第Ⅻ話

誰も知らないスキルを使った。だが、助けたことに視点がいき、怪しまれることはなかったようだ。ダウンはたまたまだった。助けた理由も特にはなかったが感謝をされた。

「並大抵の瞬発力じゃないね。死人を出すわけにはいかなかった。本当に助かった。」

なぜか「C」に言われた。

「ヒーラーとしてAさんの補助が間に合わなかった。自分がヒーラーでメンバーを死なせるのはちょっとね…。」

なるほどこの「C」というヒーラーは万智と同じ境地にいるようだった。

「戦闘準備を怠らないほうがいい。2隊の攻撃を見ているとHPを効率良く削っているとは思えない。可能なら今すぐ隊を三つに分けて人数を増やそう。」

「人数を増やすのは良いが、そうすると範囲攻撃時に味方のHP管理が厳しくなるかもしれない。」

「盾を持っている人はなるべく盾を装備しましょう。火力が落ちても人数で押す方が良い。後は回避よりもガードをしてもらう。ダメージは受けても致命傷まではいかないはずです。」

そういうと「C」は頷き、「F」と相談しに行った。戦いの行方が劣勢になっていることに「F」も気づいていたようで、何かしら手を打ちたかったようだ。「C」からの話に、コクリと頷き指示を出した。

「今から攻撃は3隊ごとにする!偶数の隊は攻撃へ!奇数は1隊の回復の為今は待機!盾持ちは絶対盾装備する事!攻撃は無理せずに!…絶対勝とう!!」

各地から歓声が上がり、部隊の士気は十分に上がった。

なるほど指揮官としては有能そうだ。近くにサポートする人がいれば良いチームを組めそうだと思った。今は「C」が全体をみてしっかりとサポートしている。負ける事はなさそうだった。ただ、とても窮屈な戦いだった。


HPも回復し呼吸も整ってきた。今は助けてもらった事よりもこの後どうするかを考えていた。今の俺にはかわせる技量もないし、はじく技術もない。「F」からの指示を聞き、忠実に動くしかない。付け加えて何かできないのか考えてもしょうがなかった。それでも仲間がいて、作戦がある。いつかは自分が指示を出す立場へ、とかすかな希望はあった。

2隊、4隊、6隊の戦いはギリギリの戦いだった。なんとか踏ん張ってはいるがジリ貧だった。それでも作戦は功を奏し、徐々にボスのHPは削られていく。範囲攻撃もあったが、守りに重点をおき、なんとか耐えていた。今すぐにでも交代が出来る。交代の指示を今か今かと待っていた。


奇数隊と偶数隊の攻撃を3回、4回と回していった。その間、危機はあれどメンバーのHPが0になることは無かった。危ないタイミングを見て入れ替わり、規律良く戦っている。交代の合図は「C」が判断していた。この交代のタイミングは本当に的確であった。全員が認める戦術眼を持っていた。奇数隊の攻撃が6回目になったとき、ボスのHPバーが赤くなった。HPの残量で色が変わる。残り何パーセントかはまだ分からないが、それでも残りHPは減っていった。

「回復することは無いだろうが、気を引き締めて!瀕死から今までにない強攻撃が来るのはRPGのセオリーだ!」

「F」の掛け声に周りが呼応する。出来ることならこの奇数隊の攻撃で終わらせたい。全員がそう思ったであろう。

言われた通り、範囲攻撃が増えた。今まで何発もやられていたおかげか、ほとんどのメンバーが攻撃を予測することが出来てきたようだ。避ける、はじくは別としても瀕死ダメージを受ける事は無くなってきた。


残りのHPが1割を切る。残りの1割を早く削りたい。皆がそう思っただろう、誰よりもこのチームの脳に当たる人物が強く思ったに違いない。

「偶数隊も攻撃へ!最終場面だ全員攻撃‼」

「F」から指示が飛ぶ。

「—――――!!」

「C」の声は全体の雄叫びでかき消された。文字通り最後の力を振り絞る。最後の力は攻撃する事へ全振りしていた。盾の装備を解除することは無かったが、意識はほとんど剣に向けられていた。

その時、ボスの動きが止まった。瀕死判定だろうか、ボスにも疲れがたまっているのであろう周りをキョロキョロして人の群れの勢いに辟易しているのだろう。「F」や周りの人も同じように感じたようだ。

「集中攻撃!一気に倒すぞ!」

最後の一押しだ。


残りのHPが1割を切る。多数のパーティでは勝手が違った。自分以外が作る隙。正直迷惑に感じた。それでも何人かはスキルのある人物がいた。将来敵になりそうな人が何人かいた。などと戦いには不満を、関係ない事では不安を頭に浮かべていると、指示がきこえてきた。

「偶数隊も攻撃へ!最終場面だ全員攻撃‼」

「F」からの指示は今の場面では一番の悪手だと感じた。早く終えたいという気持ちがはやまってしまったのだろう。

「ダメだ!もどれ!!」

隣にいた「C」は大きな声で叫んだ。だが、その声はかき消された。

「不安要素が多すぎる。死に際にどぎつい攻撃をしてきたのはマップのレアボスでもあったのに。」

「C」は責任感があったのであろう遅れても攻撃に移ったメンバーの後に続いた。攻撃が開始され、少し経つとボスの動きが止まった。周りをキョロキョロしている。周りの人数を把握している。囲まれている事に気付いたのだ。

「集中攻撃!一気に倒すぞ!」

その指示で周りが全力攻撃に移ったのが分かった。


チームの意識が前傾姿勢になったその瞬間。ボスは体の姿勢を変えた。今まで何発も食らってきた攻撃だ。

「全体攻撃来るぞ!一旦ガード!」

見てきた攻撃は容易く耐えることが出来た。

「これが最後だ!振り絞れ!」

普通なら隙が出来るタイミングだった。だが、隙ではなく攻撃が飛んできた。

2連続だった。攻撃に転じていたメンバーが次々になぎ倒されていった。さきほどの「A」が受けたダメージと同等以上のHPが削られていった。何人もだ。

「シールドバッシュ!」

最初に突っ込んだのは「C」だった。敵の攻撃をはじくスキルを発動させながら敵のターゲットになりにいった。タイミングが重要なこのスキルをいともたやすく成功させた。次に攻撃に移ったのは「E」だった。二回目の範囲攻撃を頭に入れていたのか、大きく回避し攻撃へ転じた。大きく回避した分ボスへの攻撃は「C」よりも遅れたようだ。二人に遅れ「B」が突っ込んだ。誰が見ても今ここにいる誰よりも精鋭の3人が戦っていた。その姿に周りのプレイヤーは茫然と見ていたが、気づいたものから順次下がり回復に専念していった。敵の攻撃も瀕死となり威力が増しているようだ。3人とも少しずつHPを削られている。


3人の姿を見て焦りよりも助けなければという気持ちが沸き起こった。HPの回復も済んでいなかったが、4人目として突っ込んだ。もう最後は気力の勝負だった。早く終われ、早く終われと祈りながらの攻撃。今までよりも幾分HPが減るのが早いのは我々の気力なのか、瀕死の影響からなのか。「C」の回復も飛んできていて、死への恐怖は一切なかった。そして――。


一人の時よりも楽な事。それはHPの回復だった。ヒーラーのおかげでHP管理はいらなかった。攻撃を今までよりも本気を出した。クリティカルをほぼ100パーセントで発生させていた。ボスのHPが減る速さが早い事にばれるだろうがこれ以上長引かせたら予定が狂ってしまう。そしてやっと終焉を迎えることが出来た。


ボス撃破!

大きなテロップが現れた。最後戦闘に参加していた4人は息を切らせていた。ボスの消滅と共に、全員の目の前に宝箱が現れた。この部屋にいる全員が手に入れられるようだった。

宝箱の中身は素材、そして「情報」なるものが入っていた。

「情報」は全て皆同じだったようだが、素材に関しては若干の差があった。与えたダメージによって中身が変わるわけでもないようだった。

宝箱をあけるとテロップが変わった。

「次のステージに進む権利を与える」

これでやっと次のステージにいけるようだ。

今回の戦闘では6名がHP0になったようだ。それでも復活はこの室内という事で、先に進める権利を手に入れることが出来たようだった。

「とりあえず町に戻ろう。残りのログイン時間、折角だからパーティでもしよう。先に進みたい人もいるだろうが皆付き合え!」

「F」は嬉しそうに叫んだ。1隊に選ばれた面々も疲れよりも嬉しさが爆発しているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る