第5話 昭和52年 冬 クリスマス 出会いのエピソード

 昭和52年 冬・・・クリスマスイブを友人達と過ごし

クリスマスの夜は久しぶりに俺の部屋でささやかな2人だけの

クリスマスに・・・去年の今ごろは受験勉強で、クリスマスも

お正月もなく、ただひたすら、第一志望の大学合格を目標に

頑張っていたのに・・・時が流れ、わずか1年で傍らに、好きな女性が

います。5月からの出会いを回顧しながら、お喋りが続きます。

同級生、上京組み、同じ下宿屋、そして、山梨、岩手の田舎者・・・

2人が引かれあう、素地があったのです。

高校時代も同じクラスに好きな女の子がいました。一応、受験生

なので、派手な付き合いもできず、休み時間や放課後に受験の

事などを相談しあう誰よりも仲のよい女友達でした。

クラスの仲良し3カップルで冬休みに富士急ハイランドにスケート

に行ったことが、最後の思い出・・・その子は、八王子の短大

に進学・・・夏のクラス会にも不参加だったので、遠い記憶の女性に

なりました。今、傍らにいる彼女・・・運命的な出会いを互いに

感じていました。回顧するシーン、思い出に残るシーンもまるで

同じなのです。5月のGWでした。4月初旬に上京して、わずか

1ヶ月の頃です。バイトがあったので、山梨に帰省することが

できず、昼間は手持ち無沙汰で暇な時間を過ごしていました。

普段は自炊をする事もなく、昼間は学食、夜はバイト先のホテルで

夕食がでたので、不自由なし・・・たまには自炊でもと思い・・・親子丼

を製作したのを記憶しています。共同キッチンですが、GW中なので、

外出組みと帰省組みで下宿がひっそりしていました。

あとで、片付ければいいや!とやりっぱなしで放置・・・食べ終わった食器もそのままにしてシンクの中に・・・昼寝から目が覚めて・・・

階下の台所を覗くと、ナベ釜、食器を洗っている彼女がいました。

「すみません・・・綺麗にしてもらって!」・・・「いいんです・・・ついでですから・・・」そんな会話を切り口に30分位立ち話をしました。

 彼女は飯田橋の大学に通う1年生、この下宿屋は岩手の母方の親戚筋・・・

なんと、同級生でした。古い下宿屋でしたが、親戚であれば岩手の両親は安心です。

昔からの土着の大家さん、80代のお爺さんが家主です。昔堅気の礼節のある大家さん、とても面倒見が良いのです。 大家さん所有の洗濯機は自由に使うことを許されていました。ベランダの物干しも自由なのです。学生街の下宿屋、不自由なことは

トイレと台所が共同・・・あとは、部屋の入口が障子タイプの引き戸、簡易的な

鍵はありますが、部屋の灯りがガラス越しにこぼれるので、プライベートがないこと

彼女もその点では大いに不満がある下宿屋です・・・親戚なので、仕方なく了解した

と伝えています。両親の願いでもあるので、ここでしばらく我慢しなければ・・・

控えめな口調ですが、何か波長共鳴できる部分を感じていました。

わずか30分程度ですが、それなりに濃密な時間でした。

 その後、何となく気になる存在・・・

・・・もちろん彼女も同じ思いだったようです。

ひとつ同じ屋根で暮らしている親近感が2人の間を詰めるのに、多く

の時間は必要としなかったのです。大学から直行でバイトに行く日も週3日程度

あり、洗濯物が悩みの種でしたが、この日を境にして・・・

 洗濯物を綺麗に畳んで、部屋まで届けてくれるようになりました。

バイトからの帰宅が午後11時過ぎになります。部屋の前に置手紙と

洗濯物が三越の手提げ袋にあります。「お仕事、ご苦労さま・・・

今日も帰宅が12時なのですね?手渡しすればよかったけれど、明日は

1限から授業なので、先に寝ます。たまには、夜、話ができれば嬉しいです。

・・・由紀子」翌朝、洗顔で台所で一緒になりました

「ごめんね・・・彼氏でもないのにパンツまでありがとう・・・」

「ううん・・・大丈夫です。昨日は夕方から雷で大雨、せっかくの洗濯物

が風で飛ばされそうだったの!里中君の洗濯物取り込んでいたら、下の若奥さん

とばったり会ってドキドキしたの!何か言われるかな?でも軽く会釈して

その場をやり過ごしたの・・・若奥さん、なんか、ニヤニヤしてたのが心配

なの!・・・」「ほんと、いつもありがとう・・・このお礼は必ずさせて

もらうから・・・」と告げて台所を後にしました。その後、バイトの帰宅

時間が早い時には、彼女の部屋と俺の部屋の往復が続きます。疲れた身体

でも彼女と話しをしたいから、駅から小走りで下宿に戻ります。

大学の事、バイトの事、高校時代の事、話せばあっという間に1時間

経過です。でも夜中に彼女の部屋にいるのは、なんとも切ない空間でした。

その思いは彼女も同じなのです。親戚筋の大家さんの視線が気になる頃

でした。やはり節度を守らなければ・・・12時過ぎには絶対に逢わない・・・

 夜間の行き来を控えていると・・・由紀子の行動に変化が起き始めました。

 夕方、バイトに出かける俺を駅まで見送り、帰宅時間には

駅まで迎えにくる・・・とにかく、献身的な部分と我侭が同居する

可愛いい存在になっていったのです。

出逢いから、今日までの事を、振り返りながら、クリスマスの

夜が更けて行きました。「ねー貴方・・・今夜はどうしても帰りたくないの

・・・この部屋に泊まってゆく・・ねーいいでしょう」・・・「でもさー大家さんの事もあるから、自粛した方がいいんじゃない・・・」

「いいの・・・来年2月には引っ越すんだから・・・もう決めたんだし

貴方だってそれでいいと!了解してくれたじゃないの・・・」

「私・・・今夜は泊まってゆく・・・明後日には岩手に帰省するんだから

・・・時間がないし、もったいないの!」・・・勝手に電気を暗くして

セーターを脱いで、そしてジーパンまで脱いで、ベットにもぐりこんで

います。まったく・・・言い出したら聞かない、我侭し放題です。

「ねー貴方・・・布団の中を暖めておくから・・・いつでもいいよ!」

軽いまどろみの中にいます。どのくらい時間が過ぎたのか・・・

ほのかなグローランプの灯りしかないので、目を凝らさなければ

時計が確認できません。まだ・・・AM4;00前か・・・

左腕の中で彼女が小さな寝息を立てています。一定の

リズムの僅かな鼓動も聞こえます。無邪気な顔が印象的です。

すると、「私・・・今・・・最高に幸せの気分なの!」・・・「なんだ・・・


起きていたの?」・・・「ううーん・・・違うの・・・貴方と高原の草原を

追いかけっこしてる夢を見ていたの・・・すっごく綺麗な高原・・・白樺の木がいっぱいあって・・・」わずかな沈黙のあと、彼女はまた

軽い寝息を立てています。・・・・・以上クリスマスの夜でした。

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