第4話 昭和52年 冬 クリスマスイブ

 昭和52年 冬、クリスマスイブの

出来事です。彼女の高校時代の同級生が主催する

クリスマスパーテイーに2人で招待されて、駒込の

友達のアパートに向います。土曜日の昼下がり

子供連れの家族が目立ちます。秋葉原の駅を過ぎる

頃には、クリスマスプレゼントを抱えたお父さん達の姿で

混雑してきました。年末の風物詩を感じちゃいます。

  上野駅を過ぎた頃・・・

「ねー貴方・・・手ぶらじゃ行けないでしょう・・・お土産・・・

何にしようかしら」

「うーん・・そうだね・・ケーキは月並みだし・・どう?鉢植えの

花にしようよ!」 「花・・・そーね・・・花にしましょう」

駒込の駅前のフラワーショップで「シクラメンの鉢植え」を求めて

友達が待つアパートへ・・・

 駅前から徒歩5分前後のところに友達のアパートがありました。

レンガ色のトタン板に包まれた、やはり昭和20年代築の古い

アパートです。「こんばんは・・・ご無沙汰・・・元気?」

そんなやりとりの後、部屋の中に・・・するとコタツの中に見知らぬ

男性が・・・「ふーんそうか!・・・彼女の彼氏なんだ!とピーンと

来ました」・・友達が彼氏を紹介して、お互いに自己

紹介です。年齢は1年先輩の大学2年生でした。故郷は

岩手の北上・・・バイト先の先輩で同郷のよしみでこちらも

急速に仲良くなったようです。3人が岩手で俺が山梨・・・

 田舎者どうし、フィーリングがぴったりです。

シャンパンで軽く乾杯の後、大宴会になりました。

2人で午前中から準備した手料理で歓待してくれます。

ビールが旨い・・・大学の話や、高校時代の話でいっきに

盛り上がって行きます。高校時代のアルバムを引っ張り

だして、テンションが最高潮です。

 すると彼女の友達が俺に・・「ねー里中君は由紀子のどこが好きなの」

「5月に出会って、ほんとに時間が許す限り、いつも一緒だから・・・

そして,いつもそばにいてくれて、俺にとっては、今はかけがえのない女性です。」・・・「ねー今の話、聞いた?」と彼女が彼氏に

問いかけています。「里中君・・・格好いいと思う!・・・きちんと・・・由紀子

のこと真剣に考えているもん」・・・「解った!俺も里中君を見習って

おまえの事を真剣に考えるよ!」そんな話になり・・・時間を超えた・・・

もう何年も前からの友達同士みたいに!・・・さらに盛り上がって行きました。

 夕方、5;00頃から・・・延々6時間に渡る楽しいパーテイーが、

お開きになりました。

最終電車に間に合うように・・・4人で駒込駅に向います。

満天の星空の中、灯りの消えた商店街を大きな声でおしゃべりしながら・・・

あっという間に駅に到着しています。俺は伊藤さんと再会の握手を・・・・

 券売機で渋谷まで山手線です。

彼は今晩は彼女のところに泊まりみたいです。

「今晩は、とても楽しかったです。・・次は僕達2人で招待させて頂きます。」

隣にいた由紀子が「2月に引越しをするから、今度は新居にお招きさせてもらうはね!・・・今日はご馳走様になりました。ありがとうね・・・」

別れの挨拶をして山手線の電車に・・・週末・・・しかもクリスマスイブの電車はガラガラでした。それでも東京駅からの乗客で一気に混雑してきました。

 電車に乗ってから彼女は上機嫌で今夜の感想をまくし立てています。

「ねー貴方・・・あの伊藤さんてすごっく真面目そうだし、朴訥とした雰囲気が最高!そうは思わない?・・・」「俺も同じ感じ・・・東北気質が蔓延してるもんね!」そんなやりとりが続きます。「ねー貴方・・・真由美に・・・私の事、聞かれた時、なんて答えるか?・・・実は、楽しみだったの?でも貴方が素直に自分の気持を話してくれて、私、とっても嬉しかった・・・やった!・・・やった!・・・ていう感じだったの!」「このまま、何も変わらずに、ずっとずっと一緒にいたい・・・そして、今夜のこの気持ちを忘れたくない」・・・頭を俺の右肩にもたげて、左手でしっかりを俺の右手をつかんでいます。

 しばし沈黙・・・

ちらりと横顔をみると、頬を伝う涙がありました。薄っすら涙が

こぼれて行きます。なんか・・・ジーンと来ちゃいました。

いつもワイワイ、ガヤガヤ・・・そんな由紀子が見せる内面の真実を

覗いてしまったようです。「ねー貴方・・・」が口癖の由紀子、

商店街の焼き鳥屋でコインランドリーで良く若い夫婦に間違えられます。そんな時はいつも・・「そうなんです・・ウチの主人なんです!」

もう勘弁してよと思うこともありますが、内面は寂しがりやで

やきもち焼で、どうしようもなく、俺の事が好きなんだと・・・

車内アナウンスが・・・

 「渋谷・・・渋谷に到着します。。東横線、井の頭線、地下鉄銀座線は

お乗り換え・・・」 さあ・・降りるよ・・「もーせっかくいい持ちだったのに!」  また・・・いつもの彼女が隣にいます。

昭和52年冬・・・クリスマスイブの出来事でした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る