第Ⅺ話

第一ステージ町中。朝早くからプレイヤーが活動している。50人弱のプレイヤーが売店で買い出しをし、戦いの準備をしている。ある者は予備の武器を準備し、ある者はポーションを買いあさっている。リアルタイムだとまだ初日。数千人がログインしている状況下で、ほとんどのプレイヤーが今この町で起こる事に注目している。

ゲームが始まって初のステージボスへの挑戦。士気を上げるためだと言い、町の中でパーティを編成するようだ。

第1陣「メイン攻撃隊」は、一週間前に会議を行ったメンバーが務める事になった。まさか自分がメインパーティに入れるとは思っておらず、「D」と目を合わせ、手を合わせた。心の中ではこの何倍もガッツポーズをしていた。ここでまた今までの努力を発揮し、トップ集団として活躍したい。

パーティの選定は発起人の「F」。彼が集めたメンバーがメインパーティを飾るかと思いきや、攻略を優先という事でこのメンバーになった。彼のパーティがメインとなると色々反発も起こっただろう、「F」は最初から決めていたらしい。この辺りは「F」の人心掌握能力の高さがうかがえる。

第1陣から第6陣まで総勢48人。数名が荷物持ちとして、中に入るようだが、荷物持ちとして入るだけで戦闘には入らない。戦うのはこの48人だけだ。

町の中からは、

「がんばれー」

「負けるなよー」

と応援してくれる人もたくさんいた。少し恥ずかしい気持ちもあったが、今は戦いが楽しみだった。

決まったパーティの陣容を見てみたが、以前クエストを手伝ってくれた女性プレイヤーの姿は無かった。知り合いなのかと思い、「B」に聞いても、

「分からないですね。自分も初めてあった人です。」

この人はいつでも淡々としている。本当に知らないようだ。

この期待の中、期待だけでなくきっと参加したいという人もいただろう、その人の分まで頑張ろうと努力を誓った。


このAという人は鋭いのか?自分と一楓の関係がばれているのかと内心驚いたが、その後の追及が無かったので大丈夫かと安心した。彼女たちは第3ステージで狩りをしているであろう。鉄の剣という今後の武器をそろえるために。ここ数日で一楓達も3ステージまで来ることができ、自分自身は第4ステージに上がっていた。昨日急に鍵を集めるといわれて予定を崩されたときはイライラとしたが、まぁ仕方ない。仲間の皆も参加してこいとの事だったので渋々了承。その代わりに、鉄の剣を集めてもらっている。この日もそうだ。ボスには参加予定は無かったが、頼られているのだからと背中を押された。個々の心配よりも仲間の心配が大きかった。アンデット系など女子は苦手じゃないのか?と心配していたが杞憂に終わっていた。一楓も千乃も万智も動じる事無く狩りをしているらしい。町の中でパーティが組み終わったが、移動は各々だった。第一陣はパーティメンバーそろって作戦を練りながらの移動だった。

「Bさんは何か作戦ありますか?」

「まだ何が出てくるかもわかりませんし、出てくる敵の背格好で決まるかと思います。初めてなので楽しめればよいかなと思ってます。」

ありきたりなことをいっておいた。

そこからは雑談が始まった。正直この雰囲気には辟易していた。頭の中は4ステージのことでいっぱいだった。


各プレイヤー様々な表情をするんだなと感じた。この移動の時間はここにいるプレイヤーの素顔が垣間見られた気がした。「B」はあまり周りになじまないタイプ。ただ、受け答えはしっかりしている。真面目な人なのかなと想像した。「C」は表舞台には立たないがこのような小集団では勝手に中心になるタイプ。気さくで話が上手なタイプ。戦闘中はすごく頼りになりそうだと感じた。役割もヒーラーのようだ。「D」も「C」と同じようなタイプだ。なぜこのような気さくな好青年が自分と一緒に行動してくれているのか疑問を感じざるを得なかったが、同時にとてもうれしかった。がやがやと話をしながら走っていると目の前に目的地が現れた。目的地が見えたことで、このパーティの雰囲気が一気に変わった。

全員がそろうまでに少し時間があったが、早く戦いたいというもどかしい気持ちを抑えるのに精いっぱいだった。全員が揃ったときにルールの説明が「F」からされた。

「ドロップがどのようになっているかはわからない!だからとりあえずは拾った者の物にする。攻撃は1隊から順次殴っていくが状況によっては2隊同時攻撃も考えられる。その場合は1と6、2と5、3と4がそれぞれフォローしあって攻撃する!とにかく勝って進もう。」


そして、ついにボスのいる部屋へ。

部屋は明るくボスの姿はすぐに視認できる。部屋に入ってからは会話ない。緊張が漂っている。全員が部屋へ入った時点で「F」の合図で戦いが始まった。

「いくぞ!」

この声を起点としてまずは第1隊が敵に近づく。先頭を走ったのは「E」と「A」だ。それに遅れて「D」、「F」、「G」、「H」、「B」。「C」が遅れたのは味方パーティへのバフをかける時間があった。第一隊だけでなく他の隊も追随してくる。


一太刀目が入る。剣には走ってきた助走分の威力が追加されている。すべてをぶつける覚悟で俺と「E」はぶつかった。エフェクトは出た。だが、ノックバックもせずデータに言うのもなんだが、痛そうな演出も全くなかった。「D」は背後に回ろうとしている。俺と「E」の衝突後、遅れて他のメンバーも攻撃をする。ほぼ全員がヒット&アウェーの形を取った。周りに散らばり、「トラ」のでかたを伺っていた。「C」も追いついたところで、敵が動き出した。最初にターゲットされたのは俺だった。爪を出してのひっかき攻撃。猫のあれとは違う。体長10mはあろう「トラの爪」は我々の剣と同等の長さを誇り、より固そうなものだ。その爪が振り下ろされた。だが、いくつもの戦いを経験してきているので、避けるのは容易だ。後ろへジャンプすることで回避をする。狙われていないメンバーたちが各々攻撃しをする。誰が狙われてもしっかりと防御や回避をし、際限なく攻撃を与えている。

「このままならいける。」心の中で勝ちを少しずつイメージすることが出来ていた。


まだまだHPゲージは残っている。周りからはポジティブな掛け声が聞こえてくる。

だが、ソロでやった時よりも減りが遅い。なるべく周りのメンバーと同じような動きをしようとしているが、敵から距離を取るヒット&アウェーというやり方にしっくりこず、手を抜かなくてもクリティカルが出ないなど様々な弊害が起こっていた。

回避をこなす事で「スウェイ」というスキルを覚えていた。これは当たり判定を若干緩和してくれるスキルだ。常時発動で、回避を手伝ってくれる。ただ、隙が出来てしまうので、酷使は出来ないがパーティ戦では有用だった。今のところ連続して自分に攻撃が来るわけではなかった。戦いを見ていると、「A」や「E」は良い動きをしている。戦いに慣れている印象だ。「E」は一度剣を交えているので分かってはいたが、「A」も相当訓練を積んできたことが分かった。といっても覚えているのは一週間前の出来事。それでもまだこのパーティでクリアできるかは一抹の不安を感じていた。その不安が的中してしまった。右足パンチから、身体をひねって尻尾を振り回す多段攻撃が来た。何度も見た攻撃だがこのパーティは違う。ボスからくる始めての範囲攻撃だった。「これもパーティ戦だと範囲攻撃になるのか。」新たな発見をして攻撃に移ろうとしたとき、後ろから叫び声が聞こえた。声の主は「D」だ。全体を見渡せる位置にいた彼から出た言葉は、

「1隊、退却!2隊戦闘へ!」

その声を聞き周りを見てみると、囲んでいたメンバーがほとんどダメージを受けていた。それも相当ひどく、8割以上削られている。そしていまにもとどめを刺されそうなメンバーがいた。「A」だった。


手痛いダメージを受けてしまった。今考えれば挙動がおかしく二発目が来てもかしくないと思えた。油断しないことをあのクエストの日に誓ったはずなのに。油断してしまった。運が悪い事に次の攻撃は俺に決めたようだ。左前足でのスタンプ。足の影が俺を覆い、暗くなっていく。

つぶされる瞬間、左前足に何かがぶつかった。その衝撃で目を閉じてしまったが、次に目を開けた時「トラ」が倒れていた。何が起こったのかわからず、思案していると、「D」が声をかけてきた。

「一旦ひくよ。死ぬところだったけど生きててよかった。」

第2隊が攻撃に移り、第1隊の面々は各自回復に回っていた。

「Bさんが思いっきりボスの足をはじいてくれたから助かったよ。」

「D」から事の真相を聞いた。すぐに「B」に礼を言いに行った。

「ありがとうBさん。おかげで助かった。」

「範囲攻撃があるようなので気を付けましょう。それと、さっきのはもしかしたらボスの攻略法かもしれない。スタンプ時に今日攻撃をすれば吹っ飛してダウン効果を起こせる。とにかく今は回復と気持ちを落ち着かせて。」

体を休ませつつ目線は戦い集中している。他の人のピンチは自分が救うのだと気合を入れて。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る