第18話襲撃

 翌日。道場にて。

 俺は、朝稽古の後に爺ちゃんに相談をしていた。レインについてだ。爺ちゃんは、特魔部隊に多少顔が利く。だから、上の人間に掛け合ってもらってレインについて情報を得るという算段だ。

 しかし、


「ダメじゃ。自分でなんとかしろ。」

「え、何で!」


 俺の予想に反し、爺ちゃんは俺の相談には乗ってくれなかった。


「まだ出来ることがあるじゃろ。」

「出来ること?」

「そうじゃ。あの小僧とは話したのか?」

「あ、当たり前だろ?」

「ふん、どうせお前のことじゃ、踏み入った話はしとらんじゃろ。」

「う…」

「図星かの。」


 く、たしかにそういった話はほとんどしていなかった。


「じゃから、儂に頼むのは最後の手段にしておけ。」

「で、でもさ…」

「でもじゃない!楽な方へと流されるな。そんな考えは不幸を招く。」

「はぁ、分かったよ。もう少しだけ頑張ってみる。」


 こうして、俺の相談は終わる。



「しかし、あの小僧はなかなかの腕前じゃったな。」

「ああ、あれは凄かったと思う。クリスタルモンスターをたった一撃で破壊するなんてありえないからな。」

「…ん?」

「え、俺何かおかしなこと言ったか?」


 別に普通の会話のはずなんだが、爺ちゃんは違和感を覚えているようだ。もしかして、ボケた訳じゃないよな。まだそんな歳じゃないし。

 と、俺が思っていると


「ああ、そうか!お前にはまだ教えておらんかったのぉ。」

「え?」

「クリスタルモンスターの倒し方じゃよ。」

「は?どういうこと?」


 爺ちゃんが言うには、クリスタルモンスターにはあまり知られていない破壊方法があるらしい。

 クリスタルモンスターのもう一つの破壊方法。それは、奴らの内部に存在する核を何らかの攻撃手段で破壊することにより、敵を撃破するというもの。

 一見そちらのほうが簡単なように見えるが、核は無色で識別不能。見つけるには魔力感知という能力が必要になってくる。この魔力感知というのは、周りの魔力を感知する高等技術で才能がいる。それ故一般人はおろか特魔部隊の隊員にも使えるものはそう多くないらしい。そして、たとえそれが使えたとしても、クリスタルモンスターの核は体内で動き回る。

 そんな難しい方法を使うよりも、魔力銃や魔法を使った方法のほうが楽なため、特魔部隊でその破壊方法を使う者はほとんどいないらしい。

 学校の入学式での騒動で爺ちゃんも核を狙った攻撃をした。しかし、あの化け物の硬度は知っての通り鋼鉄以上だ。今の爺ちゃんでは捉えることはできても、破壊までには至らなかった。もちろん、あの歳であれほど出来れば凄いことなのだ。俺では、かすり傷もつけられないのだから。

 そう思うと俺はまだまだなんだなと感じる。1日や2日で上達するほど剣や魔法は甘くないのは分かっている。しかし、レインや爺ちゃんを見ているとどうしても劣等感を感じてしまうものだ。そういった意味でも俺はレインと共闘できていないのだろう。


「タッグへの道は険しいな。」

「それでも、やると決めたのは刃、お前じゃろ?」

「ああ、分かってるよ爺ちゃん。今度、しっかり話あってみる。」

「そうか。」


 大丈夫、なんとかなる。このくらいで根を上げていては、俺の望みは叶えられないのだから。



 ―――――――――――――――――――――――


 4月23日。

 その日、俺は訓練所地下に来ていた。今日は休日だ。だが、俺はここの射撃場で射撃の訓練中のレインに先日爺ちゃんに言われたように、話をするためにそこに来た。

 地下は、上の階とは違い、広いが天井は3メートルほどの高さで射撃場に加え、トレーニングルーム、休憩場が設けられていた。


 ドパンッ、ドパンッ


 射撃場に行くと、いつものようにレインの撃った弾丸は的のど真ん中を撃ち抜いていた。相変わらずの精密射撃だ。

 俺は、レインの方へと向かう。


「よ、ようレイン。おはよう。」


 俺の呼び掛けにレインは気付きこっちに振り向く。


「何か用?」

「ああ、ちょっとな…。」

「忙しい 早く用件を。」


 もちろん分かっているし、俺だって話を切り出したい。しかし、切り出そうにも改めてちゃんと話をしようとすると急に緊張してきて上手くそれが出来ないのだ。


「あ…、えっと…」 


 俺は少し言葉に詰まってしまった。それがいけなかったのだろう、レインは不機嫌な顔になる。

 このままではいけないと思い、未だ緊張冷めぬままに口を開く。


「じ、実は前から思ってたんだけどさ、俺たち会話が足りないとなぁって…」

「…」

「お、おい。何でそこで黙る?」

「会話なんて、いらない。」


 この期に及んでまだ言うか、この我が儘!

 俺は、込み上げてくるイライラを抑えつける。緊張は、少しだけ緩んだが。


「まぁまぁ、そう言わずにさ、ちょっとだけでいいから…」

「嫌だ。」


 く、だがこのくらいで引くわけには行かない。

 俺は、粘る。


「頼むよ。少しだけ。」

「しつこい」


 しかし、レインは俺の言葉に応じようとしない。

 さて、こうも頑固だとこれ以上は逆効果だろうか。いや、ここで食い下がってはいけないとも思ってしまう。本当にどうしたものだろう。

 と、俺が考えていると不意にレインの携帯電話の着信音が鳴る。

 レインは携帯を開き、電話に出る。


「もしもし…、…クリスタルモンスター?分かったすぐに行く。」


 レインは通話を切り、急いで銃を懐にしまって上に向かおうとする。


「え?お、おい、なんだよ!クリスタルモンスターが現れたのか!じゃあ俺も―――」

「お前は来なくていい。」


 俺がついて行こうとすると、レインはまたいつもの如く一人で大丈夫だと言い出す。

 だが、俺もそろそろ限界だ。勝手についていってやる。幸い、武器は佐藤さんに頼んで俺用の武器を用意してもらった。いつまでも、爺ちゃんに借りっぱなしはさすがにまずいからな。

 用意してもらった武器は当然刀。爺ちゃんの刀には劣るが、切れ味は普通のより高い。

 俺は、それを持ってレインについていく。



 ―――――――――――――――――――――――――――


「ついて来るなと言った。」

「うるさい!タッグだろ?俺らは。」

「はぁ…、勝手にすればいい。」


 俺たちは、クリスタルモンスターが現れたというとあるイベント会場へ向かっていた。現れたのは3匹、しかもそこには子供連れの親子でいっぱいらしい。状況はかなりまずいと言える。急がなければ。


 例の現場にたどり着いた俺たちは、辺りを見回す。

 しかし俺は、いや、俺たちはすぐに違和感を覚えた。

 おかしい、クリスタルモンスター出現からもう15分以上経過しているはずなのに、その現場にはまだ多くの人々がいるし、クリスタルモンスターがいない。そして、何より全員が拘束されているのだ。


「レイン、気をつけろ。なんか変だぞ。」

「分かってる。」


 それにしても、一体全体何があったのだろう。

 なぜ、みんな拘束されている。クリスタルモンスターが出たんだろ?これではまるで人間が襲撃してきたみたいだ。

 しかし、周りにはそれらしい人影はない。


 そこで俺の思考は止まる。いや、考えている暇がなかったのだ。


「「「ガァーーーーーーッ!」」」


 そう、すでに俺たちは例の三匹のクリスタルモンスターに囲まれていたのだ。三匹は、それぞれカマキリ、てんとう虫、バッタの虫型だ。


「な、クリスタルモンスター!いったいどこから…」


 しまった。まさか囲まれるなんて。ここには、俺たちだけじゃなく、多くの一般人がいる。これでは守りようがない。

 レインの方を見る。しかし、冷めた態度は変わらず、銃を構えていた。さすがというべきか、とても冷静な判断だ。

 レインに続き、俺も刀を構える。

 考えてみれば、これが初任務。正直、初任務がこんな絶体絶命の状況になるとは思っていなかったのだが。

 しかし、どうやらそれは俺の勘違いだったようで、俺が少し冷や汗をかいて構えていたその時、


 ドパンッ ドパンッ ドパンッ


 三筋の青き弾丸が空を切る。

 レインが魔力銃の引き金をひいたのだ。

 弾丸は、太陽に照らされ不気味に光る紫色の結晶体に風穴を開ける。

 そして、次の瞬間さっきまで俺たちを囲んでいた三匹のクリスタルモンスターはくだけ散る。


「あ、え?あ…ああ…。」


 一瞬だった。まさか、あんな化け物をあんなに呆気なく倒すとは。三匹だぞ?いくらなんでも、あり得なさすぎる。

 俺は、レインを見る。レインは、当然のように報告を開始していた。いったい、俺の相棒はどこまで常識はずれなのだろう。また、こいつとの距離を感じてしまう。


「対象確認 三匹は破壊完了。…けどおかしい、ここ 人が何人も拘束されてる。」


 そうだ。劣等感に打ちのめされている場合じゃない。事件はまだ終わってない。こいつの言った通り、多くの人が拘束されているというおかしな状況の理由を探らなければ。


「分かった。後は、応援部隊に任せ―――――」

「そいつは、困るな~、ガキ。」


 レインが報告を終える前に何者かが邪魔に入る。

 声のした方に目を向けると、そこには魔導式自動小銃や防弾チョッキなどで身を固めた男たちが武器を構えていた。数はわからない、6人以上はいる。


「誰だ、お前ら!」


 俺が尋ねると、そのうちの一人が声を上げる。


「よぉ、特魔のガキども。残念だが、お前らに発言する権利はねぇんだ。」

「なんだと?」

「だ・か・ら~、言うこと聞かねぇとこうなるんだよ!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 男は小銃を上に上げ、威嚇の銃声を響きわたらせる。

 銃声を聞いた人々は顔を青ざめさせる。中には、泣き出してしまう人もいた。しかし、拘束され、喋れないようにされているため、周りは異様に静かだった。


「させない。」


 レインは男たちの方に銃を向ける。だが、様子がおかしい。さっきのように冷静さがないような気がする。それに、銃を撃つことに迷いがあるのか、一向に撃とうとしない。

 そんな、レインの行動に男は何かを考えるように顎をさする。

 そして、


「なるほどな~、よしよし分かった。じゃ、見せしめだな。おい!」


 男は隣の仲間に合図を送る。


「はぁ、やっぱりお前らは馬鹿で無能。言っとくが、これはお前らが悪いんだぜ?」


 そう言って、男の仲間が近くにいた親子を連れてくる。二人は、当然拘束されたままだ。

 そして、男はその親子に銃を向けて言う。


「さぁーて、どうする?撃てるんだろ?撃てよ

 。まぁ、無理だろうがな!」


 こいつら、クズだ。人質を盾にするだけじゃなく、その人質にも銃を向けるなんて。


「はっ。やっぱりな。お前、撃つのが怖いんだろ?大丈夫だ、さっきみたく撃ちゃいいだけだ。ほら早く。じゃないと、俺が殺っちまうぞ?どっちから殺ろうかな、息子か?いやまずは母親か?」


 クソッ、遊ばれている。だが、たしかに今、この状況をなんとかできるのはレインだけだ。

 しかし…


「ああ…ああ…ああ……」


 レインは完全に冷静さを失っていた。


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