第7話天より来たる少女
「…なるほど、分かんねぇッ」
特殊攻撃魔導部隊本部・客室にて、俺は頭を抱えながら一つの結論を導き出した。
「ったく…アカン、ホンマアカンわこの人間…。何でこの説明が分からん!?」
とは、容姿も振る舞いも恐ろしく人間らしい戦闘用
このジンタ、自立型人工知能なんてモノのお陰で、とんでもない情報量と情報処理能力を保有しているらしい。
その為、俺は以前から聞きたかった『魔法の仕組み』についてジンタに質問したのだ。
で、返って来た答えが…。
「んじゃ、もっかい説明したる…。ええか?魔法ってのは、まず魔力ソースから魔力引っ張り出しながら魔力回路を
「分かるかぁッ!分かって
「何ッでやねん!頭ん中バグっとんかお前!?」
「…バグってんのは、どう見てもお前の説明力だろうがッ……」
なんて言いながら、俺は拳を握って怒りを抑える。
何が分からないかはハッキリ分かっているのだ。
魔力ソース、魔力回路に魔法的仮想
説明の中に専門用語が混じっている所為で、理解が追い付かないのだ。
そもそも、内容自体が長くて情報が処理仕切れない。おまけに妙に早口と来た。せめて何かに文字を起こしてくれないと話にならない。
「
俺とジンタの口論に割って入って来たのは、どこか聞き覚えのある声だった。
「…お前はッ……!?」
澄んだ青い髪と瞳、男なのか女なのか判断が付かないような中性的な顔。
そう、聞き覚えているどころか、激しく見覚えがあった。
名前は確か…。
「―――レイン・バレット…」
俺の呟きに一瞬こちらを見たレインだったが、そんな事はお構いなしとジンタに尋ねられた。
「ほう?どういう意味や、俺様の説明のどこに不備があんのか聞いたろうやないの」
「もっと簡単でいい。魔法は魔力とイメージの合成物。だから、自分が思い描いたイメージを詠唱という言葉の力で補強する。術式、つまり魔法陣も、魔法の補助という意味で行われる」
「はんッ、そんな色々
「あぁ、なるほど。やっと理解出来た」
「あるぇぇぇぇぇぇぇえッ!?」
全身を使って驚愕を表現するジンタを置き去りに、俺は魔法への理解の第一歩を踏み出せた喜びに軽く打ち震えていた。
「あら、レイン。来ていたんですね」
後方から聞こえた声に反応すると、そこには夢見さんがいた。
「呼ばれた。試験が、どうとかで」
「?あぁ、試験官はレインに任命されたんですね。では、これを」
そう言うと、夢見さんはタブレットをレインに渡した。
「試験内容と評価基準ですから、よく読んでおいてください」
「…了解」
タブレットを数秒見た後、それを夢見さんへ返したレインは俺の方に近付き―――。
「は、はい…?」
「来い」
襟首をレインに掴まれ、そのまま俺は引き
「え、ちょ、まッ、俺まだ何の説明も受けてないんですけど!」
なんて叫べば、返って来たのは『話は後』というレインのぶっきらぼうな声一つ。
「んで、あのヒョロガキに入隊試験受けさせんのか?惑華の嬢ちゃんよぉ」
「…えぇ、そうですよジンタ。女の子じゃなくて残念でしたか?でも彼は」
「知っとる知っとる、昔特殊攻撃魔導部隊の隊員で、最強とか言われとった桐島剣真の孫やろ」
「はい。既に除隊したとはいえ、先日の事件でこちらの不手際により逃がしたクリスタルモンスター、それの討伐に協力要請が入ったくらいですから」
「でも負けとったやん…」
「…普通、クリスタルモンスターを1人で倒すなんて出来ません、寧ろ死にます。接近戦なら尚更ですよ、だから、普通はしない。もしいたとして、それは圧倒的な実力の持ち主か、命知らず、もしくは相当の馬鹿です。…知っていますかジンタ、報告書によれば桐島君は祖父を守ろうと、あの日クリスタルモンスターに向かって行ったんです」
「ほ~ん、命知らずに加えて相当な馬鹿やな」
「かも、しれません…。でも、そっちの方がピッタリじゃないですか―――今のレインの相棒には…」
俺達がいなくなった後、そんな会話があった事を俺は知らなかった。
◆◇◆◇◆
【時刻・西暦2127年4月7日午前11時14分。場所・東京都千代田第一区、駅付近】
レインに連れて来られたのは一時間ほど前にいた駅に近い場所だった。
「ま、マジか…爺ちゃんが…いや、あり得るか……」
爺ちゃんの過去について、携帯を通して夢見さんから聞かされた俺は妙な納得感を覚えていた。
それで、今から何が行われるのかも知った。
どうやら、俺は特魔部隊の入隊試験を受ける事になったらしい。
当然、時期がとっくに過ぎているにも関わらず、無理矢理に試験を行わせたのはうちの祖父である。
…そして何故俺達が今駅にいるのかと言うと。
「まさか、クリスタルモンスターの出現が試験開始の合図だなんて…。はぁ、試験内容を確認したくない」
「―――了解。桐島刃、試験開始だ」
「おい、嘘だろ!?もうかよッ。…で、え、えっと、もしかして俺にあの化け物を倒せとか…」
「言わない。お前には、一般人の避難誘導を任せる」
「あ、あぁ…分かった」
随分おかしな試験だ。
いや、クリスタルモンスターに突っ込んで行け、なんてイカれた物よりはマシなのだが…それでもやはり変であるのは確かだろう。
…なんて思っていた時期が俺にもありました、はい。
「だぁぁぁぁあッ、ざっけんなぁぁあ!!こんなの無理だってんだよッ!」
歩道を全速力で走りながら、俺は愚痴を盛大に発した。
試験が始まった瞬間、レインは
当然、俺はレインを見失い、アイツが去って行った方向へと我武者羅に走っている途中だった。
おまけに、特魔部隊が携帯許可と共に用意してくれた刀を腰に指している所為で走りづらい。
「大体、何だって空なんか走れんだよッ」
『そら、
「ウィング…って、ジンタ!?」
『右腕に嵌めとる腕輪―――
と、ジンタに言われるが、知らない。
『どっちも魔導具で、今履いてる
「って事は、この靴を使えば俺もスピードアップが」
『あぁ、それは魔力の身体能力強化でやってるから無理無理』
「つっかえねぇ…」
俺は肩を落とした。
確かに、冷静に考えてみれば、靴に足を速くする機能が付いているとは言われていない。
「で、何の用だよ。今激しく忙しい俺にぃっ」
『あぁ、そうそう、それやそれ。ちょっと人工衛星に変なモン映っててなぁ…。桐島刃、丁度今お前のいる場所の近くや。上空に何かないか?』
「…いや、んなこと言われても」
立ち止まって、上を見てみるも何も確認できなかった。
しかし。
「ん?なん…だ?」
不意に、微かだが、何かが遥か上空から落下して来ているのが見えた。
『仕方ない、補助したる』
「へ?」
ジンタの言葉の意味がよく分からなかった。
しかし、どうやら『補助』というのは魔法の事らしく、突如として望遠鏡を使っているかのように遠くの景色がハッキリと見えるようになった。
そして同時に、落下しているのが何かも判明した。
―――俺の瞳に映っていたのは、金髪の少女だった。
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