第60話 苦悩の病院通い part7



3時過ぎ、看護婦さんが検温に来ました。


「ねー由紀子・・・昨夜、岩手に電話したの?


大切な事、確認していなかったから教えて!・・・」


少し沈黙があります。「うーうん・・・昨日はしてない・・・


処置のあとで、疲れたていたし、色々考える部分もあるのよ・・・


どうしたらこのピンチから抜けだす事ができるかって・・・」


「でもさーきちんと連絡しないとまずいじゃん・・・保険適用だから


必ず、ばれちゃうよ・・・」「ねー貴方・・・昨日は私に任せると


言ってくれたんじゃないの・・・私にも考えがあるの・・・大丈夫よ・・・


この話はおしまいね・・・」


 低いトーンに変わりました。これ以上、つつくとケンカになる感じです。


すると看護婦さんが・・・「長谷川さん・・・気分はどうなの・・・・37,2度


少し微熱があるわね・・・でもお腹すいたでしょ・・・昼抜きだもんね・・・


夕食は普通食が出るから、楽しみにしててね・・・・


そうそう・・・あと、10分位で、点滴終わるから、ナースコールお願いね」


足早に看護婦さんが出てゆきました。

岩手の件が引き金になり、由紀子の口が重くなりました。


まずかったかな?余計な事、言ってしまったかな・・・思案に


暮れます。昨日だもんね・・・1日があまりに長すぎて


色々なことがありました。本人が一番辛いのにまた、追い込んで


しまいました。保険適用の件は、2か月遅れで保険明細が封書で


届くシステムみたいです。5月だから、7月まで猶予がある・・・


 当然、保険の事は由紀子も承知しています。俺のほうがバタバタ


しすぎているのかな?いや、そんな事はないと思う・・・


でも、でも・・・でも・・・いいのかな・・・由紀子に任せるしか


ないか?詰まるところ、何ら、決断もできずに当人任せの判断に


うなづくだけ・・・ほんと、無責任の極みだと思います。


 たった入院2日目でこんなにたくさんの試練を抱えてしまいました。


精神的な疲れがピークです。朝から、何も食べていません。


 エネルギー不足で思考回路がめちゃくちゃになりそうです。


相変わらず、由紀子も黙ったまま・・・ほんとに居心地が悪くなりました。


「ね・・・由紀子、地下鉄の定期の更新だから、少し早いけど、バイトに


行くよ・・・明日、また、9時にくるから・・・それと洗濯物は俺が


コインランドリーでやるから、だしといて・・・」少し沈黙がありました。


「ねー貴方・・・気分悪くしているんでしょ・・・私の態度が悪いからでしょ


・・・貴方の顔を見れば解るの・・・岩手の件は今夜1日考えさせてね・・・


明日、どうするか・・・必ず、前に進むようにするから・・・」


絞り出すような声でした。俺の事、やっぱり観察しているんだ・・・


居心地が悪くしたのは自分のせいだと・・・あいつらいしいよね・・・


 4時半か・・・中延の二葉で天ぷらそばでも食べていこう・・・


初夏の5月の風に吹かれて・・・下神明の駅に向かいます。

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