二日目:第1話

ログイン完了。

普段のようにアイコンをいじる。情報ツリーからフレンド枠を見ると、友だちになった人は全てログイン中や準備中のマークが点灯していた。

ゲーム内で二週間過ごしたところで飽きたプレイヤーはほぼ皆無に等しいようだ。今日の昼間には掲示板にスレが立っていて相当盛り上がっていた。あいにく、1ステージクリアの件はそれだけ書かれていて、内容が書かれていることは無かった。更に新しく始める人が増えそうだ。

俺がログインしたことを確認したのだろうか、一通のメッセージが来た。メッセージには1時間後に広場集合と書かれていた。中途半端な時間が生まれてた。この世界は2週間ごとにログインという事で、解りやすく夜中の12時から始まっている。サーバーが開かれてすぐプレイヤーが活発に活動するとサーバーに負荷がかかるからだろうか。「D」と打ち合わせて装備を整えることにした。

商店街に入るといくつかの店で20人規模の行列ができていた。行列だけでなく、野次馬なども大勢いる。列に並んでいるのは知った顔ばかりだ。どうやら昨日ボス攻略に参加したメンバーが新たな素材を持ち、武器や防具を新調しようと列を作っているらしい。いくつかの店というのは、新しい加工スキルを持った店なのだろう。このあたりの情報はすごく早いようだ。我々のなじみの店である「トキ」の店も列が作られていた。まだ本人はいないようで、加工自体は開始されていない。

本人がいない時は、NPCが代わりに店を切り盛りするようで、販売だけは出来る仕様になっているらしい。買い物客だけが店を出入りしている状況だ。

「これは加工も補給もまだ出来そうにないね。どうする?」

「とりあえず空いてる店で補給と修理だけして集合場所に行こうか。」

という事で、雑務をこなし、目的地へ歩を進めた。

「Dは新しいクラン。どう思う?」

「D」は少し考えてしゃべり始めた。

「最初はすごく盛り上がるだろう。初めてのクランだし、攻略したメンバーがほとんど在籍することになった。今はまだ強さの差が少なく強い方もさほど人数がいないから統制は問題ないと思う。これが慣れてきたころどうなるかだよね。気づいたと思うけどほのかに派閥はあるみたいだし、誰かが間を取り持たないと分裂も起こりうるかなって心配はある。」

考えの違いは「D」も俺と同じ意見を持っていたようだ。

「それでも今は目的一つに攻略チームとして有意義なチームになるんじゃないかなって思うよ。」

これからのクラン生活を二人で想像しながら歩いていると目的地に着いた。すでにほかのメンバーはそろっていて残りは「F」と「G」だけという所だった。


「AさんDさんこんばん。」

「Hさんこんばんは!」

「こんばんは、40週間ぶり!」

「C」は冗談を交えてあいさつをしてくれた。事の外明るい様子だった。

軽く挨拶だけ済ませて「D」と今日の予定をを話した。

「いよいよ第二ステージに行くことになるけど、とりあえあずペアで行こうか。他に一緒に行ける人がいるなら誘ってみる?」

「いや!ペアでどこまでいけるか試してみよう!」

出来る限り人数に任せる事無く鍛錬をしたかったので、なるべく少人数で行動したい旨を「D」に伝えた。

「まずはクエストを回ろう。あの情報屋さんもログインしているようだし、手紙だけ送っておく。」

「第二ステージ開いたばかりだけどもう情報あるのか?もしかしたら運営側の人間なのかね?」

「じつはすでにクリアしてたりして・・・?」

「それは無いでしょう。あれだけ強い敵、攻略するならもっと大々的にメンバー集めるはず。」

「D」が言うと、昨日の戦いが思い出されてきた。現実時間で一日たった今、冷静に振り返ることができた。

「あの戦い、実はBさんがいなかったら攻略できていなかったかもしれないね。」

「Aは命助けられたからね。あの人はクランのメンバーに必要だったかもしれない。」

戦いを思い出していると、「F」「G」がそろって登場した。「F」が来たという事で、この場の空気は若干引き締まった気がした。

「じゃあ第一回クラン会議を始めよう!まずは…クラン名?」

クスクス笑い声が聞こえ、誰かは突っ込みを入れていた。

「クラン名よりもクランの方針だったり細かいことを・・・。」

「H」には冗談が通じなかったようだ。

「活動を縛ることはしない。ボス攻略は毎日時間を決めて行う。参加人数に関わらずボス攻略には精鋭を揃えたいのでここにいるメンバーは是非ボス攻略参加をお願いしたい。クランを組むことでフルパーティを組む機会も増えるであろう。レアボス攻略等も今後行われていくと思う。問題が起こった時は評議会を開き、その都度ルールを決めていこう。」

人が集まる集団が出来たてでルールを決めることも実際に起こった事象から決めていくことになった。


「次に人事だが…正直私は大将を務める器量ではないと思っている。やりたい者がいればその人にやってもらうのが一番かと思うのだが・・・?」

思いもよらない言葉が「F」から出た。

クランの長は「F」がやるものだと思っていたが、その「F」はその役割を回避しようとしていた。これには他のメンバーもびっくりしたようで、懐疑的な目を向けていた。

「私はAさんに任せたいと思っているのだがどうだろうか?」

なんと急に団長という立ち位置を振られた。想像もしていない事が起き、あたふたしていた。

「彼は今こうやってクランを立ち上げる前から何人ものプレイヤーのクエストの手伝いをしていた。中々できる事ではない。強さも充分。前回のボス攻略は彼の力が大きかった。」


「手伝っていたのならDも一緒です。強さもEさんの方が上回っているじゃないですか。」

「却下。」

「D」は吐き捨てた。

「強さの本質で言ったらCさんでは?こいつの戦局を見る目はこの強さを上回っていますよ。」

「E」は冷静に言った。

「クラン全体の強さを考えたらHさんが適任かと思います。ここにいるメンバーだけならまだしもここに居ないメンバーの事も考えられる目を持っているのは彼だけです。」

「C」は何か楽しそうに言ってのけた。

「私は以前クランの話をした時に、Fさん!あなただから参加を決めたのです。今更投げるなど許しませんぞ。…って堂々巡りやないかい…。」

「あ、じゃあ僕やります。」

「それはない!。」

数人が声を揃えて「G」の発言を却下した。

「Fさんが招集しなければこれだけのメンバーは集まりませんでしたよ。立ち上げ時だけでもFさんがやるべきではないでしょうか。」

「C」の一言で決着がついた。

結局はなるようになった。なるべき人がなった形だった。


「今の有意義な話し合いで大体の役割も決まったね。Aさんには私の補佐として副団長になってもらいたい。相談役だけでなく、実行部隊として頭になってもらいたい。Cさんは参謀を。これからの進め方やボス攻略時の指揮をお願いしたい。Dさんはクランの格を大きくするための財務関連をお願いしたい。Eさんは戦闘部門の最高責任者として、マップの開拓や戦闘の指示をお願いしたい。Hさんには人事部門をお願いする。各々の部門で問題が生じたときは、ここに居るメンバーで合議。」

「あの・・・僕は?」

「私の護衛隊長…親衛隊だ!」

くすくすと笑いがこぼれている中で、喜ぶ「G」の姿があった。


Gの役職が決まり、クランの全貌が決まった。

団長…「F」

副団長…「A」

作戦幕僚長…「C」

兵站幕僚長…「D」

戦闘隊長…「E」

人事幕僚長…「H」

親衛隊…「G」


「最後にクラン名なのだが、『ケントゥリア』で行く!まぁクラン名は変えることも出来るし不満が出れば変えましょう。」


ついにクランが始動した。前もってクランを作るという事を口外していたので、あっという間にギルドメンバーは100人になった。どうやらクランの規模を大きくしなければ人数を増やすことは出来ないのでここからは「D」の仕事も大きくなるようだ。

副団長として具体的な仕事は無かったが名前負けだけはしないよう心に決め会議場を離れていった。



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