二日目:第4話
一回目と同じように、まずは一隊の攻撃から始まる。
ボスの動きもある程度予測でき、想像以上に攻撃が決まる。「これはいける!」そう思ったとき、少し後ろにいた「C」がボソッと言った。
「おかしい…減り方が違う。」
怪訝そうに「C」が言ったが、何のことを言っているのか気が付かなかった。
そうして1隊の攻撃から2隊の攻撃に移った。
「ちょっと集まってくれ。」
「C」が1隊のメンバーを集め続けて言った。
「ボスのHPの減り方が違う。一回目よりHPが多くなっているのか固くなっているのか…。」
「ダメージのログを見たが、与ダメも被ダメも前回と同じだぜ?気にしすぎじゃない?」
「G」が食って掛かるように言う。
「もしかしたら2回目という事でHPが増えているのかもしれない。相対する感じ動きに違いは無い。HPが増えただけなら何も問題は無いだろう。このまま様子を見よう。もし、違う事が起ったらすぐに情報の整理を。」
「F」が気を引き締めるように言った。
「C」の表情は相変わらず硬く、何かを考えているのが分かった。
次の1隊の攻撃になるまでに、2度全体攻撃があった。4隊と7隊の時だった。二連続というわけではなかったので、隊の入れ替えで問題なく対処できた。
気をつけるべくは全体攻撃だけ。それだけは注意を怠ってはいけない。後はしっかり攻撃を繰り返すだけだった。
2回目の1隊攻撃が終わった時、「C」が傍に来て小さな声で言った。
「Bさんの与ダメが相当響いている。」
2回目の攻撃が終わった時のボスのHPの差はより顕著だった。この時にはすでに俺も『何かが違う』と感じていた。
明らかに違った。あの時の半分。いや、それ以下かもしれない。「C」の表情は曇っていた。「D」も近づいてきた。真っ青な顔をして。
武器も変わったし人数も増えた。経験も積んで勝つことは盤石だった。
だったはずだが、結果は全然違った形になっていた。
戦いが長引けば戦いの為の物資が減る。
それでも戦いは終わることなく続く。我々一隊も3度4度と攻撃を繰り返した。
減ってはいる。減ってはいるが終わる気配がなかった。18時に始まった戦いだったが、すでに2時間を経過していた。ボスのHPも半分を削ることはできた。
しかし、疲労は相当のものだった。1隊から9隊あるといったが、すべての隊が同じ時間戦えるわけもなかった。どうしても精鋭の1隊は戦う時間が長かった。数字が若い隊の疲労は多くなる。前回とった奇数隊、偶数隊も今では難しくなってしまった。
このころになると、以前と違う違和感に周りのプレイヤーも気づき始めた。
「敵強くなったよな…?大丈夫か?勝てるのかこれ…」
それは二隊、三隊と経験を積んだ隊からだった。
楽勝ムードが漂っていた分士気が下がり始めると一気に戦局は悪化する。
「Fさん!この戦い一旦退却しよう。どうしても分が悪い。」
「…。」
「F」は黙って聞いていた。黙っているというよりは答えに困っているという感じだった。
「Cさん!隊ごとの攻撃だけど俺は常に張り付くことにする。やばい時のヒールだけお願い!」
そういって俺は敵に向かう。
覚悟を決めて行動に移った。このままじり貧で負けるのは嫌だった。この負けでクランが揺らぐことが嫌だった。この時一緒についてきたプレイヤーがいた。「D」と「E」だった。二人とも何も語らず攻撃に移った。
後に「俺は遠距離攻撃だから」と照れてはいたが、消費は激しく集中力も前衛とはくらべものにはならない。寡黙な「E」だが彼も強プレイヤーとして困難に挑むのは生き甲斐だったのだろう。
「団長!全体の士気を下げないようお願いします!」
戦いながらもこれだけは伝えた。気持ちは負けてはいけない。
普段の生活では味わえない勝ちへの貪欲さ、無謀な挑戦。元来ゲームにはそのような挑戦があった。このゲームの世界でもこれほどまでに刺激的な場面に出会えるのだ。
隊など関係なく動けるものは長時間戦い、休憩は各自とっていた。指揮など関係がなくなっていた。こうなるとヒーラーにはとてつもなく負担がかかる。だが、作戦はこれしかないのだ。早く終わらせるために。戦いが長引けば長引くほど危機も増える。前回脅威だった連続の範囲攻撃もすでに数回放たれている。ただし、前回よりも防御に徹するプレイヤーも多くまだ誰も倒れていない。ヒーラーについて、「C」が指示を出しながら頑張ってくれたことが特に大きかったようだ。
張り付いてから更に2時間たったころ、終わりを告げた。何とか倒すことができた。その場に倒れこむように座る。汗だくで倦怠感を感じた。ゲームの中なのだが、ここまで再現しなくても良いのに。
「とにかく勝てて良かった。クランの戦いで最初からコケるわけにはいかなかった。」
「F」が幹部のみのメッセージに送った。
「それでも、一歩間違えれば大敗を喫するところでした。もう少し慎重に行きましょう。それでも、前線で粘ってくれた3人はとにかくありがとう。」
諫める様に「C」が言った。
「HPが倍くらい多くなっていたってのは本当か?確かに前回よりも時間もかかった。今後さらに厳しくなるという事か?」
「H」が言った。
「そうだといいんですけどね…」
「C」が言ったのが聞こえた。
ボスを倒すことで経験値も入るし、新たに素材も手に入る。確実に強くなる。
もし、繰り返すことにHPが高くなっているのなら次回の挑戦はさらにきつくなる。逆に、『彼』の強さに頼っていたのなら今回よりも楽になるはず。
「どちらにしろ次の一回ですべてが分かります。ボスが強くなっているようなら途中で引くことにしましょう。」
これにはさすがに「F」も同意せざるを得なかったようだ。
「明日の挑戦時にはクランのレベルを上げる事が出来るだろうか?」
「クラン専用のクエストがどのようなものになるかはわかりません。建築資金はまだまだ足りませんし。」
「そういえば、わかいねーちゃんが開いている店は素材の買取りをしているようだ。今回の討伐で余った素材を売って足しにしよう。」
「F」が言ったのはきっとトキの事だろうか。
同時にクランメンバーへ指示が出されていた。
解散宣言が出され、部屋には数人が残る程度になった。
ある者は第2ステージを見に行き、ある者は町に帰っていった。
残って持ち物の整理をしていると、「C」が話しかけてきた。
「さっきの話だけど、ボスが強くなっているなら問題ないんだ。我々も同じように強くなっていけばよいし、一旦1ステージをあきらめて先に進めればよい。だが、『彼』の強さとなると話は変わってくる。EやAさんが束になっても敵わない人物。このまま野に放たれているのは危険だ。彼がクランを立ち上げようものならその強さに引き付けられて我々を凌ぐクランを作ってくるだろう。僕たちがゲームの攻略の先陣を切るためには彼の動向を見守る必要がある。」
「C」の言うことは確かにそうだ思った。
「知り合いにあたってみます。彼とパーティを組んだものだったり、知り合いを探してみましょう。もし可能ならクランに入ってもらいたいですし。」
「それはないだろう。入るなら最初の時に入っているだろうし。何を考えているのかそれだけでも知りたい。」
お互いに情報を探すことにした。クランの中で「B」の存在を脅威と思っているのは
自分とこの場にいた「C」、「D」、「E」位だ。大きな存在になる前にどうにかしようという事になり、「C」たちと別れた。
「あんまりいない人のことを考えてもしょうがないよ。今は目の前になる問題をどうにかしないと。」
「D」に言われて気づいた。そうだ、今はクエストを進めないといけない。
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