第XIII話

広場はクリアに成功したメンバーだけでなく、他のメンバーも集まっていた。このパーティは1ステージクリアという名目だけでなく、初日のログイン終了を祝う席にもなっていた。

クリアしたメンバーはクリアしたメンバーで報酬の素材を確認している。この点はRPGおなじみでドロップしたものの優劣を確かめ合っているようだった。

その素材だが、ノーマルから始まり、レア、スーパーレア、エピック、シークレットとなるようだ。全員がスーパーレアを手に入れることができ、エピック、シークレットとなるとわずかしか手に入らない仕様となっていた。この2週間で素材を加工するプレイヤーの商店がいくつも現れたが、ボスの素材を加工できる店はいくつかだけであった。

「明日のログインは加工からだ、商店系のプレイヤーは忙しくなるぞ!覚悟しとけ!」

笑い声が聞こえてきた。

その中で、「C」と「F」はこの戦いで死なせてしまったプレイヤーに謝罪をして回っていた。6人のうち4人はあの範囲攻撃の二連発中に、クリティカルが起こったのか、多段ヒットしたのか分からないが大きなダメージを受けてしまったようだ。6人とも死んでしまった事よりもクリアしたことの方がうれしかったようで、事の外気にはしていなかった。

パーティの話の中心は戦いでの話になっていた。

「1隊の強さは本当にすごかった。MVPを決めるならこの中からですよ!」

どこからかその様な声が聞こえてきた。

「なんといってもCさんでしょ!1隊のHPが極端に減るなんて事めったになかった!Aさんが不慮の事故で一度くらいだったし!」

「そんなことないです。僕はそこまでボスに接近してなかったので、比較的余裕がある立場でしたし。それよりもあそこまで戦ってくれたAさんを始め戦闘職の方々ですよ。」

「A」はピンチを思い出したようで顔を赤らめていた。

「Aさんは誰よりも敵の近くで攻撃をしていたんだ!ダメージスコアは一位じゃないか?」

「隊長も指示だし大変だったろうに。全体を把握しなきゃ指示なんてだせやしないさ!」

「F」は何かを考えながらも数度頷いていた。

それからも話は盛り上がった。戦いの辛さを忘れ、勝ったことへの安堵感が漂っていた。その間1隊のメンバーだったものはメンバーのみで話を進めていた。

結局パーティはログイン時間終了一時間前まで続いた。

ログイン時間も残り少なくなってきたとき、「F」が突然話始めた。

「今日のボスの戦いだが、正直大変だった。今まで我々は各々がクランを立ち上げ、自分達の力のみでクリアすることを目標としてきたが、今日の戦いでそれが無理なことが分かった。よってここにいるメンバーのほとんどが加入するクランを設立したい。まだ始まったばかりで、この先どうなるか分からないが、まずは協力して攻略できるクランを作ろうと思う。当然ボス攻略にはメンバー総出で手伝い、クランの強化に尽くす。ここにいるCさんやHさんも賛同してくれた。是非一緒に戦おう。あいにくこのゲームはクランメンバーの上限がない!是非皆さんの力を貸してくれ。」

この発言に大きな歓声が沸き上がった。

「詳しくは明日、ログインが済んだらこの町でクランの申請をする。改めて参加をよろしくお願いいたします!」

そういってパーティは終了となった。


パーティが終わった後、俺はクラン創設の一員としての会議に出席した。主催はもちろん「F」。参加者は1隊メンバーだが、「B」の姿は無かった。

「1隊のメンバーには是非参加してもらいたかったがBさんは不参加になるとか。まぁここにいるメンバーでやっていければ問題は無いか。」

「F」はあまり「B」に対して執着していないようだった。

「Bさんの不参加はでかいですよ。彼の戦闘能力は随一でした。」

逆に、「C」はショックを隠しきれていない様子だった。仲間内でも見方が変わると評価も変わってくるという事なのだろうか。

「Cさんの推薦でしたね。あてが外れた感じですか?」

普段あまりしゃべらない「H」が言った。「H」は更に続けた。

「大規模クランは賛成します。ですが、末端のメンバーまで配慮の行き届く運営を願いたい。」

この人はいつも言うことが一緒だ。平等だの配慮だのゲームで差がつくことに疑問を持っているのだろうか。

「そうですね。知恵を出し合っていこう。」

「F」が軽くあしらった感じだった。大雑把というか豪快というか。そういうおおらかな所が魅力なのだろうか。

「クラン構成だが、ここにいるメンバーにはクランの統制を保つ役職についてもらいたい。その辺の話し合いは明日のログイン後にしよう。」

話の流れでは「F」がリーダーになることは間違いない。他のメンバー、そして俺がどのような役職になるのだろうかなんにせよトップのクランで幹部として活動できることは嬉しかった。「B」が参加しなかったことによって、発言力というものが明らかになった。大きく分けて派閥は「F」「C」「H」になる。俺は「F」に誘われた立場なので、どちらかというと「F派」だろうか、「F」からは期待を寄せられている感じがする。。「D」はこんな時は誰にも同調しない。だが、考え方は「H」寄りな時を感じることがある。「E」は言わずもがな「C」の戦友だ。「G」はもともと「F」と親交があるらしい。3対2対2の構図だ。別にいがみ合ってるわけではない。心配はないが気になるところだった。上手くいくよう仲を取り持つ立場だな、と心に誓いながらログアウトをした。


会議には参加しなかった。明日の為に3ステージのフィールドで寝転がり、星を眺めていた。無駄な時間を過ごしてしまい、予定通りの活動が出来なかったことが妙な脱力感を生んでいた。

仲間たちは、ログイン終了時間が近づくごとにどんどんログアウトをしていった。その都度皆挨拶をしていた。返事を返す気は起らなかったが、この仲間たちは普段通りで何となく心が落ち着いた。

「ボスの戦いはどうだったの?」

全員がログアウトしたかと思ったら一人残っていた。それは厳しく生真面目な・・・。

「明日報告します。」

「電池切れですか・・・?今日が土曜日で良かったわね。」

妙に優しい一楓は「戦士、一楓」ではなかった。

「私が言える立場ではないけど、そこまで焦らなくても良いのよ。今でも充分やってくれているじゃない。」

「そう言ってもらえると助かります。楓さんこそ電池切れですか?」

「今だけよw最後の数分くらい気が抜けたって良いじゃない?ほかの皆もログアウトしたのだから。気を抜いたって誰も見ていないわ。」

「w」と草をはやす彼女は珍しい。

「私も落ちるね。また明日。」

一楓もログアウトした。

こうしてチャット欄も静かになった。今日の戦いの振り返り…得られる経験値もレイドを組んだことで少なく、素材ももうほとんど必要なかった。戦い時間は長く、精神的に疲れてた。上手くやれたところといえばとどめを刺せた事だろうか。周りに‘ばれずに’だ。どちらにしろ「レイド」というものに参加するのはもうこれっきりだ。そんなことを考えつつログイン終了時間を迎えた——。

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