第59話 苦悩の病院通い part6

 病院のロビーの時計が1時40分を指して


います。12時に戻れば、いいや!・・・・そんな


計画は見事に崩壊しています。由紀子はもう


病室に戻っていると思い、207号室へ向かいます。  


 あ・・・いた、いた! 


 ベットを覗き込むと軽いまどろみの中です。


 お隣の叔母さんが、声をかけてくれました。


「12時半頃かな・・・検査から帰ってきたんですよ・・・


看護婦さんの話ですと、麻酔が効いてるから、お目覚めは


 2時ごろですって・・・」もうすぐ目を覚ます・・・


とにかく平静、動揺しないように対応しなきゃ・・・


俺がオロオロしていれば、敏感な由紀子の事、直ぐに


感づかれてしまいます。俺から病気の内容には絶対に


触れないようにしよう・・・時が経過すれば、本人にも


伝わるかもしれないけれど、とにかく今は、3ザルに徹しなければ


「見ざる、言わざる、聞かざる」これをとにかく守るように


しなきゃ・・・そんな思いを巡らせていると・・・


「なーんだ・・・貴方・・・いたの? ねー・・・今何時になるの?」


「うん・・・もう2時だよ」


「そうなんだ・・・2時なの・・・昨日みたいに麻酔を打たれて


夢の中・・・何も覚えてないの・・・でも今日は痛くないし、違和感


ないもん・・・簡単な検査だったみたいよ・・・」


 2日連続でお腹を掻き回されても俺よりしらっーとしていて


それなりにしっかりしています。


 麻酔されて何も解らないからこんな感じでいられるのかもしれません。 


ほんとにゴメン・・・俺がもう少し節度ある行動をしていれば・・・


こんな事にならなかったんだよ・・・きちんと避妊さえしていれば・・・


ほんとにごめんね・・・心の中で何度も何度も謝罪を繰り返していました。


「ねー貴方・・・なんでそんなに浮かない顔してるの・・・何か、嫌なことでも


あったの」 きたきた・・・俺を観察している・・・平静・・・平静・・・


「うーん 昼飯、商店街の満腹食堂に行ったんだ・・・お見舞いとバイト


頑張らなきゃならないから・・・餃子とスタミナ定食・・・それに半ラーメン


 最後の半ラーメンが余計だったみたい・・・今、胸焼け気味で、・・・」


「ねー貴方・・・貴方っていっつもそうなのね・・・お酒飲む時だって


全然つまみを食べないで飲むし、平気でお昼を抜いたり・・・そして今日みたいに


暴食するんだから・・・私には貴方の体調は解らないのよ・・・もう少し


健康管理してね・・・バイト前に、お腹がすいていたら、駅そばでも何でも


食べてねといつも話してるよね・・・バイト終わりに、10時過ぎ夕飯食べてる


の絶対身体に悪いのよ・・・ねー聞いてるの?・・・」


「うん・・・気を付けるようにする・・・ところでさ、今日は点滴 してるんだ・・・」


「ねー貴方、私は麻酔で夢の中・・・ばーかね・・・同じこと何度も聞かないで」


 ねー貴方・・・ねー貴方・・・これが?由紀子の口癖です。昨年5月に出会った頃は


お互いに長谷川さん・・・里中君で呼んでました。7月、小杉の市民プールへ行き


帰りに居酒屋で大盛り上がり・・・その日を境に由紀子は「ねー貴方・・・そして



俺は由紀子」に変化してゆきました。朝から寝るまで・・・ねー貴方ですべてが始まり、1日が閉じてゆきます。そして、翌朝、「ねー貴方・・・おはよう!」


 俺は由紀子の「ねー貴方」の響きが大好きす。


でもTPOを考えないでどこでも「ねー貴方」だから・・・

友達の前では、何度も恥ずかしい思いをしています。


 でも・・・この「ねー貴方!」を聞けなくなることが近い将来起こるかもしれない・・・また、胸が張り裂けそうな不安に包まれていました。

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