第12話 男料理の鍋焼きうどんpart1
39度の高熱でダウンした彼女を下宿にひとり
残して、夕暮れの商店街に食材を探しに出ました。
週末の商店街は買い物客で混雑を極めていました。
温かくて、滋養があるもの・・・昼間が「おかゆ」だったので
夕飯は「鍋焼きうどん」と勝手に思いこんでいます。
行き付けの、文化スーパーで「うどん・・・蒲鉾・・・三つ葉」
昼間調達した卵と長ねぎはあるので、こんなものかな?
そんなことを自問自答しながら、なじみの総菜屋の前に・・・
彼女がここの総菜屋の「おにぎり」を贔屓にしていました。
感じのよい「おばさん」と息投合して、いつも無駄話をして
います。「早くしてよ!」と時には、文句がでそうになる事も
ありましたが、グッと我慢・・・
おかみさんも彼女の明るい性格がお気に入りで、たびたび「おまけ」
をしてくれます。「ねー貴方・・・ほらね・・・また、おにぎり2ケおまけ
だもん・・・私・・・あのおばさん大好き!」いつもこんな調子です。
由紀子が好きな、おにぎりも買ってゆこう・・・「あばさん・・・おにぎり3つね・・・おかかと昆布と鮭がいいや・・・」「はいよ!」昔ながらの
きょうぎに包んでくれます。すると、おかみさんが・・・
「あら・・・今日は・・・ひとりなんだ・・・いつもの元気がいい若奥さんは
どうしたの?」「えー朝から、風邪気味で具合が悪いんで、今夜は
僕が炊事当番です。」「そりゃ・・・たいへんだ・・・お大事に!」
俺の買い物では、「おまけ」はありません。でも、こうして声を
かけてくれるので、由紀子の人徳を再確認しちゃいます。
スーパーの買い物袋をさげて、家路を急ぎます。この時間になると
気温がグーンと下がり、寒さが身にしみます。・・・早く帰ろう!
「さあ・・・揚げたての、トンカツ・・・美味しいよ・・1枚¥200円・・」
いつもの調子の販売トークが聞こえます。
肉屋のおかみさんと視線が合いました。おかみさん、店頭で
自家製のトンカツ、メンチ、コロッケを威勢の良い声で売っています。
「あれ・・・今日は・・・いつもの可愛い奥さんは?・・・」
また、声をかけられてしまいました。「えー・・・朝から、風邪気味で熱が39度もあってダウンしています。」「ふーん・・・39度も熱が
あるんじゃ・・・トンカツは無理だね!」
だれもトンカツを買うなんて
言ってません。おばさんの勝手な思いこみなのに・・・
「そんじゃ・・・若旦那の分、1枚と可愛い奥さんにポテトサラダはおまけ!はい¥200円」・・・
買う意思もないのに、すでにトンカツが梱包されて行きます。
このお店も彼女のお気に入りの1軒でした。彼女は気前が
良くて、おまけのあるお店のおばさん達と、とても仲が良いのです。
仕方なく、笑顔でトンカツを受け取り、¥200を払いました。
「だめだよ・・しっかり、見てあげないと!」「解りました。おばさん
いつもすみません・・・」あ・・・なんでこうなるの?まーいいか・・・
トンカツは俺が、食べればいいや・・・古き良き時代の学生街
なんて、どこもこんな感じなのかな?相対でふれあう、商店街の
人情・・・・・・不思議に違和感が残りません。
それよりも彼女に対する、みんなの気使いに何故か、
嫉妬している自分がいました。
そんな買出しが終わり、下宿に戻りました。
静かに、ドアを開けます。彼女はまだ、寝ていましたが・・・
蛍光灯の光で目が覚めたようです。「ごめん・・・起こしちゃった
ね・・・」「ねー貴方、今何時?」「もうすぐ・・・PM7;00になる
ところだよ・・・」「そうなの・・もう朝かなって錯覚しちゃったわ・・・
まだ、PM7;00なんだ・・・」「具合はどんな感じ?]
「解らないけど・・・また・・・喉が乾いたの・・・」「はいよ!ポカリ・・・」
テーブルの上に置いたスーパーの袋を確認したのか・・
「ねー貴方・・・お買い物に行ってきたんだ」「そーだよ・・・
何か、食べなきゃ・・・薬が飲めないから・・・今夜は鍋焼きうどんを
作るから・・・」「ねー大丈夫・・・出来るの?」「任せなさい・・・これでも
現役のホテルマン」そんなやりとりをしながら、商店街での
顛末も説明しました。「そーなんだ・・・総菜屋と肉屋のおばさんがね
・・・普段から、私がおばさん達と仲良くしているから、貴方も
助かるでしょ・・・貴方はいっつも早く・・・早くしろというけれど、
あの人達は品物を売るよりも、人間関係を大切にしている人達
なの・・・話しをしていれば、その気持が伝わるから、仲良く
しているの・・・」「何となく、解るよ・・・俺が、おにぎり買っても
おまけなかった・・・」「そうでしょう・・・簡単には、おまけになら
ないの!・・・普段からのお付き合いが大事なの・・・」
とても饒舌な彼女がいます。おばさん達が心配してくれる・・その気持
を確認して嬉しくて仕方ないのでしょう・・・
ずいぶん元気になった感じです。「ねー貴方・・・また汗で濡れてるの
・・・パジャマは大丈夫だけど、下着が汗で気持悪いの・・・」
「解った・・・起きれるよね・・うどんを作りに台所にゆくから、その
間に着替えて・・・下着は自分で出して・・・俺、どうも下着は苦手だから・・・」
「何よ・・・さっきは、下着も出してくれたのに・・・冷たいのね!」「解った・・解りました。」
引出しの中から、薄いアイボリー色の
下着を手渡します。「由紀子・・・こうして、俺の反応みて楽しんで
ない?」「ううん・・・そんなことない・・・ありがとう・・・貴方!」
「そんじゃ・・・特製鍋焼きうどん
の製作にかかります。」必要な物を、全部用意して台所に
向います。
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