第14話祖父の過去と取引
「さて、どこから話そうか。」
腕を組みながら爺ちゃんは、自分の病室のベッドの上で座りながら言う。クリスタルモンスターにやられた傷はかなり良くなっているようだ。
「あ…、じゃあまずは、爺ちゃんが隠してることについて頼むよ。」
「うむ。そうじゃの、まずはそこから言うのが分かりやすいか。」
「うん。」
「では、話すとするかの。――――」
―――――――――――――――
「と、まあ、こんな感じじゃ。」
「………。」
「ん?どうした?」
「いや、何か隠してるとは思ったけどここまでとは思わなくて。ま、爺ちゃんならあり得る話ではあるんだけども…。」
爺ちゃんの話はこうだった。
今から40年以上前、爺ちゃんは特魔部隊に所属していたそうだ。特殊攻撃魔導部隊、略して特魔部隊は主な活動として、クリスタルモンスターの脅威から人々を守っている。そんな組織に入ることを当時、爺ちゃんの親は反対した。
当然と言えば当然だ。家は代々、桐島流剣術というものの伝承を行っている。爺ちゃんは一人息子で、剣の才能もずば抜けていた。そんな人間を危険な仕事に就かせ、剣の伝承者がいなくなればそこで桐島家の剣術は終わってしまう。
しかし、爺ちゃんは諦めなかった。「剣術なんて使えても、誰も守らないのならゴミと同じだ。」と親の反対を押し切り、特魔部隊の入隊試験を受け、合格した。そして、その合格条件の一つに、「魔法の使用が可能」というものが必要だったため、爺ちゃんは魔法の特訓をしたらしい。
これが、爺ちゃんの隠していたことであり、魔法が使える理由だった。
「まぁ、あの時は儂もまだ若かったからのぉ。特魔部隊でもいろいろと問題ばかり起こしとったわ。」
「ははは…。」
大丈夫だ、爺ちゃん。それは今もあんまり変わってないと思うぞ。てか、やっぱり昔から問題ばっかり起こしてたのかよ。周りの人はものすごく大変だったんだろうな。
そう思うと孫として、その人たちに申し訳ない気持ちになってしまう。いつか会う機会があれば、その時は謝っておこう。
「でもそうか、爺ちゃんが特魔部隊になぁ…。少し意外だったよ。」
「ま、若かったからの。」
爺ちゃんは、昔を懐かしむような顔で言う。
どんなことがあったのか聞いて見たい気持ちがあるが、今はやめておく。まだ、
「で、爺ちゃん。俺はさっき、魔法を使えるようになりたいって言ったよな。」
「ああ、わかっとる。教えればいいんじゃろ。」
「ああそうだ。頼む。」
「まったく、仕方ないのぉ。まぁ、お前は本気みたいだから反対することもないか。」
俺の要望を、爺ちゃんは半ば諦めたような声で承諾してくれた。
「ありがとう、爺ちゃん。頑張るよ。それで俺も特魔部隊に入るんだ。」
「特魔部隊に入る?なんでまた急に。」
「いったろ。俺にだって守りたいものがあるんだ。まさか反対するなんて言うなよ。もう決めた事だし。」
悪いがこれだけは譲れない。誰がなんと言おうが今回決めた事は絶対に曲げはしない。
そう思っていると、爺ちゃんは首をよこに振って言う。
「安心せい、反対はせんよ。お前が決めた事なんだろう、なら曲げるな。」
「言われなくても曲げないよ。」
「そうか…。いや、刃、お前がそんなこと言い出すとは思わなんだ、こっちこそ意外じゃったわ。」
「そうか?」
「ああ意外じゃ。お前は剣哉みたいに剣は一通り習ってそれで終わりになるものだとばかり思っとたからの。」
桐島剣哉、父さんのことだ。父さんは、桐島家では珍しく、当主にはならなかった。理由は剣が嫌いだったからだそうだ。幼い頃から自分のしたかったことを稽古のせいで出来なかった父さんは高校を卒業後、桐島真琴こと俺の母さんと駆け落ちした。これ以上自分の人生を剣に潰されたくなかったのだ。その時は、家は相当荒れたらしい。
結局、当主は息子の俺に継がせるということで落ち着いたが、本来は自分がすべきことを息子である俺に丸投げしてしまったことに今も引け目を感じていて、いつも申し訳なさそうにしている。
俺としても、始めから決まった人生を送るなんてごめんだった。だから、当主にはならないでおこうと思っていた。
そして、父さんのことは仕方がないことであると俺はわかっていたし、当主になるつもりもなかったので普通に接してくれていいのにと、いつも思っていた。
でもそうか…。
「うーん、それはたしかにそうかもしれない。そう思ったら、俺が特魔部隊を目指すのは意外か。」
「じゃろ?」
「ああ、人生何があるか分からないもんだな。よし!頑張るぞ!」
頑張ろう。日常を守るために、俺の周りが笑顔でいられるように。
「さてと、そろそろ部屋に戻るよ。今日は、朝からありがとうな。じゃ、また。」
俺は爺ちゃんに帰ることを伝えて部屋を出ようとドアに手を掛けようとした。
すると、トントンッとドアがノックされる。そして、声とともに一人の男性が入ってきた。
「失礼します。」
その男性は、俺の知らない人だった。
「爺ちゃん、知り合いか?」
「ああ、知り合いじや。刃、悪いがもう少しここにいてくれんか?」
「え…、まぁいいけど…。」
俺はドアから離れ、再び爺ちゃんの元に戻る。
いったいこの人は爺ちゃんとどういった関係なのだろうか。そう思い、聞いてみることにした。
「えっと、この人は?もしかして、またなんかやらかしたのか?」
「何を言っとるんじゃ。まるで儂がトラブルメーカーみたいに言うな。こやつは特魔部隊の人間じゃ。おそらく儂に頼みがあるんじゃろう。」
なるほど、そうなのか良かった。
しかし、驚いたな。まさか特魔部隊の人間が爺ちゃんに用があるだなんて。
そして…
「
「ん?何か言ったか?」
「えっ…、あ、何でもないよ。いや本当に。」
「そうか?何か聞こえたような気がしたんじゃが。」
「ははは、空耳だろ。」
「それならいいんじゃが…。」
おっとまだ疑ってる。聞こえないように小さな声で言ったのに、相変わらず感がいい。
っと、そんなことよりこの人のその用事っていうのを聞かないと。
「それで用件というのは…」
「はい。以前から定期的にお伺いしているのですが…」
「やっぱり例の件か。」
例の件?なんだろう、よく分からないな。
というか、定期的にっていつ会ってたんだ?俺が学校行ってる時とかか?
「爺ちゃん例の件って?」
「ああ、実はの、特魔部隊から隊員の戦闘指導を頼まれていてのぉ。」
「な…、マジかよ。」
凄まじいな。
戦闘指導か。しかも、特魔部隊の。本当にこの人はいろいろとぶっ飛んでいる。でも、話を聞くにまだ爺ちゃんは話に同意していないようだ。。
「毎回断っておるじゃろ?」
「やはり、ダメですか?」
「ああ今回も断る…と言いたいところじゃが、一つ条件を呑んでくれるなら戦闘指導を引き受けてもいいぞ。」
「えっ、そ、それは本当ですか!」
驚きのあまり、つい前のめりになって爺ちゃんに確認を取る男性。名前を聞いていないからなんと呼んでいいか分からない。よし、心の中でだけ「X」とでも呼んでおこう。
そのXの確認に、爺ちゃんはニヤッと悪そうな顔をして答える。
「ああ、条件を呑んでくれるならな。」
「なるほど、取引ですね。こちらで対処出来るものであれば何でも言って下さい。」
取引って…、何か言い方が悪役の台詞のように聞こえるのは俺だけだろうか。
しかし、条件。いったいどんなものだろうか。
そう思っていると、爺ちゃんは俺を指し、例の条件を言う。
「いや、簡単なことじゃ。さっきから分かっていたと思うが、この子は儂の孫でな。先日のクリスタルモンスター襲撃事件で思うところがあったみたいで、特魔部隊に入隊したいらしいんじゃ。」
「つまり、お孫さんの特魔部隊の入隊を許可しろと?そういったことは少し難しいかと…。」
「なに、特別に試験を受けさせてくれるだけでいい。別に落ちても文句は言わん。」
「なるほど、それなら可能かもしれません。一度上に掛け合ってみてみましょう。」
そう言ってXは病室を出ていった。
「…、爺ちゃん。」
「なんじゃ。」
「「なんじゃ。」じゃねーよ。ダメだろ普通に。」
「ダメなことはない。別に試験日を特別に作ってもらうだけなんじゃからな。」
「いや、でも…。」
「まったく。少し柔軟な思考を持て。刃、お前はチャンスを得たんじゃ。ならば試験日までに出来ることは何か、修行じゃ。今日から始めるぞ!」
トントン拍子で進んで行く話。俺はこの次々に変わって行く状況と、修行という単語にめまいを覚えた。しかし、そんなことは言っていられないのだ。俺はチャンスを得たんだ。必死でそのチャンスにしがみついてやる。
「そうだな…、当たって砕けろだ。全力でやってみるか!」
「ま、本当に砕け散ったら、目も当てられんがな。」
「分かってる。ここで合格しなきゃ男が廃る。」
合格する。そのためには限られた時間での魔法の習得が必要だ。
まったく、忙しくなりそうだ。
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