第76話 悲恋の最終章⑬由紀子と暁子のバトル

 晩秋の渋谷、小雨混じりの肌寒い金曜日


夕方5時を過ぎると真っ暗です。それでもいつも


の渋谷の喧騒があります。公園通りを西武方面


に腕組みして恋人きどりで徒歩を進めます。


するとぼんやり・・・30メートル前方に


3人組の女の子の真ん中に・・・なんと由紀子の


姿を発見!・・・まじ・・・こんな事あるの・・・


何とかこの危機から逃げなければ・・・腕組みはまずい・・・


機転をきかして腕をほどき、しゃがみ込みながらスニーカー


の紐に手をかけました。暁子さんはびっくりした様子・・・


「うん・・・ひもが解けたから・・・」車道側に位置を


ずらしながら、紐を結びなおします。何とか早く気が付かれずに


行き過ぎて欲しい・・・由紀子の姿を上目で追いながら・・・どうか

気がつきませぬように・・・すると


「ね・・・貴方・・・ここで何してるの?」

由紀子に見つかりました。2人組の友達も怪訝そうな素振りでこちらを

見つめています。友達に先にいっててと告げて、


また・・・「ねー!・・・貴方・・・隣の綺麗な方はだーれ?・・・」


「うーん、卓也の高校時代の同級生で加藤 暁子さん・・・」


  暁子さんは以外に堂々としています。


「加藤と言います。里中君とは大友君たちとの

飲み会で知り合いました。もう1か月くらいかな?」


  頼むからそれ以上は喋らないでほしい・・・


「そうなの?・・・卓也君の同級生・・・ふーん?・・・

そうなの?・・・私にはバイトで忙しいから逢えない・・・逢えない・・・

私だってこの1か月に新丸子に2回行ったのよ・・・でも・・・すれ違いで

帰ってきたわ・・・置手紙でもと思ったけれど・・・何か気が付けば、必ず

連絡くると思っていたのよ・・・私を避けてこんな事してるんだ?貴方

の事ずっと信じていたのに・・・浮気は嫌!それは貴方も承知、理解

してくれてると思ってたのに・・・」


 「でも昼間は煉瓦亭・・・の話していたよね・・・」


「私は煉瓦亭には行かない・・・貴方が何の相談もなくバイト決めた

煉瓦亭にはゆきたくないの!貴方には私の気持ちなんか解らないでしょー」


「今日もバイトでしょ・・・ホテルはどうしたの?」


 ・・・いつもの笑顔はどこにもありません。明らかに怒りに満ちた言葉の響き・・・何を話しても言い訳しかならない・・・やめよう・・・このまま今日は・・・ここで・・・終わりにしたい・・・


  すると暁子さんが

「由紀子さん・・・里中君・・・大変な

病気だったんです。・・・自然気胸で肺に穴が開いて・・・息が苦しくて胸が痛くて・・・田園調布の病院で入院寸前まで・・・今日は2回目の検査で自然治癒できるまでに回復したんです。」すこしの間があり・・・暁子さんが決定的な言葉を投げます。


「由紀子さん・・・貴方は里中君の彼女さんでしょ・・・そんな事も知らないの?」


一番、言ってほしくない言葉を投げていました。由紀子の目から涙があふれています。


あーあ・・・たぶんこうなるんじゃないかな?予測はできたけど、いざ、その場に


立つと言い知れぬ罪悪感に包まれしまいます。酔いが一遍に覚めて・・・背中が


ひんやりします。


 由紀子もう何も喋らないで・・・頼むから・・・あふれる涙を

         ぬぐいもせずに・・・


「加藤さん・・・里中君がたくさん迷惑かけたみたいね・・・

ほんとに私は何も知らなかったの!・・・だって何も知らせてくれなければ、どうすればいいの?ただ、加藤さんに里中君の彼女さんでしょなんて言われるのは心外よ・・・これからは私が里中君の看病するからもう大丈夫よ・・・今までほんとにお世話さまでした!」


 静かな口調です。女の意地みたいなものを感じました。芯が強いんだ・・・あれだけ狼狽して混乱していたのにここまで立て直すには相当の思いがなければ、できません。暁子さんが肩までかかる髪の毛を右手でかきあげて・・・いつもの遠い目をしました。


その瞬間・・・「私はここで帰ります。・・・里中君・・・お大事にね!・・・」


何ともあっけない別れでした。せっかくの日なのに・・・どうしてこうなるのかな?


暁子さんの言葉にもそれなりに深い意味があるような感じでした。由紀子には負けない・・・


  やはり彼女なりの意地みたいなものを感じていました。


 「ね・・・貴方・・・色々あったみたいね・・・病気の事なんで

話してくれなかったの・・・もう私が嫌いなの?・・・貴方を先に見つけたのは

私よ・・・腕組んで歩いていたもんね・・・ほんといい感じの恋人同士に見えたわ・・・もう頭が真っ白・・・バイトで忙しい・・・忙しい・・・その理由が隣の

加藤さんだったんだと思うと悔しくて・・・悔しくて・・・でも病気だったのは、ほんとみたいね?それでどうなの?」


 全部、包み隠さず、話をするつもり・・・聞いてほしい・・・


「ね・・・貴方・・・今夜ゼミの飲み会なんだ・・・6時からポポロ広場・・・穴はあけれない・・・さっきいた人たちゼミの先輩、4年生・・・・だから、1時間

顔をだすつもり・・・その後、新丸子に行きます・・・それで良いわね・・・」


「うん・・・・わかった・・・新丸子で待ってる・・・」


センター街の入り口で別れました。洗いざらしの白のコットンシャツにブルージーンズ、そしてアシックスの赤のスニーカー、昨年おそろいで買った、リバテイーベルの白いダウンジャケット・・・


1か月ぶりに見る由紀子の姿・・・・地獄絵巻も想像しましたが、静かな女同士の闘い・・・


やはり由紀子とは4年間の時の流れが確かな基礎になってるんだ!・・・揺らがない女心・・・


里中君の看病は私がやる・・・宣戦布告にも似た決意・・・心に響く言葉でした・・・

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