第十話

十日目。昨日の話の通り、一人で3ステージの攻略に向かった。今日は建物の中を順に回ることにした。草原、熱帯雨林に通じるようにユニークモンスターは別種族のモンスターだった。そこから今後の推測が出来た。獣系や小人系のモンスターもいたが、「ミニデーモン」と呼ばれる悪魔系のモンスターや「機械」の形をしたモンスターがいる。特に多いのは巨人系のモンスター。スピードは遅いが耐久力が高い。きっと次のステージは巨人のステージだろうか。その中でレアモンスターを見つけた。「見習いリッチ」名前からアンデットを召喚しそうなイメージだったが、今回は現れず。ただし、異様に透明になってくる回数が多い。透明になられるとこちらからは攻撃に移れない。どうしても行動が後手に回ってしまう。

苛立ちと同時に一つの光明を得た。「感知」スキルだ。このスキルを常駐させながら戦う。MPの消費は今までより高くなるが、一段階早い状況で敵を視認することが出来そうだ。今はまだ雰囲気だけだが、あると無いとでは大違いだった。

攻撃自体は単調で背後に回って攻撃をしてくる事に終始していた。きた瞬間に攻撃すれば、透明な状態でも攻撃することができ、ダメージも与えられる。透明中は普段よりもスキが多い設定なのか、ダメージが大きく入った。


理屈が分かれば倒すことも容易だった。ドロップアイテムの中に「スカーフの切れ端」というアイテムが落ちた。落ちたアイテムの鑑定は十希に任せているので、すぐに送る。何かわかった場合すぐにメッセージが来る。必要なアイテムなのか判断してくれる。


次の建物に向かっている最中に早くも返事が来た。

―10個集めたら「リッチのコート」が作れる。効果が特殊で、ステータスは下がるが透明になることが出来る。透明中は素早くは動けない。―という説明文付きで来た。必須アイテムだとすぐに理解することが出来た。

「10個かぁ…」

作業が長くなりそうで、ガクリと肩を落とした。基本的にはゲーム内の1日でレアボスは出現する。という事は最短で10日だ。ドロップ率もどのように設定されているか分からないのでそれ以上かかるかもしれない。が、作る価値はとてもあるので今日から出現時間の確認が必要だった。基本的に、レアボスはゲーム開始時には全て出現していて、そのモンスターを倒すと次の出現時間に現れる。倒されるまで消えることは無く、最初から出現時間を把握することは難しい。出現時間が固定されているのは、広くプレイヤーに知れ渡っている。草原ステージのレアモンスターで誰かが計ったようだ。

「6着必要だから60個で60日…今日が十日目だから最短で70日目…リアルタイムで5日かかるとは中々に骨が折れそうだなぁ。」

移動しながら再びガクリと肩を落とした。

思ったようにこのステージからは徐々にレアモンスターのドロップが変わっていく。まだ未ドロップのレアボスもいるが、武器になったり、アクセサリーになったりするアイテムがいくつもあった。出来る事ならレアボスの管理は一楓達に任せたいが、まだ早いだろう。


最後にマップ最奥の建物。ここは変わらず、鍵を手に入れることが出来た。鍵を持っているのは「護衛ボーンナイト」今までで一番わかりやすかった。このモンスターは鉄の剣を装備していて、ドロップすることもある。石の剣よりも強く、トラの短剣よりも弱い。

スキルの幅を広げるだけでなく、正体を隠す意味でも両立している。短剣使用時には剣スキルを使うことができ、スキルのクールタイムを減らすのに重宝している。


鍵のドロップは一個しか無かった。周りをまわっていたので仕方なかったが、夕方になったのでリッチ出現地点に戻った。戻ったのが18時過ぎだ。ありがたいことにまだ出現はしていなかった。到着してからは、アイテムの整理をする。十希とのやり取りで、アイテムをもらったり、修理をしてもらう。手紙を使う事で、移動することは無い。信頼できる店があるから出来る芸当だ。優先度も高くしてもらっている事もある。すぐにアイテムの整理は終わった。ここから数時間またなければいけなかったのだが、この時間が苦痛である。何もせずただ待っている。今までこんなことは無かった。何もすることがない。ぼーっと過ごす。僕はこの時間が何より嫌いだ。

基本的に、他人とパーティを組んでいない時は誰かしら仲間とパーティを組んで情報をスムーズに流せるようにしている。今は十希しかパーティに入っていない。十希に話しかけても手をとめてしまう。ゲーム外の話は…もっとありえない。22時を過ぎたあたりで徐々に仲間が戻ってきた。今まで何もしていなかった状況が拍車をかけ中々会話に入れない。何もしない3時間弱。私生活ではありえないこの時間がとてもつらかった。


一楓が唐突に、

「リーダー起きてますか?何しているんですか?報告してください!」

怒り気味で話を振ってきた。でもこれも彼女の優しさである。今のネガティブでは口うるさい一楓の一言でさえとてもありがたく聞こえた。

「リッチの沸き時間をはかっている。やはりレアボスの管理は一楓達に任せたいのだが…?」

「そうね…。攻略も滞るし、出来れば私たちで回った方が得策かもしれない。一度全員で挑戦して理解出来たら担当を変えましょう。」

やはり気を使ってくれている。一人で攻略の寂しさではない。攻略のプレッシャーと何もしない時間の辛さについてしっかりと理解しているのだ。


23時の鐘が鳴った。と同時にリッチが出現する。

「沸いた!。今から倒す。時間計って!」

言うと同時に攻撃態勢に移る。先ほど戦った時よりも「感知」スキルのレベルは上昇している。より早く透明中の移動が見える。

自分の態勢、相手の移動から一番動きが少ない斬り方、左から回り込んで後ろに回る相手に、真正面から衝突出来る右薙斬りを選んだ。相手の移動速度と自分の回転速度がぶつかる一撃は相手のHPを大幅に削った。ステージボスのように何十種類の攻撃があるわけではない。当然タイミングも重要だが、攻略法として確立できそうだ。大ダメージを与える方法があった成果もあり、15分程で倒すことが出来た。「スカーフの切れ端」、ドロップは…なんと2個もあった。何故か仲間の皆から盛大にほめられ、ちやほやされた。こんな時は何かあると気が抜けない夜だった。


翌日は、とにかく鍵探しだ。前日に見つけたスケルトン系の敵「護衛ボーンナイト」を攻略する。討伐自体はそこまで難しくない。時間は掛かっても1時間も続ければ10体は倒せる。

そんな時にまた十希から連絡がきた。

「初期化工スキルがSになったんです~。」

「お、おめでとう」

忙しい時に褒めてほしいのか…?と困っていた。

「そしたら『合成』ってスキルが新たに使えるようになりました~」

「くわしく!!」

戦いの最中だったが、もう気になってしまって仕方なかった。

「まだスキルレベルが低いので全容は分かりませんが、同じ名前のアイテムを合体させて効果を強く出来るみたいです。」

「というか、他の内職系スキル育ててるプレイヤーとの差ってどのくらいなの?」

「他のお店に聞いてみるとまだ早くて『初期化工』がCみたいです。」

ここににも一人、攻略が段違いのプレイヤーがいた。

「『合成』はもう試した?」

そういってアイテム欄を除くと、「護衛ボーンナイト」からドロップした鉄の剣が12本ほどあった。

「試しに鉄剣10本送るから合成してみて!」

「了解!。」

新たな仕様を発見した時のテンションの上がり方は皆共通のようだった。冷静な十希もいつもより若干声が高かったような気がした。


しばらくすると十希から結果が返ってきた。手元に戻ってきたのは一本の鉄の剣。しかし名前の隣に「+3」と書かれている。

「合成には合成書というものも必要で、そちらの作成は百音さんにも手伝ってもらいましたので、お礼言ってね。一本目は+5まで行ったけど+6に挑戦で失敗したの。失敗すると素材だけでなく本体も消えるの。燃えたの…。」

「把握した。確率がどんどん低くなっていくんだろう。そうするともしかしたら確率を上げる素材とかもあるかもしれないからそれは詳しく調べよう。」

「OK。百音ちゃんにも伝えとくね。」

こうして、ここでの狩りはより長く必要になることが決まった。いくつまで上げられるのかは分からないが、それでもステータスアップはありがたい。+3になった鉄の剣でも初期と比べてだいぶ強くなっていた。

「これもまだ内密にしておこう。」

「わかってるよ。」

こうして我々だけが知りえる情報が増えていった。そのうち周りにもばれる時が来るだろうが、その時までに差をつけておきたい。

この武器を使えば14日までに、廃墟のステージボスを倒すことも出来るだろう。さらにまだ強い武器を手にすることも出来そうだ。とにかく鉄の剣集めとリッチ狩りを徹底的にしていこう。

「追伸、アップグレードには多額の費用が掛かるの。後でお支払いお願いします。」

あざとく言われたが無視して狩りを続けた。


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