第79話 悲恋の最終章⑯由紀子の思い

一枚の感動的な置手紙を見せられ・・・不覚にも


涙を見せてしまいました。少しだけ恥ずかしい・・・


いくら強がりを前面にだしてみても4年も一緒に


いた時間はほかの誰かでは埋まらないことは承知しています。


 由紀子は俺の涙を見て安堵したのか、いつもの調子を


完全に取り戻していました。「ね・・・貴方・・・質問してもいい?」


「どーぞ・・・答えられる範囲であれば何でも聞いてください。」


「この1ヶ月すれ違いの連続だったでしょ・・・私なんか、アパート


と大学の単調な往復だけ・・・たまにはゼミのお友達と食事にいったけれど


ずっと貴方と週末は過ごしていたから、なんかパンチがないのよ・・・


ありきたりな噂話を聞いても全然、つまんない・・・心ここにあらず・・・


友達もそんな私を見て・・・彼氏と何かあったの?・・・返す言葉なくて・・・


小さなケンカが引き金で今は交戦中と逃げて・・・とにかくつまらない1ヶ月だったの・・・


今、どこにいるかな?まだホテル・・・田園調布についたかな?・・・時計


で時間を確認しては、貴方の事考えていたの・・・こんなに出来のよい彼女なんか


この世の中にいないよ!・・・」・・・喋ること15分・・・一方的に


自分の思うことを恥じらいもなく・・・永遠に・・・喉がかわくせいか、よく


ビールも飲んでいます。「ねーーーー貴方・・・きょうはもう1本ビール飲まない


病人の貴方はほどほどにしてね・・・私、トイレと告げて奥に消えてゆきました。


「マスター!・・・アサヒビール1本追加ね・・・・」


テーブルの脇に見慣れた由紀子のブラウンの日記帳が置いてあります。


なんか、見たい・・・覗き見・・・スリル満点な時間・・・


ページをめくります。


すると・・・走り書きの感じで・・・


*******************************


きっと私たちは、ほんの少し足りないものがあって・・・


きっと私たちは、それを自分ではどうしようも出来ないでいる・・・


でも私たちはこれまでに触れるたびにいつも感じていた.・・・


自分では無理だけれど・・・


そっと差し出された、貴方の手の平なら・・・


それは、埋まることもある・・・



「このまま、貴方と一緒にいたい。」



抱きしめられたまま、ずっと・・・


貴方と一緒に、生きていきたい・・・



下神明のアパートは、お洒落な家具もインテリアもないけど


貴方がいるだけで・・・


両手からあふれだした愛で、テーブルを飾ったり・・・


貴方の口から洩れた、囁きで部屋を暖めたり・・・


夏の恋人たちが、羨むようなものは何ひとつないけれど、


私の両手には、いつも貴方がいたんだ・・・


冬の散歩道、枯れ葉をカサカサとさせながら・・・


「もう少し、傍にいようね。」


同じ道を何度も歩いて、そんな言葉を繰り返してた・・・


ふたりの白い息が、冬の空へ吸い込まれていく・・・

ただ、貴方が隣にいるだけで幸せ・・・


それ以上でも、それ以下でもなくて・・・


「とても、幸せなの・・・」

聞こえないように、枯れ葉の音に重ねて囁いた。

「貴方が、傍にいるだけで・・・」


うつむいて歩く散歩道。


「ねぇ、何もしてあげられなくて・・・ごめんなさい・・・」


貴方は、私の手を見つめて・・・


私は、貴方の顔を見上げて・・・・


「ねぇ、・・・雪。」


「この雪は、暖かいね。」 東北の雪はとがった冷たさ・・・

都会の雪はなぜか 暖かい・・・貴方がいるから・・・


枯れ葉の音に気を付けながら、静かに抱き合った。


このままふたり、雪に埋もれてもかまわなかった。


・・・貴方がいるなら・・・抱きしめられたまま、ずっと。


貴方と一緒に、暮らした下神明のアパート


 ・・・でも今は上中里・・・



 長い影が、住み慣れた街を後にする。

今はこの新丸子のアパートで一緒に暮らしたい・・・


それ以上でも、それ以下でもなくて・・・


********************************


一気に読み終えました・・・心臓の鼓動が少しはやい・・・


「ね・・・貴方・・・何してるの・・・見たんでしょ・・・


見たんでしょ・・・」


「うん・・・最初の3ページくらい・・・だけ・・・」


由紀子の走り書きを見て、また、また・・・涙がでそうです。


「いやーね・・・また、泣きそうな顔してるもんね!・・・」


「ねーーーーママさん・・・野菜炒め追加お願いします。」

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