第17話青き少年との出会い パート2
「嘘…だろ…?」
俺は、ありえない光景を目の当たりにしていた。未来の相棒、青髪の少年が作り出した光景だ。
少年は、クリスタルモンスターを破壊した。たった一人で 、それも一丁の魔力銃だけでだ。
ありえない、俺の知る限りあの化け物は、たった一発の銃弾で破壊することなど不可能だ。
「ね?大丈夫だったでしょ?」
驚きを隠せない俺に佐藤さんが声をかける。
しかし、驚き過ぎて返事が出来ない。
さらに声がかけられる。
「彼は、いつもたった一丁の魔力銃で戦うんです。おまけにチームも組もうとしない。詳しいことは聞かされてないですが、彼曰く、「武器はこれで十分、タッグは必要ない」とか。しかし実際、彼一人でこと足りるのは確かなので一人でやらせているらしいです。」
「…すごいですね。」
やっとのことで俺はそれだけ言った。
いつもこんなだって言うのか?
ありえない。ありえなさ過ぎる。あの少年の強さも言動も、そして俺がそんなのとタッグを組むことも、その全てがありえない。
俺の口は開いたままだった。
そんな俺にまたも声がかけられる。
「桐島君。驚いている暇はないよ。ほら行こう、彼と合流しないと。」
「え?あっ、はい。」
佐藤さんと爺ちゃんの後ろに、俺は遅れてついていく。
俺の相棒になるらしい少年。果たして、どんなやつなのだろう。
――――――――――――――――――――――
クリスタルモンスターの残骸が残るビルにて。
件の少年は対象の破壊の確認とその報告を行っていた。
「――――対象 破壊 確認 。
最小限の単語で報告を終え、少年は俺たちのほうにふりかえる。遠くからでも確認はできたが、やはり日本人ではない。顔の造形は外国人のそれと同じだったのだ。
「お前ら 何者?」
怪しいものを見るような目で少年は尋ねる。
それに反応して、佐藤さんは懐を探り、名刺を取り出す。
そして、取り出した名刺を少年に近づいて渡して言う。
「どうもおはようございます。何度か顔を合わせているんですが、どうやら覚えてもらえてないみたいですね。では改めて、私は特殊攻撃魔導部隊の佐藤武志と申します。」
名刺を受け取った少年は、名刺と佐藤さんを交互に見る。
「なるほど。分かった。でも 仕事は終わった。だから帰っていい。」
どうやら警戒は解かれたようだ。
だが、どうも話が噛み合っていないな。
もしかして、そっちに連絡が届いてないのか?
「あ、いえ。私たちはクリスタルモンスターの破壊に来たのではなく、例のタッグの件で来たんですよ。先日連絡させて頂いたのですが…。」
「…あ、忘れてた…」
「え…」
忘れてたのかよ!
なんかデジャブを感じるのだが気のせいだろうか。
って今はそんなことはどうでもいいな。続きだ。
「きのう 忙しかった。」
「そうでしたか…。でも、今度からは忘れないでくださいね。」
「わかった。」
「では、話を進めます。」
そう言って、佐藤さんは俺を前に来させた。
「事前に伝えていた通り、今日から君たち二人にはタッグを組んでもらいます。いいですね。」
「はい。」
「いやだ。」
「………。」
「…
少年の反抗に佐藤さんは、無言の威圧をする。
効果があったようで、少年は佐藤から目を反らしつつもタッグの承認をした。
なるほど、誰ともチームを組もうとしないというのは間違っていないようだ。初対面の俺でも分かった。
「ふぅ。あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。二人とも互いに自己紹介をしてください。」
そう言われて俺は、右手を出して少年に自己紹介をする。
「俺は刃。桐島刃だ。年は今年で16。よろしくな。」
「レイン・バレット。レインでいい。年は今年で16。…よろしく…。」
少年…、いやレイン・バレットは嫌々自己紹介し、右手を出して俺と握手した。
物凄く嫌なんだろう、目は俺から反らしていた。
はぁ、仕方がない。どうにも無愛想で付き合いにくいやつだけど、せっかくタッグを組んだんだし時間をかけて仲良くなってみるか。
――――――――――――――――――――――
「はぁ……。」
「…どうした?何か悩み事でもあるのか?」
「あ、いや…、なんでもないよ…。」
夕飯を食べている途中、俺は、俺とタッグを組むことになったあの無愛想な少年のことを思い出して、おもわずため息をついてしまった。
そんな俺を心配してか父さんが話しかけてくれる。だが、夕飯がまずくなるだけなので本当は相談したかったことは話さないでおくことにした。
俺が父さんに話したかった悩み。
それは、当然レイン・バレットの我が儘っぷりについてだ。
レインとタッグを組んで5日。その間、クリスタルモンスターの出現はなかったものの、放課後俺たち二人は特魔部隊の訓練所で対クリスタルモンスター戦の演習を佐藤さん指導のもと行った。目的は、互いのことを知り、信頼関係を築くためだったらしい。
演習では、いくつもの課題を出された。そして、それらは俺たち二人で共闘する……はずだった…。しかし、そのどれもがレインの独壇場で、「共闘」の「き」の字もなかったのだ。
つまり、目的は達成できなかったということだ。この5日間で知り得たことと言えば、レインの戦闘力の高さと頑固なまでに一人で全てをこなそうとすることだけだ。
戦闘力に関しては言わずもがな、あの銃の高威力と精密射撃。それに加えて意外にも接近戦ができるということだ。なかなかに強かったと思う。
そして、レインのあの無愛想な態度だが、俺には無理をしているように見えた。それがなぜかは分からない。ただ、演習中、いつも眉にしわを作っていたのだ。
まぁ、もしかしたら気のせいかも知れない。あいつ終始「タッグ いらない」って言ってたから単に俺が嫌いなだけかも知れない。
正直、レインと仲良くなるのは無理なのではないかと半分諦めかけている。
本当になぜ俺たちはタッグを組むことになったのか。そもそもレインの強さなら、俺がいなくても十分一人でやっていける。俺と組むことに何の意味があるというのだろう。分からない。
佐藤さんは事務的な仕事を任されているだけで、戦闘員でも、ましてや上の人間でもない。だから俺には情報があまり回って来ていない。
「はぁ……。」
この憤ろしさが俺をさらに悩ませる。
「…、やっぱり何か悩みがあるのか?」
「いや、なんでも…。」
「そうか。ならいいんだが…。困ったら父さん、相談にのるからな。」
「うん、ありがとう。ごちそうさま。」
俺は、このモヤモヤとした感情を抱えながら2階にある自分の部屋へ向かう。
部屋に入り、ベッドに体を投げ出す。
顔を枕に埋めて、これからのことを考えこむ。
レインという少年の態度が変わらないことには、タッグでの活動は不可能だ。
しかし、このままだと何も変わらないだろう。
どうすればいい?どうすればあの態度を変えられる?
思考はここで行き詰まる。ここ数日、ずっとこの調子だ。まったく、俺一人が悩んでいることが馬鹿らしいように思えてくる。
頼りの佐藤さんは例の通り、レインのことをほとんど知らない。何度か会っていたらしいが、それでも知っていることは俺と大差ないだろう。
ああ、せめてレインがなんでタッグを嫌がるのかがわかれば解決策が思いつくはずなんだが。
やっぱり、ちょっと調べてみるか?でも、どうやって?いや、一人解決できそうな人がいる。
そう思ったら、急に眠くなってきた。
時刻はまだ午後7時。早すぎるのかも知れないが、特魔部隊の演習だけではなく、俺は休んでいた学校に行ってさらに疲れたのだ。
いくら俺でも、学校に着いた途端に同級生に土下座をされたら精神的に参ってしまう。そう、その生徒は入学式に爺ちゃんに怒鳴られた生徒だったのだ。式の時、居眠りをしていたそうで、爺ちゃんが起こしたらそいつは舌打ちしたそうだ。そして、あの事件が起こった。
向こうが悪いとはいえ、孫の俺にまで土下座してしまうくらい叱られたのだ。本当に申し訳ない気持ちになってしまう。
そして、その光景を周りの人に見られる俺の心情は羞恥でいっぱいだった。
疲れた。少しだけ、本当に少しだけ休もう。
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