絶させるんじゃ! 」

「今は彼女が居るから絶対に殺してはいかんぞ!」

「お前を信じておるからな」山神はそう言うと子犬に身構えさせながら続けて言った。


「合図をしたら子犬の体から抜け出せる! 」

「彼女に見られでもしたら大変なことになるから失敗は許されんぞ・・・じゃあ

お前の用意はいいか、行くぞっ」


「じゃあお言葉に甘えて遠慮なくやらせてもらうよ」

俺は不敵な声で言った。

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