第8話魔ノ解放
「お、おいジンタ…アレ、不味くないか…?」
『き、奇遇やな、俺も同感や…』
上空から地上へと落ちて来ている少女を見ながら、立ち止まった俺はジンタと共に焦り出す。
まさかこんな都市のど真ん中で、パラシュートを背負ってスカイダイビングをする馬鹿はいないだろう。
それを裏付けるように、例の少女は丸腰、着ているのは白いワンピースだけ。
「ど、どどどどうすんだよ…ッ!」
『いや、ほらっ…お、俺ら今試験中やしぃ?』
「試験中なのは俺だけだろうがぁッ!!つーか、んな理由であの子の事見過ごそうとしてんじゃねぇよ!」
『るっさいわッ。大体、今そこにいるのは俺やなくてお前やろ桐島刃!俺に何とか出来るとか思うなボケぇッッ』
罵倒と共に聞こえたジンタのもっともな台詞。
そうだ、やるのは現場にいる俺しかいない。
知っている、そんなのは知っているのだ。
だから、俺が言いたいのはそういう事じゃないんだジンタ。
「でも、手伝うくらいはいいだろうが……」
『お前、まさか初めからッ…』
「あぁそうだよ、助けるんだよあの子を。…分かったら、四の五の言ってねぇで手伝いやがれってんだ!」
言いながら、俺は駆け出した。
『んのッ、聞いてた通りのド阿保め!計画あんのかお前ッ』
「ねぇよ、それ考えんのがお前の仕事だろ」
『丸投げ…って。…えぇい、分かった分かった、やったらぁ…』
疲れたように言ったジンタ。
しかし、声とは裏腹に対応は迅速だった。
『桐島刃、
「どうやって?起動ボタンとか見つからないぞ」
『あぁ、その靴に自分の魔力通せば自動で起動する』
「えっ、自分の魔力を…?」
普通の魔導具なら、電池代わりに魔力を溜めておく場所があってその魔力を使う。
つまり、自分の魔力を使うなんてした事がない。そもそも、魔力を感じる事すら出来ない。
その事をジンタに伝える。
『傀儡魔法いうのがあって、俺様のその魔法で、お前の体を遠隔操作したら問題ない。魔法も一時的に使えるようになる。けどな、さっきは無断でそれやってお前に魔法使わせたが、実は本人の許可がいる。…だから、魔法方面のサポートどうするかは―――』
「やるッ」
『…ッ!あぁ、分かった。お前のそういうトコ嫌いやないでッ』
直後。
「あっ…!」
全身に何かの存在を感じた。
―――これが、魔力…!
『そら、起動したぞッ』
「おう!」
確認などお構いなしに、俺はジンタの言葉を信じて、
駆ける、駆ける、空を駆けて行く。
「でッ、この後は!?」
『このままあの美少女と接触するまで上に昇っても、そのまま受け止めようとすんな。タイミング言うから、落下してその状態で受け止めろ』
「確かに、普通にやったんじゃ、俺もだけどあの子へのダメージも相当だもんな。って、待て美少女って何だッ」
『お前が助けようとしとる女子の事や、こっちで画像解析したらすんごい美人さんやったんでな。…あと、どっちにしてもお前への負担は全くない』
「は?」
理解出来ずにいた俺だったが、直後、その言葉の意味を知る事となった。
「んなッ…体に、力が…!」
体の奥で、俺の意思とは無関係に魔力が体中を
それにより、跳躍力も一気に跳ね上がり、上へ昇る速度が増した。
『身体強化魔法。これで大分強く、んで丈夫になった』
「なるほどな、そりゃ良いッ」
更に速度を上げ、俺は少女の元へ昇って行く。
足元の景色を一瞥し、自分と地上との距離を計る。
目測での計算だが、この調子だと、少女との接触は上空1000~800メートルの地点に到達する頃になるだろう。
十分過ぎる高さだが、裏を返せばあの金髪少女はそれ以上の遥か上空から落ちて来た事になる。
一体何があったんだ?
そんな風に疑問を感じていると、ジンタが俺に話し掛けて来た。
『急げ』
「は?何でだよ、余裕で間に合うだろ?」
『違う。桐島刃お前、魔法使うん慣れとらんやろ。それやのに、いきなり魔力回路に負荷が掛かり過ぎとる』
「つまりは?」
『魔力の放出自体、あんま長く持たん』
「嘘だろオイ…ッ」
悪態を付きながら、昇る速度を限界まで上げる。
あと少しで接触する。だが、ジンタからの合図はまだない。
「おいッ、ジン―――」
『今やッ、落ちろ!』
合図に反応した俺は、
一瞬の浮遊感の後、俺の体が落下を始めた。
ここからが本番だ。受け止める時来る衝撃が、可能な限り少女に行かないよう細心の注意を払う必要がある。
全神経を集中させる。
そして。
「今だッ!」
金髪少女の体を俺は受け止めた。
恐らくダメージはかなり軽減出来たはずだ。
よく見ると、少女は気絶していた。
俺の予想通り、見た目の上では外傷はなかった。
「よし…ッ」
良かった、そう安堵し始めた時だった。
『―――ダメ、上から来てるよ』
「は?」
聞き覚えのある…そう、クリスタルモンスターに襲われたあの日聞こえた声。今朝、夢の中で聞いた声。
その声が、また俺の耳元で囁いた。そこにはやはり、誰もいないはずなのに。
しかし、そんな異常は今限定でどうでも良かったのだ。
「…嘘、だろ……ッ!?」
声に反応し、真上を見た俺の瞳には、鳥の姿を模したクリスタルモンスターが映っていた。
幸いだったのは、あの怪物を最初に視認出来た事。
最悪だったのは、あの化物が既に俺達へ狙いを定めていた事。
酷く暴れ始めた心臓の鼓動。
呼吸は無意識に浅く速くなる。
そして。
クリスタルモンスターが真下へ降下した。
「……ッ!」
気付いた時には、クリスタルモンスターの巨躯は眼前に。
間に合わない回避。
少女を庇おうと、咄嗟に捻った体。
次の瞬間、奴と俺達とが交差する。
「ぅぐッ―――がァッ……!」
クリスタルモンスターの左翼に背中を派手に切られ、激痛が俺を襲った。
痛い、痛い、痛い……ッ。あまりに痛過ぎた。
「―――――――ッ!」
咆哮を上げながら、来た道を引き返すように高速で上昇してくるクリスタルモンスター。
奥歯を噛み締め、痛みを押し殺す。
刀を抜き、奴の翼による攻撃をいなす。
無理をした。その所為か、体が落下を始めたと同時、急速に意識が遠ざかっていく。
しかし、危機は去ってくれないどころか、更に差し迫って来る。
意識が眠りの海へ沈みゆく中、見失ったクリスタルモンスターを探し後ろを振り向いた。
「…な、に……ッ!」
そこには、真正面から俺へ、高速で突っ込んで来る奴の姿があった。
―――冗、談…だろ?こんな、こんな呆気なく終わるのかよ…ッ。
想いだけが先走っていた。
体はまるで付いて来ていなかった。
万事休す、そんな言葉が脳裏を過った瞬間だった。
自身の瞳に―――
そして、微かにこう聞こえたのだ。
「…たす、けて……ッ」
「―――ッ!」
直後、俺の体から、
敵は怪物?
体が動かない?
そんな些細な問題、今はどうでもいい。
―――あぁ…イラ、つく…ッ。
あの化物によるこの理不尽な状況が、
加えて、あろうことか。
―――まだ、理不尽を重ねる気かオマエ…?
魔力の放出は加速する。
構える刀。刀身へ集う魔力。
その紫色の輝きは増してゆく。
少女の言葉は寝言だったのかもしれない。
涙も、今この状況とは関係ないだろう。
だが、それがどうした。
これは言ってしまえば単なる
偶然出会った少女を、偶然にも助けたいと思ってしまった。
それ故に。
その為に。
俺はこの刃を振るう事を
「―――失せろ」
その瞬間、全てを薙ぎ払う様に、俺は刀を横に振るった。
同時、刀身が纏う圧縮された魔力を、一瞬にしてクリスタルモンスターへ放ち―――消し飛ばした。
危機が去り、刀を鞘へ戻そうとする。
しかし、突如として酷い倦怠感と共に力が抜け、柄が俺の右手から離れた。
意識の
「…まず、いッ……」
途中、俺は気絶した所為で後の事は覚えていない。
つまり、ここから先に起きた事はジンタから聞いた話だ。
「集束せよ、水魔法・
あと少しで地面と衝突しかけた俺達は、巨大で柔らかい水の玉に沈み込み死を回避した。
そう、紙一重のタイミングでこちらに駆け付けたレインの魔法によって、俺達は九死に一生を得たのだった。
もっとも、ジンタの説明は大雑把で。
「こちらレイン。クリスタルモンスターの討伐完了」
『こちら夢見です。途中、
「肯定。
『了解です。…しかし、今回はまた随分と仕事が早いですね。試験があったにも関わらず、しかも2体撃破なんて……』
「?いや俺は―――」
『まぁ、それはそれとしてレイン。受験者である桐島君の合否判定は貴方に任せますので、こちらに帰ってきましたら私に報告を。では』
夢見さんとの通話内容と通話終了後の詳細。
「……2体目を倒したのはお前だった…」
そして、レインが俺を見つめ呟いた事もだが。
「しかも、さっき見たあの大量の魔力…。桐島刃、お前は一体……」
俺が知る事はなかった。
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