第15話入隊試験とヘンテコロボット
「これは…。」
4月11日。
特殊攻撃魔導部隊、略して特魔部隊との取引から一週間がたったその日、俺は目の前にいる摩訶不思議な存在に困惑の声を漏らしていた。
俺が今いる場所は、特魔部隊の訓練所内部。ドームのような造りで、床は木で出来ており、広さはおおまかに見て200メートル×200メートル、高さは10メートルほどだろうか。どちらにしても物凄く広いことだけはたしかだ。
そして俺がここにいる理由。それはもちろん例の試験を受けるためだ。
取引の翌日、手紙が届いて入隊試験の許可、加えて具体的な場所と時間が中に書かれていた。
そして話は戻るが、俺は今、空間が歪んだかのような感覚に見舞われていた。
原因は俺の前にいるこの変なやつ。厳密に言うのならそれはロボットと言うべきものだった。
「ふふふ。凄いだろう?これは我々特殊攻撃魔導部隊の研究班が作った人工知能搭載の人型ロボットでね。対クリスタルモンスター用の新たな兵器として研究に研究を重ねて作ったものなんだ。」
「はあ…。あれがですか?黒田さん。」
うわぁ、この人マジで言ってる。
なるほど、たしかにあれが凄いかと聞かれれば多くの人が凄いと言うのだろう。
だが、それは凄く高性能なロボットとしてではなく、そのなんとも言えない存在感にである。
その存在を口に表現するのならば、摩訶不思議、混沌、あるいは違和感の塊といった言葉がふさわしいと言えるだろう。
それはなぜか。答えは明白だ。このロボットはいろいろと言動がおかしいのだ。
こいつは喋る。それもなぜか関西弁で。別に関西弁を馬鹿にしているわけではなく、ロボットが、しかも国際機関直属の組織が作ったはずのものであるそれが関西弁を話していることがおかしいのだ。これは俺の勝手なイメージというか生活の中で培ってきた知識や感覚というか、そういったものに基づいた考えだが、こういったロボットは普通標準語で喋るのではないだろうか。
それだけではない。いかに最新技術だと言ってもここまで人間臭い態度が取れるものだろうか。もっとこう、感情が無いような、知的な態度を取るのが俺の知るロボットだったり機械だったりするものだ。
主にこの二つの違和感が合わさり、この混沌としたものを形作っていた。
ああ、なんだか目眩がしてきた。帰ろうかな…。
って帰ってどうする!俺はここに試験を受けに来たのだ。これくらいのことで動じてどうする。
だが、しかしな…
「黒田の兄ちゃん、もしかしてこのひょろそうなんが俺の対戦相手ちゅうんか?嘘やん、何か思ってたんとちゃうねんけど!」
「あのね…。君、私は言ったはずだよ?相手は高校生だって。」
「いやいや、たしかに言ったけど相手はそれなりに強いって言ってたやん!ほなもっとこう、がっしりした奴かと思うやん?で、蓋を開けたら何これ、へなちょこやんかボケ!」
こんな感じである。この人間臭い態度に加えて、とても口が悪いのは何の冗談だろうか。
製作者の一人である黒田さんにもタメ口だし、今「ボケ」とか言ったな。
ちなみにこの人は黒田創太。特魔部隊の研究班の一人だ。
この人は優秀な人らしいのだが、こんな口の悪いやつを作った人の一人だと聞いてその実力をちょっと疑ってしまう。
いや、このロボットがハイスペックなのは認める、こんなの他に見たことがないからな。でも、これはないな。
そして。
「おいこら、ロボット。お前、さっきからひょろそうとか、へなちょことか、全部聞こえてるんだからな。」
「うるさいわボケ!へなちょこにへなちょこって言うて何が悪いねん!」
うん、このロボットは嫌いだ。
「桐島君。この子はロボットって言う名前じゃないよ、ちゃんと名前をつけているんだ。」
うん、この人はちょっと面倒臭い。
「名前ですか。」
「ああ、この子はジンタ君だ!カッコいいだろう?」
「…あ、そう…ですね…。」
うん、このロボットは名前がちょっとダサい。
「待ってくれや、その名前嫌やねん。今からでも間に合う、名前変えてくれへんか?」
「ちなみに、どんなのがいいんだ?」
そう俺が尋ねてみる。
すると。
「お、なんや自分。俺がつけて欲しい名前聞いてくれるんか?しゃあない、教えたるわ。
…ふふん、C-3⚫️Oとかどうや?似てるしな。」
「古過ぎだろ!それ100年以上前の映画のキャラクターじゃねぇか!ていうか、似てねーよあっちのほうがまだ愛嬌があるし、それにお前、色が黒と銀だから全く違うだろうが!」
「お、なかなか突っ込みの才能あるなぁ。こんなしょうもない部隊なんかに入らんと俺と漫才師になろうや。」
「誰がお前なんかとなるか!」
「なんやねん、つれやんやつやなぁ。」
はぁ…、たしか俺はここに試験を受けにきたんだよな?どうしてこんなに話がそれていくのだろうか。頭が痛くなってきた。
どうやらそれは向こうも同じみたいで、試験の準備が整ってから30分以上経っても一向に進展しないこの状況に試験官の人たちがイライラしてきていた。
その中にこの前のXもいた。後で聞いたが、名前は佐藤武志というらしい。
そして、とうとう痺れをきらしたのか、試験官のうちの一人がこちらに駆け寄り言ってくる。
「あの、そろそろ始めてもいいですか?」
「おっと、もう準備が出来ていたのか、よし桐島君、ジンタ君試験を開始するぞ!」
「えっ、待ってくれ、まだ名前決まってないねん。」
「いや、もうそれでいいだろ。」
試験官の声に黒田さんが試験の開始を宣言する。というか、試験官。もっと早く来てくれよ。そして、試験開始の宣言するのはそっちじゃないのか?
そんなこんなで、俺の試験はやっと始まる。
―――――――――――――――――
「よっしゃっ!やったるでぇ!」
「ああ、頼む。」
さっきとはうって変わってやる気のヘンテコロボット、ジンタ。初めからこの調子でやっていてくれれば話は早かったのだが…。まぁ、今はそんなことを言っている暇はない。話ではこいつかなり強いらしいからな。
俺たちは訓練所の中心で互いに10メートルほど離れて向かいあっている。そこに審判が確認を取る。
「では、試験を開始しますが、始めにこの試験内容とルールを説明させていただきます。」
話を要約するとこうだった。
まず、試験内容は俺とこのロボットが戦闘を行い。合否を判定するらしい。また、ルールは攻撃は基本何でもあり。ただし、俺を殺してしまうような攻撃は不可。これは俺にとってかなりラッキーだ。
そして、合否はその戦闘を見た審判と試験官たちが勝敗やその他のことを踏まえて決めることになっている。
つまり、負けても合格出来るわけだが、勝つに越したことはない。
「では、始めます。よーい…」
俺は、腰の刀を抜き構える。この刀は爺ちゃんから借りたものだ。俺がクリスタルモンスターと戦った時の刀と言えば分かるだろうか。
爺ちゃんは「家で合格の知らせを待っとる」と言って今日はついて来なかった。
任せろ爺ちゃん。
審判がリモコンの開始ボタンを押す。
「始め!」
ピィーーーーーー!
そんな音とともに戦闘は開始した。
俺は、刀を手に踏み込む。ジンタは構えてもいない。なめているみたいだ。
ならば、初めから飛ばしていってやる。
「はぁーーー!」
俺が最初に放ったのは、桐島流四の型疾風迅雷。俺の最速の剣で一気に決める!
しかし、攻撃は当たらない。ジンタが高速で振った俺の刀を一瞬で避けたのだ。
そして後ろに回り込み、チョップを食らわせる。
「ぐはっ」
クソ、こいつ速い。俺の攻撃を避けるなんて、これはなかなか苦戦しそうだ。
「うわっ、弱っ!めっちゃ弱いやん。自分そんなんで特魔部隊に入ろうとか思ったんか?やめとけ、すぐ死ぬで。」
「うるさいっ!」
くっ、勝負の時でもこんな余裕見せられるなんて。だが、こんな煽りで冷静さを失う俺ではない。体勢を立て直し。次の攻撃に移る。
一の型十六夜、四の型疾風迅雷、二の型風月…
…次々に俺から放たれる技と剣戟。
しかしそのどれもがジンタの黒い腕で防がれる。
何度隙をついて斬ろうとしても即座にやつの腕で受け流される剣。
「な、バカな!」
「なんや、終わりか?じゃ、こっちからも行かせてもらうわ!オラーッ!」
一変して今度は俺が攻撃を受けるほうになってしまった。だが、その拳から放たれる一撃一撃がとても速い。さらに蹴りも加わり避けきれず刀で攻撃を受け止めるが、続く攻撃でついに今日2度目の攻撃が俺にヒットする。
「かはっ!ぐ…」
「おらおら、まだ攻撃は終わってないぞッ!」
「まずいっ!」
俺は後ろに大きく下がり、距離を取る。
予想外だ。こんなに強いなんて。これがこのヘンテコロボットの力か、まずい、勝てない。
俺はこの一週間、修行したがまだ魔法は実用段階に至っていない。魔法を発動しようにも魔力をためるのに時間が掛かるし、できても短い時間だけだ。
と、俺が内心焦っていたとき、ジンタが呆れたように言った。
「なぁ、お前ホンマに何でこんなとこに入ろうとか思ったん。しんどいだけやしさ…全然ええ所違うで?」
「何で、そんなことを戦闘中に言う。」
「何でって、お前。俺さっき言うたで、お前みたいなん入ったてすぐ死ぬ。現に、俺にろくに攻撃も当てられやんかったしな。無駄死にするだけやって。そんな無駄なことすんのやったら普通の生活送ったらええって言うてんのや!分かれや!」
「……はっ!嫌だね!」
俺は、痛みで腹を押さえていた左手を放し、構えて言う。
「無駄なことって言うたで。」
「それがどうした。」
「自分、結構バカやろ?人の言うこと一つも聞いてないやん。」
「バカじゃないし、話は聞いてる。その上で嫌だって言ったんだ。」
「いや、そんなら尚更バカやん。」
「うるさい!」
俺は床を思い切り蹴り、踏み出す。そうだ、何を弱気になっている。忘れたのか、あの時の気持ちを!
「はぁっ!」
キィーーンと鈍い音を立てて俺の刀は止まる。
ジンタの腕によりまた攻撃が防がれた。
だが、俺は力を緩めず、さらに強い力を刀を持つ手に入れる。
「お前は、無駄なことだっていうけど、俺はこのまま何もせず、ただのんびり生きていくのなんてごめんなんだよ!」
「はぁ?何言ってるか意味わからんわ。楽しようとするのが人間ってもんやろが。」
「ああ、楽がしたいさ俺だって。でも、それじゃ誰も守れねえんだよ。分かるか?自分の無力さに打ちのめされるこの気持ちが。今も感じているこの気持ちが!抗ってやる!俺は、あの化け物に抗って、それで俺の大事なもん全部守る。それにはここに入る必要がある!」
忘れるわけがない。
だから負けない、俺は。こんなところで負けてたまるか!
越えろ、己の限界を。今この瞬間に。
俺の思いと同時に体から溢れてくるものがあった。魔力だ。
いける!これなら
刀と俺の身体に魔力で強化をする。
「なめんなボケェ!」
ジンタは刀を払いのけ、俺に思い切り殴りかかる。
しかし、攻撃は当たらなかった。
「んなアホな!何で当たらんねん!」
「悪いな、もうお前のターンは終わりだ。」
「あ?なんやとコラッ!」
そう、もうあいつが俺に攻撃を当てることはできない。
「なっ、なんやそれ!」
ジンタの胴体には傷がついていた。
桐島流剣術「八の型
高速移動で敵を翻弄する剣の舞は人口知能搭載のロボットをも惑わせたのだ。
その不規則な動きと高速の刃は容易に敵の隙をつく。魔法が使える者だけが舞うことのできる裏の技だ。
「チクショウが!動きがまったく読めやん!」
さらに一つまた一つと、ジンタの身体に傷をつけていく。だんだんとやつの動きも鈍くなってきた。
よし、一気に決める!
「終わりだ!」
「しまっ――」
合技、幻舞一刀。八と七の型の組み合わせ。
その一撃でジンタの胴体が真っ二つに斬れる。
ピィーーーーーー!
戦闘終了の合図だ。
「ジンタ胴体断裂により、勝者、桐島刃!」
「やっ…た…。」
勝った。俺の勝ちだ。
まだ、合格が決まった訳じゃないけど、やったぞ爺ちゃん。
刀を鞘に戻した俺は、最初いた位置に戻る。あいさつをするためだ。
だが、俺が行こうとすると、ジンタは特魔部隊の研究者たちに運ばれていった。
「なんだよ、戻る意味なかったんならそう言ってくれよ。」
一人愚痴をこぼす俺。
試験官のいる方へ向かおうとしたその時。俺の視界は歪む。目眩だ。
「まさか、また無茶したのか俺。」
だが、まぁ、この前よりましだな。
そう思っていると、試験官の佐藤さんが俺に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。なんとか…」
「そうか。なら良かったです。」
そして、真剣な顔をして言った。
「桐島君、合格です。」
と。
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