第2話 冬の散歩道

  古き良き時代の「下宿屋」で織り成すドラマが

 続いて行きます。後期の授業が始まり、秋の気配

 が濃くなり、いつしか落ち葉の季節です。

 お決まりの散策コースで同じ時間を過ごします。


 代々木公園に続くプラタナスの落ち葉を踏みしめながら

 寄りそう2人の影法師・・・傾く夕日の美しさを満喫

 しながら・・・とにかく同じ時間を共有することが週末の

 楽しみな時間になりました。


 彼女といえば、先日、縁戚続き大家さんの一言をずっと気にしていました。

「由紀子さん・・・里中君と仲良くするのは構わないけれど、他の

の学生さんのこともあるので、夜、遅い時間の部屋の行き来は控えて下さい。」


 大家さんにすれば、当然の話ですが・・・

 彼女は監視されているようで、「それが耐えれない、我慢できない!」    と・・・この1週間は1度だけ、部屋を訪ねてきただけでした。

 久しぶりのデート、なのに、神経質な愚痴のオンパレードです。

 両親の気持、大家さんの気持を頭では理解できても

 引き裂かれそうになる不安と、監視状態での視線を

 ひどく気にしています。

「あまり・・気にしないほうがいいよ」

別に悪いことをしているんじゃないから・・・

「貴方はいいはね・・・

夜は、バイトで遅いし・・ようやく話ができると思っても、あんな

言い方されたら、落ち込んじゃうし・・行きたくても行けない!」

「だから、なるべく我慢しているのに!」「まったく・・もう・・」とにかく、ご機嫌ななめの彼女です。


 普段は明るく、とてもお喋りなのに、今日は、言葉も少なめ

 何か、心に引っかかるものがあって、消化できない「もどかしさ」

 にあえいでいます。夕日が落ちた代々木公園・・気温が下がり

 はじめました。


 今日はどこへ行く・・・「寒いから、お好み焼きに

しようと!」彼女の言葉を受けて、センター街の「お好み焼き、こけし」

 に流れました。

 ビールで乾杯、ホッピーを飲みながら、

 また、大家さんの話の続きになりました。


「私・・もう我慢できない・・・

来年の3月には引っ越すんだ・・・もう決めた!」「ね・・・誰の干渉も受けずに貴方と一緒にいたい!ねーいいでしょう・・・貴方はどう思うの?」

「私が引越したら、来てくれるでしょう・・・」

「そりゃ・・・・・ずっと一緒にいれれば、嬉しいさ・・・でも田舎の両親が

許してくれるのかな?」「そーね・・・多分、そこが問題だから、

夏休みに帰省した時に、親には、通学に1時間以上かかるから

2年次には引越ししたいと話をして、半ば、OKをもらっているの」


「ふーんそうなんだ!根回し万全だね・・・」 


「あーこれですっきりした!今夜は飲もうっと!」


 さあ・・・

 いつもの饒舌な彼女に大変身です。


「おばさーん・・・ヤキソバもう1つ追加ね!」


  何かが・・・吹っ切れたように、飲んで食べて

 大騒ぎになりました。いつもの賑やかな彼女がいます。

 ふらつく足元を気にしながら、東横線の最終、元住吉行きに

 飛び乗りました。最終電車なので、立錐の余地もなく、ひどく

 混んでいました。三角地帯にスペースを見つけて、

 彼女を支えています。


 彼女といえば、胸に顔を埋めて抱き着いて離れません。酔っ払い気味

 のサラリーマンの好奇な視線を感じながら・・・早く解放されたい

 と思ったのは、俺だけでした。


 彼女は「何も、・・・恥ずかしくない!」と

 何度もつぶやいています。これからどうなるのかな?高校時代の

 憧れ・・・「同棲」という現実が直ぐ、そこまで迫っている晩秋の

 出来事でした。

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